Epilog Vol.3 そして……

 それぞれが忙しく駆け回った1年……いや、まだまだ忙しい日々は続いていくのだろう。


 リーンバイルやグレンシャへのルート整備は一応形になったけれど、外国人の受け入れはこれからが本番だし、大陸北部を横断する街道を作るという一大事業も控えている。それに、マシュー達の調査やミシェルの商売もまだ始まったばかりだからね。


 公共事業や娯楽品の販売、観光事業に映画館の建造……これらの事は平和になった今だからこそやらなければいけないことだし、うちのパイロット達にそれが出来る余裕が出来たというのは何より幸せなことだと思う。


 でもさ、あの皆と共に戦った日々を思い出して……どこか寂しく感じてしまうのは仕方がないよね……? いつまでもみんな一緒だとは思っては居なかったけれど、やっぱりこうして離ればなれになっちゃうと……どうしてもね。


 けどね、今日と明日だけは特別、特別な日なんだ。ふふ、だからね、そんな忙しい皆がね……今日は久々に集まっているんだ!


 明日はあの決戦から1年を迎える『平和記念日』で、明日からはもう一つの記念日が産まれる日。


 だから久しぶりに、ほんと久しぶりにブレイブシャインの皆がルナーサの『あの丘』に集まっているんだ。


 ルナーサを眼下に収める丘の上。そこに並ぶのはコンテナ型の『おうち』が5棟。おうちの前には盛大に燃える焚き火があって、それを囲むように皆が座って居る。


「あれから結構時間が経ってしまったけれど、ようやく約束が果たせたね」


 しみじみと、安堵と嬉しさを込めてそう言うと、皆が同意するように、うんうんと頷いている。


「いつかみんなで……またこの丘からルナーサの夜景を見ようって言ったもんね」


「見てくださいな、カイザーさん。どうですか? 以前より輝きを増したルナーサの夜景は。わたくしはこれをもっともっと煌めかせてみせますわ! それには後もう少しの頑張りが必要ですの。

 それが叶った暁には……わたくしを……もう一度、あの素晴らしき冒険の日々に連れて行って下さいね?」


 この街は以前帝国軍……いや、ルクルァシア軍に占拠されてしまった。破壊行為を好んでしない性格が幸いし、壊滅的な被害こそ免れたものの、全く無事とはいかなかったからね。戦争の後は暫くの間、戻った住人達によって復興作業が続けられていたんだ。


 それがようやく終わり、ミシェルの功績もあって以前より賑わいが増えたルナーサは前に見た夜景よりもずっと綺麗な輝きを見せている。


 でも、ミシェルにとってこれはまだ始まったばかり。


 これから始まる海上貿易が齎す未来に賭けて、さらなる発展を見込んで、街をもっと大きく、利便性が高い場所へと生まれ変わらせるために日々忙しく奔走しているんだ。おもちゃメーカーの社長さんに、総支配人アズのお手伝いと、ほんとミシェルは大忙しだ。


「あたいもさ、発掘調査が粗方終わったらカイザー達と一緒に冒険したいなって思ってたんだ。ミシェルも来てくれるんなら……結構賑やかになりそうだな。ま、それにはまだ……もう、ちーーっと時間がかかりそうだけどな」


 旧ボルツ領は広大で、危険箇所もあるためその作業は難航を極める事だろうね。けれど、以前の紅き尻尾とは違って旧機兵文明の知識をヤマタノオロチから提供されたケルベロスの存在、そして更にポーラからのサポートも得られるようになったため、その作業はだいぶ楽になったみたい。


 なので、マシューと共に冒険が出来る日はそう、遠い日ではないのかもしれないね。


「私のところは島内の人口が倍以上に増えててんてこ舞いでござる。

 ありがたい事に、島に住みたいと言う方々も結構いらっしゃって、暫くの間は島内の開発に時間を取られそうです。

 でも……それが落ち着いたら……私もまた皆と共に胸躍る冒険に行きたいです!」」


 島の物珍しさにつられて上陸した観光客や商人たちの中に、そのまま移住を決めてしまった人たちがそれなりの数存在するようだ。


 あの兄はもちろん――頼りにならないのだけれども、両親もまたシグレと比べると開発事業というものを上手く回せないようで、暫くの間はシグレが上に立って音頭を取る必要があるみたい。


「私達は何時でも一緒に冒険に行きたいって思ってるんだけど、そうは行かないというか、させてもらえないというかでねえ……」


「ああ、っつうか、レニーとフィオラの母ちゃんさ、人使いが荒いんだよな! 美人だし、優しいし、穏やかで好きなんだけどさ、ニコニコしながらどんどん仕事を回してくるから……ま、その分沢山稼がせて貰ってるけどね! いっしっし」


