保険金詐欺解決編④
その日の夜にアドランを訪れて、今回の調査の顛末を報告した。
「そうじゃったか……。人々を守る冒険者が盗賊と結託とは……世も末じゃな」
「冒険者も千差万別ってことだろ」
アドランは冒険者も加担していると知って、酷く落ち込んでいた。
「して、どうするのじゃ? とりあえず、その不届き者達のライセンスは剥奪するぞ?」
「いや、それは待ってくれ。下手にアクションを起こして、こちらが気付いていると、気付かれたくない」
「うむ……しかし……。リクはどうしたいのじゃ?」
「そうだな。とりあえず、被害は最小限に抑えたい。まずは、ここ三十日以内に王都に入った冒険者のみの護衛を禁止してくれ」
「むぅ……それは……冒険者は自由をモットーとしておる。指名クエストならともかく、一般的なクエストで選別をするのは……」
「とりあえず、研修とか、教官とか、名目は何でもいい。アドランが信頼出来る冒険者をセットで組ませてくれ」
「わかった。何とかしてみよう」
アドランは眉間に皺を寄せるも、絞り出す声と共に首を縦に振る。
「して、リクはどうするのじゃ? 『餓狼』だったか? そいつらを壊滅するつもりなら、クエストを発行するぞ?」
「いや、下手に逃げられたくない。何とかするさ」
「ふむ。そうか……儂に協力出来ることがあれば遠慮せずに言うのだぞ」
「助かる」
俺はアドランに礼を告げて、その場から立ち去ったのであった。
◆
三日後。ミアから『餓狼』の調査結果が報告された。
盗賊団『餓狼』――結成は一年前。元Bランク冒険者が結成した盗賊団。所属人数は二十八名。所属人数は少ないが、交友関係にある現役の冒険者や裏家業の協力者が多数おり、それらの人数を含めたら百人は超えるらしい。主な収入源は、裏取引。盗賊稼業で奪った積荷の売買の他に、金貸し、娼館、奴隷商を営んでいる。三日後に三百万Gを超える、大口の取引をすると、裏の業界で噂になっているらしい。
盗賊というより、ヤクザだな。
ミアに【神の瞳】があれば詳細な戦力がわかるのだが、それは無い物ねだりだ。
とりあえず、二十八名を倒せば壊滅するんだよな? ミアは戦力としては心もとないし、俺、ルナ、シャーロットの三名で倒せるのか?
アドランに助力を求めるか?
二十八人の盗賊を倒すのに必要な人員って何人だ?
考えが纏まらないので、俺は気分転換がてら外へと散歩に出掛けた。
◆
「あ!? 丁度いいところに! ご飯を一緒に食べてもいいわよ」
フラフラと考え事をしながら歩いていると、声が聞こえた。気のせいだろう。
「ちょ!? あんた! 私を無視するの! いい度胸ね!」
甲高い声を上げる、騒音の元凶へと目を向けると、銀髪の狐耳を生やした少女――カエデがいた。
「あ、お前か」
「お前か、じゃないでしょ! この私がご飯に誘ってるのよ? 何で無視するのよ!」
無い胸を張って、ドヤ顔のカエデ。
「誘う……? たかるだろ?」
カエデは、俺が保険で儲けていることを知ってから、ちょくちょくご飯をたかってくる。
「たかるって失礼ね! レディーにご飯を誘われたら、喜んでお金を払うのが男の甲斐性でしょ!」
「レディー? どこだ? まぁ、いいや。腹も減ったし、一緒に飯食うか?」
「キィィィ!? 相変わらず失礼ね」
周囲を見渡す俺に、地団駄を踏むカエデ。
「ん? 飯に行かなくていいのか?」
「い、行くわよ! 一緒に食べてあげるわよ」
これも、ツンデレ……なのか? とりあえず、カエデと飯を食うことになった。
安いと評判の大衆食堂で、日替わりランチを食べ終わった。
「で? あんたは何を悩んでいるの?」
お腹が膨れたカエデは、多少は柔らかい物腰で俺に問い掛ける。
「ん? 悩んでいるように見えたか?」
「見えるわよ」
「そっか、実は――」
