保険金詐欺解決編⑥

 翌日。


 カエデと合流した、俺達は『餓狼』の拠点を目指した。『餓狼』の拠点は王都から離れた、山の奥だ。座標はミアから聞いていたので、俺達は補助魔法を駆使して、馬で駆けるのと同等の速さで山の中を疾駆した。


 通常であれば三日はかかった道のりを俺達は僅か六時間で駆け抜けた。


「あれが盗賊さんのお家ですか?」


 目の前には、山の奥にひっそりと佇む廃墟があった。


「見張りは三人か」


「見張りというか、入り口でくっちゃっべってるチンピラですわ」


 廃墟の前には三人の盗賊が、緊張感なく談笑していた。


「さてと……どうすべきか?」


 俺は、『餓狼』壊滅の為の作戦を思案する。


 現状、相手はこちらの存在に気付いていない。これは大きなメリットだ。このメリットを活かすのであれば、奇襲だ。こっそりと忍び込んで首領を暗殺という手段もあるが……ミアならばともかく、俺達にそんな技能はない。


「はぁ? あんたバカァ?」


 俺の呟きに、カエデが見下すような視線を向ける。


「カエデ様!」

「な、何よ!?」


俺を罵るカエデの言葉にシャーロットが声を張り上げる。カエデは身をビクッと震わせる。


「罵るのであれば……ハァハァ……この私を! ……ハァハァ」


「ごめん……あんたは本当のバカだわ……」


 シャーロットの言葉に、カエデは身を震わせる。


「カエデとシャーロットの心温まるコミュニケーションは置いといて、何かいい作戦があるのか?」


「な、何が心温まるコミュニケーションよ! あんた、やっぱり変態だわ! って、違う! 作戦? そんなの先手必勝に決まってるでしょ! あんたは【ファイヤーアロー】の準備をしていなさい」


 カエデは獰猛な笑みを浮かべると、廃墟の入り口の方へと歩き出し、杖を天に掲げる。


「【フレイムバースト】!」


 ――へ?


 カエデは廃墟の入り口へ向けて、大規模な炎の爆風を巻き起こした。


「しゅ、襲撃だああああ!」


「な、何事だ!?」


「討伐クエストのターゲットは『虎』じゃなかったのかよ!」


 蜂の巣をつついたように、廃墟から慌ただしい声が聞こえてくる。


「さぁ、ゴミ共がワンサカと巣から出てくるわよ! リク! 大掃除よ!」


 カエデは凄惨な笑みを浮かべて、楽しそうに笑う。


「クソッ!? 攻撃を仕掛けるなら先に言えよ! ルナ、近付いてくる敵を斬り伏せろ!」


「了解ですよ」


「シャーロット! 俺とカエデを守れ!」


「畏まりましたわ!」


 二人の返事を確認し、俺は左手に魔力を込める。


 ――【ファイヤーアロー】!


 無数に出現した魔法の火の矢を廃墟の入り口――廃墟の中から湧き出てきた盗賊へと解き放った。


 こうして、『餓狼』壊滅作戦は突如開始したのであった。


 俺達のアドバンテージは、距離。盗賊がこちらに到着するまでにどれだけ倒せるかが、勝負の分かれ目だ。


 ルナは剣を、シャーロットは盾を構えて、敵の襲来に備えている。カエデは派手な魔法が好みなのか、広範囲の魔法をひたすら放っている。カエデの魔法は全体に被害を与えるものの、トドメには至っていない。


 ならば、俺は各個撃破をすべきだろう。


 俺は左手の親指を立て、人差し指を伸ばして鉄砲の型を作り魔力を込める。


 ――フレイムバレット!


 炎の弾丸が一人の盗賊の頭を貫く。


 その後もフレイムバレットを続けざまに三発放つ。


 四人目の盗賊の頭を貫いた、その時――


 廃墟から無数の弓矢が飛来してきた。


 風の魔法で弓矢の軌道を逸らすべきか……どうすべきか。戦闘経験の薄さから、次に取るべき行動に一瞬の魔が差す。


「へっぽこエルフ! 私に向かって飛んでくる弓矢を打ち落としなさい!」


「はいです! でも、私はへっぽこじゃないのですよ」


 見た目に依らず戦闘経験が豊富なカエデが指示を飛ばす。


「変態貴族! あんたはリクに降りかかる弓矢を受け止めなさい!」


「畏まりましたわ! でも、私は貴族ではありません、リク様の肉盾ですわ」


 シャーロットは誤解を招く発言と共に、指示に従う。


「俺への指示は?」


「はぁ? あんたは好きに攻撃なさい!」


「了解だ」


 餅は餅屋。戦闘経験に優れたカエデに指示を仰ぐが、答えは……自分で考えろであった。


 視認出来る盗賊の数は四人。さっさと片付けるか。


 ――フレイムバレット!


