保険金詐欺解決編③

 自宅に戻った俺は書斎に一人籠もり、今回の保険金詐欺の解決策を思案する。


 今回の保険金詐欺の内容は単純だ。保険の加入者である商人と、護衛を務める冒険者、そして積荷を奪う盗賊の三者が結託。商品をそのまま盗賊に渡して、奪われたと虚偽の報告をして保険金を騙し取る。


 第三者である護衛を務める冒険者までもが、保険金詐欺に共謀しているというが、今回の件を解決するのに、大きな阻害要因になっている。


 保険金を支払う時に、保険金詐欺をしていない証拠を出せ、とは言えない。そんなことを言い出せば、誰も保険を信じなくなるだろう。とは言え、こちらで保険金詐欺だ! という証拠を出すのも難しい。本来であれば、第三者である冒険者が証言してくれればいいのだが、その第三者が保険金詐欺の片棒を担いでいる。


 名探偵のように「お前達の犯罪は知っている!」と言っても、解決はしないだろう。


 まずは、物的な証拠だな。これは、盗賊が奪った積荷を取り返せばいいだろう。保険に加入する時に、対象となる商品の品目は控えてあるので、照合すればいい。


 これで商品を奪った盗賊が判明すれば、後は自白させればいいのか?


 盗賊、商人、冒険者。今回の保険金詐欺で共謀するこの三者は、お金のみで結び付いている。自分が不利になったら相手を庇うとは思えない。


 そして、何より大切なのは損失の補填だ。騙し取られた保険金を奪い返さなくては、俺の人生は終わってしまう。


 しかし、すでに支払った保険金を取り返すのは厳しいだろう。保険金を受け取った商人は、恐らく借金まみれの商人ばかりだ。すでに、手元に保険金が残っているのかも怪しい。


 しかし、俺には解決策があった。


 元の世界――日本の盗難保険は幾つもの種類がある。


 一番、メジャーなのは火災保険に付与出来る盗難補償。ちなみに、火災保険に盗難補償を付けても、家財も保険の対象に含めなければ、盗難されたものは補償されない。一般的な建物のみの補償の場合は、盗難に遭った時に壊された窓などの修繕費が補償されるだけだ。これを勘違いしたお客様からよくお叱りの声を頂いたな……と、いかん、いかん。過去に逃避してしまった。


 他にも、ゴルフ保険に付いている盗難補償、旅行保険に付いている盗難補償、自動車保険の車両保険に含まれている盗難補償など。


 これらの保険には一つの共通する特徴があった。その特徴とは、盗難されたものが発見された時は、盗難物の所有権は保険会社が有するということだ。盗難されたものの所有権を返して欲しい場合は、受け取った保険金を全額返済しなくていけない。


 保険はマイナスをゼロに戻す為の制度であり、プラスに転じさせる制度ではないということだ。


 俺は、盗難保険を商品として形にする時に、過去の記憶を思い出し、その条項を加えていたのだ。


 つまり、商品を取り戻せば、全ての所有権は俺へと移る。保険金は全て仕入れ値で算出している。商業ギルドの協力があれば、恐らく損失は補填出来るであろう。


 となると、解決策は一つ――盗賊団『餓狼』の壊滅だ。


 『餓狼』の頭領を捕まえて自白させる。ついでに、商品を取り返して損失を補填する。


 かなり力業だが、解決策は定まった。


 俺は、『餓狼』の壊滅する為の手段を考える。


 冒険者ギルドに依頼して、『餓狼』を壊滅させるか?


 答えは、否だ。


 今回は冒険者が加担している。流石に、加担している冒険者は少数派だとは思うが、仮に『餓狼』壊滅に冒険者ギルドが動いていると知られたら、雲隠れされるかも知れない。俺は、商品を何が何でも取り返さなくてはいけない。


 そうなると、自力しかないのか?


「ミア! ミアはいるか!」


 俺は大声で叫ぶ。余談だが、ミアと叫ぶと「ミャー」と猫の鳴き声の様に聞こえる。


「……主、ここに」


 ミアが静かに姿を現す。


「盗賊団『餓狼』を知っているか?」


「名前程度は」


「規模と強さを調べろ」


「……承知」


 ミアが静かに頷く。


「そういえば、調査の結果は? 何かわかったか?」


 ミアに調査を依頼してから一日だ。期待はせずに尋ねる。


「……僅か、ですが」


 ミアは一枚の紙を俺に手渡す。渡された紙には、何人もの名前が記載されていた。


「これは?」


「最近、王都に来た冒険者の一覧」


「ほぉ……」


 たったの一日でよくこれだけの名前を調べたものだ。俺は感嘆の声を漏らす。


「よくやった」


 俺はミアの頭を撫でる。


「……ニャ!?」


 突然伸ばされた俺の手にミアは、甲高い声を上げる。


「すまん……嫌だったか」


「そ、そんなことないにゃ」


 ミアは顔を赤らめて答える。俺はそんなミアを見て、更に頭と猫耳を撫でる。


「……主、行ってくるにゃ」


 暫く、目を細めて気持ちよさそうに頭を撫でられていたミアであったが、気配を察したのか、突然部屋から出て行った。


「あら? ミアちゃん、どうしたのです?」


 ミアと入れ違いにルナが部屋に入ってくる。


「チッ……ルナか」


「えっ!? ルナ、いきなりご主人様に舌打ちされたです!?」


 ミアの猫耳をもう少し堪能したかった俺は、思わず悪態を付いてしまう。


「まぁ、いいか。ルナ。このリストに載ってる冒険者と親しい冒険者を調べてくれ」


「は、はいなのです」


 俺はミアから受け取ったリストをルナに手渡す。王都以外から来た冒険者が全員シロとは限らない。念には念を入れてルナに調査を依頼する。


 盗難保険の損害率――保険金の支払いは日々膨らんでいる。解決にはスピードが求められる。俺は、自身の破産を避けるために、行動を起こすのであった。

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