エピローグ

 遮る者がいなくなった廃墟の中へと侵入。シャーロットを先頭に、周囲を警戒しながら奥へと足を進める。


 奥へと進むと、一つの部屋から焦りの混じった声が聞こえてきた。


「おい! 何事だ!」

「わ、わかりません……」


「討伐クエストの対象は『虎』じゃなかったの!」

「そ、そのはずですが……」


「じゃあ、なんでうちが襲撃されんだよ!」


「ケルン達と連絡は付かないのか!」

「ケルンの旦那は本業で『虎』退治に参加を……」

「クソッ!? どうなっていやがる!」


 ちなみに、ケルンという名前はミアが渡してくれてたメモに記載されていた冒険者の名前であった。


「リク? 終わらせていい?」


 カエデが明日の天気でも聞くような、平凡な口調で問い掛けてくる。


「少し待て」


 俺は【シルフィードアイ】を使用して、部屋の中を観察する。部屋の中の盗賊の数は六人。奪われた商品は……なし。別の場所に保管しているのか?


「いいぞ」


 俺はカエデにゴーサインを下す。


「ちょっと魔力を多めに込めようかしら。――フレイムバースト!」


 無情にも放たれたカエデの魔法は、目の前の部屋の中央で凄まじい爆風を巻き起こす。


「な、何事だ……」

「ひ、ひぃ……」

「あ、あづいよぉ……」

「も、燃える……」


 これぞまさしく阿鼻叫喚。部屋の中から盗賊達の悲鳴が響き渡る。


「た、助けてく――」

「ダメなのですよ」


 命からがら部屋から飛び出した、前進火だるまの盗賊をルナが斬り捨てる。


 爆風が邪魔で視認出来ないな……。範囲魔法でいっか。


 ――ファイヤアロー!


 俺は悲鳴が聞こえる部屋の中へ無数の火の矢を放つ。


「あひ!?」「へべ!?」「ぎゃっ!?」

 お!? 命中した。中から、火矢の被害に遭った盗賊の悲鳴が聞こえた。


 すると、部屋から身長二メートル近くある巨漢の影が見えた。


「て、てめえら! 何者だ! 俺様が『餓狼』の首領――」

「知らん! ――フレイムバレット!」


 俺は巨漢の影の頭部に炎の弾丸を見舞った。


「ぐへ……」


 バタリと倒れる巨漢の影。


 その後十秒ほど待つが、部屋から動く者はいなかった。


「終わったのか?」


「部屋の中に気配はないのですよ」


「終わりましたわ」


「ね? 言ったでしょ? 楽勝って」


 俺が呟くと、ルナは笑顔を浮かべ、シャーロットは澄まし顔で、カエデはとびっきりの笑顔で答えた。


 今なら、分かる。盗賊退治に悩み、怯えていた俺に、「はぁ? あんたバカァ?」と言っていたカエデの気持ちが。


 俺達は強かった。俺が思っていた以上に強かった。カエデがその強さを知っていたなら、あの言葉にも納得であった。


 その後、俺達は廃墟の中を探索。無事に奪われた商品と、『餓狼』が溜め込んでいたお宝を発見し、自宅へと持ち帰れたのであった。


  ◆


 『餓狼』壊滅から三日後。アドランから『虎血団』も無事に壊滅出来たとの報を受けた。『虎血団』のアジトで見つかった、奪われた商品は約款に則り、俺の所有物となった。


 その後、カシムにも協力してもらい、奪い返した一部の商品を支払った保険金と引き換えに、商人へ返還。保険金の方がいいと言う商人も多くいたので、残った商品はカシムに頼んで商業ギルドを通じて、換金した。


 唯一の誤算は強さに酔いしれて『餓狼』を壊滅してしまったことだ。


 生き残りがいなかった為、自白させる作戦が不意になった。しかし、偶然盗み聞き出来たケルンという冒険者が『虎血団』壊滅のクエストから意気揚々と帰還してきたので、そこを捕縛して、シャーロット監修の元、紳士的な尋問をしたところ、あっさりと白状したので、芋づる式で、保険金詐欺に加担していた冒険者と商人が捕縛出来た。


 この国の法制度では罰せないので、とりあえずは各ギルドのライセンスを剥奪。ついでに、盗賊に加担していたことを流布したので、社会的には抹殺できた。


 生き残るためには、盗賊に身を堕とすか、奴隷に身を堕とすしかないので、盗賊になったら、討伐しようと思う。


 こうして、俺を破産寸前にまで追い込んだ保険金詐欺事件は終息したのであった。


  ◆


「ご主人様! 今度は何をするのですか?」


「うーん、そうだな……。集めた保険金を増やす事業を始めるか。人材派遣会社とか、冒険者学校とか、シナジー効果が持てる事業を展開するのが理想だが……」


「しなじーこうか? ルナは次は教師をするのですね!」


「学校というキーワードしか理解出来なかったのか?」


 相変わらずのほほんとしている、へっぽこエルフ。



「リク様。カシム様の紹介で、魔道士ギルドから保険の相談が来ておりますわ」


「魔道士ギルド?」


「はい。何でも新開発した魔法のリスクを分散する保険を考えて欲しいとか?」


「ほぉ」


「このリク様の肉盾なるシャーロットが……新しい魔法をその身で全て受けて……ハァハァ……その威力を……ハァハァ……出来れば電撃系の新魔法が――」


 暴走するシャーロットの脳天に手刀を落とす。


「……ハァハァ……ありがとうございます」


 なぜかキリッとした表情で礼を告げる、変態。



「主。西国にて魔王の噂……」


「魔王? そんなファンタジーな存在いるのかよ」


「然り」


 諜報活動に精を出す、ミア。


「リク! この前話していった生命保険についでだな……」


 冒険者の生活向上の為に相談に訪れる、アドラン。



 女神が俺をこの世界に喚んだ理由は分からない。


 俺のしている事が、女神の思惑と合っているのかも分からない。


 でも、これだけは言える――


 ――この世界はまだまだビジネスチャンスが転がっている!

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異世界に転移した俺は保険会社を立ち上げて安定した生活を目指したい!〜その怪我、保険金おりますよ?〜 ガチャ空 @GACHA-SKY

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