俺は解決策を求めるためではなく、自分の頭を整理するために、自分の状況をカエデへと話した。
つらつらと十分ほど話した。考えを言葉にすることで、頭の中は整理された。何より、誰かに聞いて貰うことでスッキリした、と思ったが……。
「はぁ? あんたバカァ?」
どうやら、俺は話す相手を間違えたようだ。相談した訳ではないが、返ってきた答えは辛辣な一言であった。
「はいはい。バカですよ。お子ちゃまに話した、俺が何よりバカでした」
俺は自暴自棄になった答える。マジで損した。スッキリした、と感謝した気持ちを返して欲しいくらいだ。
「誰がお子様よ! じゃなくて、私が言いたいのは、そんなの悩む必要ないでしょ? ってことよ」
「は? お前、俺の話聞いてた? 破産しそうなんだぞ? 窮地に立たされているんだぞ」
カエデの辛辣な言葉に、俺も熱くなって言い返す。
「聞いてたわよ。その『餓狼』? とかいう盗賊団と壊滅させれば解決するんでしょ?」
「まぁ……そうだが。そんな簡単に言うなよ」
「はぁ? あんた、やっぱりバカァ?」
「だ・か・ら……なんで、そこでバカになるだよ!」
カエデの余りにも酷い態度に、俺は激昂してしまう。
「ハァー……。本当にわかってないの?」
「何をだよ?」
ため息を吐いて呆れるカエデに、俺は問う。これで、カエデの答えが理不尽なモノであったら、俺は今回の飯代は絶対に出さない。
「自分の強さよ」
「自分の強さ……だと?」
真剣な表情で答えるカエデの言葉を、そのままオウム返しで問い返す。
「そうよ。あんたは『カルテット』なのよ。恐れ多くも、天才魔道士と呼ばれた私と同じ『カルテット』なのよ。しかも――」
熱を帯びたカエデの答弁が続く。
「あんたの従者のアホエルフ! エルフとしては、アホだし、魔法の才能も皆無だわ。でも、剣のレベルは相当よ。私の見立てではAランク相当の実力があるわ」
褒めているのか、貶しているのかいるのか、よくわからないカエデの答弁は更に熱を帯びる。
「そしてもう一人の変態従者! 性格は破綻してるわ! 友達になるのは絶対に無理! でも、彼女も守護者として一流よ。彼女と一緒に狩りをすると安心して魔法を使えるわ」
またしても褒めているのか、貶しているのか、よくわからないカエデの答弁が続く。
ソロ活動をしているカエデとは、気分転換の冒険でたまにパーティーを組む。ギャーギャー文句を言ってるだけの印象が強かったが、意外にこちらの戦力を分析していたようだ。
「私は一人旅が長かった。旅の道中で盗賊と衝突することもあったわ。その経験から教えてあげる。あんた達なら余裕よ。盗賊団の一つや二つ……余裕で壊滅出来るわ」
「本当か……?」
「えっ? あんた本気なの? 何がそんなに不安なの? しょうがないわね……あんたの不安を払拭してあげるわ」
「ほぉ……」
「ここいらでご飯のお礼を返してあげる。私が手伝ってあげる」
「は?」
「はぁ? あんた耳まで悪くなったの? わ・た・し……この天才魔道士のカエデが盗賊退治を手伝ってあげるって言ってるのよ」
「えっ……いいのか?」
「あんたには、ちっちゃい、ちっちゃい借りがいくつかあるからね」
カエデは照れているのか、雪のように白い肌が紅く染まる。
デレ期なのか? ついにデレ期が訪れたのか?
くぅー……! からかいたい! 照れるカエデをからかいたい! しかし、ここで機嫌を損ねる訳にはいかない。
「助かる。改めて頼む。盗賊退治を手伝ってくれ」
俺は真剣な表情でカエデへ右手を差し出す。
「しょ、しょうがないわね……今回は特別なんだからねっ」
カエデは頬を紅く染めながら、俺の差し出した手を握り返してくれるのであった。
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