 2人は街道の整備事業が粗方片付いた後も、そのままグレンシャに残り、シグレ同様にグレンシャの開発事業に関わっているらしい。


 建築に関しては2人の能力がというより、キリンのチートじみたスペックが頼りにされているみたいだけど、その他にも各国を歩き回ったフィオラのアドバイスでグレンシャならではの名物を売る店を考案し、酒屋の娘であるラムレットがそれらを上手く運営するアドバイスをしたりしているらしい。


 もちろん、その他にも手付かずだった資源の調査などもあって、彼女たちはまだ暫く忙しい日々が続きそうだ。


「ふふ、皆と一緒に旅が出来ないのは残念ですが、それぞれ活躍しているようで嬉しいですよ」


「そうだね。それに、今日こうやってまた揃って会えてさ、いつかの約束も果たせたし」


「ね、カイザーさん、みんな。今度は『みんなでまた冒険しよう』って約束しない? 私さ、この丘で約束したことはきっと叶うと思うんだ」


「いいな! それ!」

「やりましょう!」

「ええ、この場所で言えばきっと叶います」

「巫女の私も居るし、効果は倍増だよ!」

「ああ、そうだ、やろうぜ!」


「ふふ、そうだね。じゃあさ、折角だし……アニメの最終話の台詞を拝借してやってみよっか」

「良いですね、カイザーさん! ほら、みんな立って立って! 竜也達みたいにぐるっと集まって手を乗せて!」


 炎の明かりに照らされながら私達は手を重ね、声も重ねて星と夜景に誓う。


「私達、ブレイブシャインはいつの日か、再び集って冒険をすると約束する!」

「「「「約束する!」」」」

「ブレイブシャインの輝きは永遠に続くと約束する!」

「「「「約束する!」」」」


「はは……あはははは! ちょっと恥ずかしいけど、気持ちよかったね」

「ふふ、カイザー。その割には気合いの入れ方が凄かったですよ。ルゥちゃんじゃなくて、本体でやればもっと締まったのでしょうけれども、何だか可愛らしくって」

「ちょ、なんて事を言うんだよスミレ……あ、こら、みんなも笑うなって!」


「「「「あははははは」」」」」 


 これからの事、そしていつかの未来の事に思いを馳せた皆の表情は生き生きとして、夜景に負けず美しく煌めいていた。


 ――翌朝 ルナーサ港


「では、皆。行ってくるよ! 後の事は任せたからね。フィアールカ2号、基地は君に預けたぞ」


「2号はやめろなの! フィアールカに1号も2号も無いの! でも、留守は任せてほしいの。皆忙しいし、仕方なく総司令官代理を任せられてやるの!」


「カイザー、スミレくん、レニーくん。君達だけにこんな事を任せてしまうのは申し訳なく思うけれど、無理の無い範囲で頑張ってくれ! みんな君達に期待しているからね!」

「ああ、任せてくれアズ! きっと良い報告を持ってくるさ」


「アズが俺のセリフ取っちまったからよ、俺から言うことはあんましねえが、この大陸……シャイナー大陸の事は俺達に任せとけ。各国手を取り合い、何があってもお前達の帰る場所は守り通すからよ」

「ありがとう、レイ。そんな事が起きないのが一番だけど、何かの時は頼んだからね。というか……やっぱりそのシャイナー大陸というのはちょっと恥ずかしいな」


「へへ、カイザー達が活躍し過ぎちまったのが原因なんだ。そんくらい我慢しろ!」

「そうだぞ、カイザー! レニーもだ! ほんと立派になっちまって……ちゃんと無事に帰ってこいよ!」


「リックさん……おっちゃん……」

「リックもアルバートもありがとう! ……っと、わ!」


「カイザーさあああん! 私も連れてってーー! ……って言えたらほんと良いんですけれども、それは許されませんでした……。うう、カイザーさん、きっと無事に戻ってくださいね。レニーさんも、スミレさんも! それまでにパインウィードのギルドをおっきくして、私がサボれるようにしておきますから!」


「スー……。ありがとうね。でもサボっちゃダメさ。君が居るおかげでハンターたちは何時も安心して仕事ができてるんだからね。でも、今日はルナーサまで来てくれてありがとう」


「カイザーさん、スミレさん。レニーちゃんをお願いしますね。貴方がたならそれが叶うと信じていますが、これまでにない大事業です。心配するのは親の役目として許してください」


「あなたは本当に心配性ねえ。レニーちゃんは宇宙にまで行ってきたのよ? それに比べれば同じ惑星内。近所に行くようなものです。 ……でも、レニーちゃんのこと、よろしくおねがいしますね」


