保険金詐欺解決編⑤

 善は急げ。カエデとは明日のアポイントを交わして一旦別れ、俺は盗賊退治の準備を進める。


 本当に四人で勝てるのか? 不安は正直ある。


 しかし、盗賊を壊滅しなくては、どちらにせよ死に体だ。異世界でも姑息な保険金詐欺に騙されて人生を棒に振る? それでいいのか?


 いいわけないだろ!


 俺は襲いかかってくる不安を吹き飛ばし、前進するのであった。


 まずは、ルナとシャーロットに明日『餓狼』の壊滅に向かうと告げた。


「了解なのですよ」


「畏まりましたわ」


 二人の返事は、意外にもあっけらかんとしており、俺は拍子抜けした。


  ◆


 次に、俺はアドランの元を尋ねた。


「お? リクか。何か解決策は浮かんだのか?」


「あぁ。その件で、アドランに頼みがある」


「なんじゃ? 言ってみろ」


「大規模クエストを発行して欲しい」


「ほぉ……結局、そうなるのか。分かった。『餓狼』の討伐クエストを――」


「待て! 話を最後まで聞いてくれ」


 俺は残念そうにため息を吐くアドランの言葉を遮る。


「む? 何じゃ? 『餓狼』の討伐クエストを発行して欲しいのじゃろ?」


「違う。俺の頼み事は大規模クエストの発行だ。『餓狼』の討伐クエストではない」


「む? 違うじゃと? じゃあ、何のために大規模クエストを発行するのじゃ?」


「大規模クエストの内容は――『虎血団』の壊滅だ」


「『虎血団』じゃと!?」


 俺の頼み事を聞いたアドランは大口を開けて驚いた。


「あぁ。そうだ。しかも、決行日は明日にして欲しい」


「しかも明日決行じゃと!? いや、待て。そもそも何で『虎血団』なんじゃ? 確かに奴らに襲われた商隊もいるが、保険期詐欺をしたのは『餓狼』じゃなかったのか!?」


 俺の頼み事にアドランは早口で質問を捲し立てる。


「理由は二つある。一つは奴らに奪われた商品を取り返したい。奪われた商品の総額は五十万G以上はあったはずだ。報酬金はその五十万Gを使ってくれ」


「盗賊団を壊滅で、報酬が五十万Gか……。まぁ、少し足りないがそこはギルドからも追銭しよう」


「助かる。二つ目の理由だが、『餓狼』の協力者の排除だ」


 俺は指を二本立てて、告げる。


「協力者の排除だと?」


「そうだ。奴らは二十八名しか所属していない小規模な盗賊団だ。しかし、なぜ裏の業界で幅をきかせているのか? 答えは――協力している冒険者の存在があるからだ」


「そう言われると……立場上、辛いのぉ」


「別にアドランを責めるつもりは無い。俺の調査によると、『虎血団』と『餓狼』は敵対関係にある。『虎血団』壊滅のクエストであれば……『餓狼』の協力者も喜んで参加するだろう」


 ちなみに、この事実はミアが調査してくれた。


「確かに、そうなるかもしれんな」


「ならば、その隙に『餓狼』を壊滅させればいい。厄介な冒険者の邪魔立てさえ入らなければ……『餓狼』の壊滅は容易だろう」


「容易だろう……と言うが、誰が壊滅させるのじゃ? 流石に高ランクの冒険者が『餓狼』の壊滅に乗り出せば、陽動とバレるかもしれんぞ?」


「無名のDランクの冒険者と、ちょっと知名度の高いCランクの冒険者、後は性格に難のあるDランクの冒険者と、天才魔道士で壊滅するさ」


 俺は笑みを浮かべて答える。


「誰の事じゃ?」


「俺だよ。俺とルナとシャーロット、ついでに加勢してくれる知り合いの四人で『餓狼』を壊滅させるよ」


「は? リク、お主が?」


 アドランが間の抜けた面で、問い返してくる。


「あぁ、そうだ」


「しかし……確かに、ルナの剣の腕は儂の耳にも届いておる。しかし、リク。お主は……!? ひょっとしてあの噂は本当じゃったのか?」


 アドランは考え込むように言葉を紡ぐ途中で、何かを思い出したかのように大声をあげる。


「あの噂?」


「そうじゃ。リク、お主が『カルテット』という噂じゃ!」


「あぁ……その話か。真実だな」


「な!?」


 アドランは大口を開けて固まる。


「ついでに言うと、加勢してくれる知り合いも『カルテット』だぞ?」


「な!?」


 既視感? アドランが大口を開けたまま固まる。


 そういえば、アドランとは保険の話ばかりで、俺自身の事を話した事は余りなかったな。


 俺はこの世界に来て初めて出会った人物がカエデであった。そのカエデが『カルテット』だったため、珍しいという認識はあったが、それ以上にツンデレSという特性に目を惹かれてしまい、気にしていなかった。


 ひょっとして、『カルテット』って凄いのか? となると、あのツンデレ狐幼女は、本当に凄い魔法使い?


 俺は今までのカエデとの想い出を振り返る。……ないな。あれが高名な魔法使いな訳がない。


 俺は首を横に何度も振って、頭に浮かんだ可能性を否定する。


「リク! お主は冒険者として名を馳せようと思わなかったのか!」


 突然のアドランの大声に俺はビクッと身体を震わせる。


「そして、お前の知り合いとは誰じゃ!」


 俺の答えも聞かぬまま、アドランは大声で質問を重ねる。


「えっと、カエデとか言うツンデレ妖狐族」


「な!?」


 何度目か分からぬ、アドランのフリーズ。


 アドランはカエデを知っているのか?


「な、な、何じゃと!? お主は『リトルウィッチ』の知り合い……いや、弟子だったのか!?」


「えっ? 違うぞ」


 あんな幼女の弟子になった記憶など全くない。ってか、あいつも二つ名あったのかよ。


「むむ? しかし、カエデという名の『カルテット』の妖狐族なぞ……『リトルウィッチ』しかおらぬぞ」


「多分、知り合いはその『リトルウィッチ』? だが、断じて弟子ではない」


「しかし、あの気ままな『リトルウィッチ』が盗賊団の壊滅を手伝うとは……可愛いの弟子の為としか……」


 アドランが何やらぶつぶつと呟いている。カエデって相当メジャーな人物なのか? 常に金欠で飯をたかっているイメージが強いのだが……。


「まぁまぁ、弟子じゃ無いけど……その『リトルウィッチ』も手伝ってくれるから、『餓狼』の壊滅は任せておけ」


「そうじゃな、『リトルウィッチ』の助力があるなら、心配は無用かもしれぬな」


 アドランはようやく落ち着きをみせた。


「だから、アドランは先程の頼み事――大規模クエストの発行を任せたぞ」


「フンッ! 大船に乗ったつもりで任せておけ!」


 アドランは獰猛な笑みを浮かべて、胸をドンと叩いた。


「最後にさっきの質問の答えだが――なぜ冒険者として名を馳せないのか? お金を稼ぐのが一流かも知れないが、真の一流はお金を稼げる仕組みを作る存在、ってのが答えかな」


「は? お主は何を言っておるのじゃ? 冒険者としては、不細工な答えじゃな」


 ドヤ顔で決めた俺の言葉をアドランは一笑するのであった。

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