 炎の弾丸が一人の盗賊の頭を貫く。


 ――フレイムバレット!


 続けざまに放った炎の弾丸が盗賊の頭を貫く。


 残り二人。俺は鉄砲の型を取った左手の銃口を次なる盗賊の頭にロックオンする。


「弾けなさい! ――フレイムバースト!」


 カエデの放った爆炎が生き残った二人の盗賊の命を刈り取った。


 あら? 俺は獲物を失った左手を銃の型のまま苦笑するのであった。


「ふぅ。目の前の雑魚は片付いたようね」


 カエデが満足気に笑みを零すが――相も変わらず廃墟からは弓矢が降り注ぎ続けていた。


「はわわ……。こっちはまだ終わってないのですよ」


 ルナは飛来してくる弓矢を斬り伏せながら、こちらに視線を送る。


「このまま弓矢を受け続けても……楽しくはないですわね」


 シャーロットが物足りなさそうに、こちらに視線を送る。


 カエデが倒した盗賊の数は二人。俺の倒した盗賊の数は六人。僅かな時間で八人の盗賊を倒した。しかも、こちらは無傷だ。


 お? ひょっとしなくても、俺達って強い?


 目の前に起きた結果が、俺に自信を与える。


「さくっと、『餓狼』を壊滅させるぞ」


「当然ね」「了解なのです」「畏まりましたわ」


 廃墟から弓を放ってる盗賊の数は、十二人。


「カエデは風の魔法で弓矢を吹き払え」


「私に命令するなんて生意気ね! でも、今回だけは従ってあげる――エアカーテン!」


 カエデの放った風の魔法が飛来する弓矢を吹き飛ばす。


「ルナとシャーロットは俺の後に続いて、飛んでくる弓矢を払え」


「了解なのですよ」「私はリク様の肉盾ですわ」


 フレイムバレットの射程距離は百メートル。


 廃墟から弓矢を放つ盗賊が射程圏内に入るまで、前進する。


 ――フレイムバレット!


 一発の炎の弾丸が、弓矢を放っていた盗賊の頭を貫く。


 その後も続けざまに放った六発の炎の弾丸が、弓矢を放っていた盗賊を六人、駆逐。


 残りは三人。左手の銃口に模した人差し指を次なる獲物にロックオンすると……。


「奴だ! 奴を殺せ!」


 斧や、剣などの獲物を振り上げた四人の盗賊が廃墟から飛び出てくる。


 飛び出た盗賊をロックオンすべきか、廃墟から弓矢を放っている盗賊を引き続きロックオンすべきか……。


「シャーロット、一人でご主人様を守れるです?」


「当然ですわ」


「では、出て来た盗賊さん達はルナが倒すのですよ」


 ルナとシャーロットは互いに視線を合わせると、ルナが剣を構えて廃墟の入り口へ疾駆する。


 四対一。多勢に無勢だ。


「ルナ! 一人で大丈夫なのか」


「余裕なのですよ」


 ルナはあどけない笑みを俺に浮かべると、ダンスを踊るように盗賊の攻撃を躱し、一人、また一人と斬り伏せていく。


 対人戦をするルナは初めて見るが……これは強い。ルナの元々の容姿も相まって『剣姫』と呼ぶに相応しい、可憐さと強さを見せてくれた。


 っと、俺は俺のミッションを終わらせるか。


 襲撃してくる盗賊はルナに、飛来する弓矢はカエデの魔法とシャーロットの盾に任せて、俺は、次々と弓矢を放つ盗賊を駆除した。


 『餓狼』殲滅作戦から三十分。


 『餓狼』の拠点である廃墟の前は静寂に包まれていた。僅か三十分の時間にて、計二十二名の盗賊を駆除したのであった。

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