「はい、任されました。ジーンさんもアイリさんもお元気で!」


 次から次へと色んな人達が私達のもとに挨拶にやって来る。なんだか1年前の祝勝会を思い出すね。


 ……と、そろそろ時間だな。


「カイザー、では出発前に改めて挨拶を」


 スミレに促され、ステージに上る……と言っても、予めステージ上に立たせておいた『カイザー』に戻るだけなんだけれども。


「見送りに集まってくれた皆、今日は本当にありがとう! 以前話した通り、我々が住むこの世界にはこの大陸以外にも多数の大陸が存在している。

 その大陸に何が有るのか、我々以外の人類が住んでいるのか、文明があるのか、国家があるのか……大陸が真に平和になった今、その調査をする時が来たと言えよう。

 しかし、まだ長距離の航海を安全に行えるかと言えばそうではない。当たり前に調査団を送ってしまえば多大な犠牲が生じることだろう……。

 しかし、私という存在がいればそんな犠牲を産まずとも安全に探索が出来るだろう。

 なので、まずは俺達……俺とレニー、スミレが先遣隊として出発し、現地までの安全な航路を確立すると共に、未知の大陸が安全なのかどうか、人がいる場合、交流が可能なのかどうか調査をする。

 この事業はシャイナー大陸がより一層の発展を遂げるためにも、必要不可欠な事だと思う。だから、みんな。どうか笑顔で我々を送り出してほしい。そして、土産話を期待して待っていてほしい。

 ――では、みんな! いってきます!」


「行ってきまーす!」


「「「「いってらっしゃい!」」」」

「元気でなー!」

「がんばれー!」

「待ってるからねー!」


「カイザー! レニー! あたいも直ぐ追っかけるからな!」

「駄目ですわよマシュー、貴方も私も飛べませんわ!」

「いざとなったら私が掴んで飛ぶでござる!」

「もー無理だって! シグレちゃん!」

「なーに、いざとなったらグランシャイナーで追いかけたらいいさ!」

「「「「それだ!」」」」


 賑やかな声に見送られる中、皆の前でフォームチェンジをする。これはこれまでの戦いでは使わなかった新たなフォーム。冒険用に創りだした新たなフォームだ。


「カイザー、フォームチェンジ申請。MODE:Air Cruiser」


「MODE:Air Cruiser承認。周囲の安全確認……安全確保。変形開始」


 カイザーの機体が変形し、SF映画にありがちな小型の宇宙船のような形状に変形した。これはキリンとフィアールカ達、そしてスミレが共同で開発してくれた小型飛行艇形態だ。


 以前から密かに構想していたらしいんだけど、これは戦闘にはあまり向かないフォームだからね。ルクルァシアとの戦いを控えている最中に作る事なんて当然出来ないから、平和になるまで凍結されてたんだってさ。


 それが今こうして、みんなの前で披露されている、なんて嬉しい事だろうか!


 レニーがもう一度皆に大きく手を振り、機体に乗り込み操縦桿を握る。私もルゥ専用の座席にちょこんとすわり、窓からみんなに手を振って別れを告げる。


 さあ、それでは出発しようか!


 ゆっくりと、皆にその姿を見せるように浮上していく。


 徐々に小さくなっていく見送り客たち。


「へへ。カイザーさんとお姉ちゃんとの3人旅……なんだか久々だね」

「そうだね。何が起きるかわからないから油断はしないつもりだけれど……私も楽しみで仕方がないよ」

「レニーもカイザーもまったく……。ふふ、でも実は私も楽しみなんです」


 すっかり豆粒のようになってしまったみんなを眼下に収め、最後にもう一度『いってきます』と3人で言って。


「では、行くよレニー」

「はい! では、カイザー! 発進します!」

「カイザークルーザー発進します」


 後部カメラが捉えていたシャイナー大陸がゆっくりと小さくなり、霞んでいって……とうとう見えなくなってしまった。それに気づいた私もレニーもなんだか寂しくなってしまったけれど……。


「やっぱりちょっぴり寂しいですね……でも、今の私にはカイザーさんもお姉ちゃんも居ます。だからへっちゃらです!」


「そうだね。私達は3人一緒なんだ。何があってもきっとだいじょうぶさ」


「ええ、カイザーは頼りにならないかもしれませんが、私がついていますからね、レニー、大丈夫ですよ」


「えへへ、そうだね、頼りにしてるよ! お姉ちゃん! 勿論、カイザーさんもね!」


 こうして、いつもよりは少し寂しいけれども、それでも普段どおりのやり取りをしながら、私達の新たな冒険が、シャインカイザーの新たな物語が幕を開けたのでした。



 異世界機神 シャインカイザーR 完

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異世界輝神シャインカイザーR 茉白 ひつじ @Sheepmarshmallow

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