第107話 誕生日デート⑦
「それでは、満天の星空の下へ皆さんをお連れ致します!」
そんなアナウンスと共に、会場は真っ暗になった。しばらくすると、段々と天井に小さな明かりがいくつも灯っていく。
そう。俺たちは今、プラネタリウムのイベント的なものに参加している。ネットで見たら、このイベント、かなりの高評価だった。その影響もあってか、俺たちの回もかなりのお客さんが入っていた。
「皆様、頭上をご覧ください。今映し出されているのは、春の夜空です」
ガイドさんの声につられて上を見上げると、そこには満天の星空。
「綺麗ですね……」
涼風がそう呟くのが隣から聞こえた。俺も反射的に頷いた。これは想像以上だった。見ているだけで、星空にどんどん引き込まれていくような感覚になる。そう、まさに星空に連れていかれているような。
「皆さんのちょうど真上に輝いていますのは……」
星の解説が始まったようだったが、そんなものは全く耳に入らなかった。目の前の星空を見つめるだけで精いっぱいだ。視線を頭上からだんだんと下へ移していくと、視界の端に涼風が映った。そこにいる彼女は、星々に照らされて、それはもう幻想的に、まさに例えるならばかぐや姫のように美しかった。
涼風が、俺の視線に気づいたのかこちらを向いた。そしてふっと小さく微笑んだ。
「謙人くん、とってもきれいですね……」
「あぁ、すっごくきれいだね。でも、やっぱり涼風が一番きれいだ」
俺は思わずそう言っていた。計画通り、なんてものではない。本当にそう感じた。ここに輝いている全ての星が、まるで涼風を際立たせるための飾りだと思えるくらい、光に照らされた涼風は美しかった。
「もう、謙人くんってば……」
涼風が俺の肩に頭を乗せた。その頭を、そっと、ゆっくり撫でていく。もうここがプラネタリウムのようには思えなかった。どこまでも広がる星空の中に二人きりで寄り添っているようだった。底知れぬ幸福感を抱いたまま、イベントの幕は閉じた。
「すっごくよかったです。もう一回見たいくらい」
本当にその通りだ。でも、出来ることなら次は、
「今度はさ、本物の星空を見に行こう。どこか、開けた野原に寝っ転がって、二人だけでゆっくり眺めていたい」
「謙人くんって、とってもロマンチストですよね。私も是非、そうしてみたいです」
自分でも、かなりロマンチックなことを言っていると思う。でも仕方ないじゃないか。それほどまでに涼風がきれいだったんだから。
もう二人ともプラネタリウムは大満足であったため、そのまま今日の最終目的地であるスカイタワーへと向かった。近づくにつれ、何やら行列ができているのが目に映る。
「すごい列ですね。一体何に並んでいるんでしょうか?」
ちなみにスカイタワーに行くことはすでに涼風に伝えている。とはいっても、そこから先は全てサプライズだ。その時が近づいているのを感じ、少し緊張する。
列の後ろまで行くと、プラカードを持った係の人がいるのが見えた。そしてそのプラカードには、『スカイタワー展望台入場待ち』の文字。
「まじか……、これ全部入場待ちかよ……」
「すごい行列ですね……」
かといってこれに並ばないわけにはいかない。そうしないと、今日の一番のイベントが水の泡だ。
「涼風、すごく混んでるけど、せっかく来たんだし並ばないか?案外すぐに入れるかもしれないし」
涼風も笑って頷いてくれた。
「そうですね。私も展望台、行ってみたいです。それに、謙人くんとお喋りしてればきっとすぐですよ」
ほっと一息。断られたらどうしようかと思った。
そして二人で、列の最後尾に並んだ。
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このところ、この作品が少し伸びているので、久々に一話更新します!
久しぶりだったので、内容を思い出すのにも一苦労……。どんなことも、一カ月のブランクって結構辛いですよね。
さて、ということでそろそろ誕生日デート編も終わりですね。ちなみに私はプラネタリウムのところを書いているとき、『君の知らない物語』がなぜかふと浮かんできまして。分かる方、いらっしゃいますかね?あれ。もう五年も前の歌だったんですね。時がたつのは早くてびっくりです。
とまあ、余計な話はここら辺で。こんな感じで、もう一作『幼かな』のほうを積極的に更新しつつ、余裕があればこっちもたまに更新。という形でやっていこうと思います。ぜひぜひ、どちらの作品もよろしくお願いします!
『チャットアプリを始めたら、疎遠になっていたはずの幼馴染からなぜかいきなり話しかけられるようになったんだが』
ピンク色の傘 はちみつ @angel-Juliet
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