Epilog Vol.2 その後のブレイブシャイン 2
さて、シグレが何をしているかと言えば……これはきっとびっくりするだろうね。
なんと彼女はリーンバイルと大陸本島との安全な航路の実現、その大事業をその中心人物として成し遂げてしまったんだ。
といっても、もちろんシグレだけの力ではないけどね。でも、その代表なのだから凄いよねえ。元々しっかりした子だったから、意外でもないんだけど、やっぱり身内からそんな大きな事業を成し遂げる子が出ると嬉しいもんだよ。
彼女から相談を受けたキリンとフィアールカは、まずフェリーの開発に取りかかることにした。流石に民間用の船舶に、あちらの技術をフルで使うことは控えたかったため、こちら産の物を参考に作ろうという事になったんだけど、そのベースとして白羽の矢が立ったのはシュヴァルツヴァルトが持つ次世代型魔導船だった。
そう、かつてアラン達がトリバに侵入する際に使った
後はもう、解るよね。あっちこっちを巻き込んで民間用フェリーの開発が始まったんだ。
当然、その開発にはうちのAI達が漏れなくかかわっているわけで。新たに生み出された船は凄まじいものだったとも。乗り心地? 勿論最高だね。双胴船でね、揺れが少なくってね。キャビンの中は暖かでね。一番安い雑魚寝ルームでも十分に快適に過ごせるレベルなんだよ。
けれど、凄まじいのはそこじゃあないんだ。あのフェリーね、自衛手段を持っているんだよ……民間用なんだよ? 凄くない? まあ、地球とこちらでは事情が違うからね、それは仕方が無いんだけどさ。なんたって、こちらの海には魔獣がいるからね。それも、海には機械獣の他に、生身の……っていったらおかしいけど、普通の魔獣も現存しているからねえ。暢気にプカプカ浮いてた日にゃあ、言い餌にされちゃうって訳。
だから、自衛手段として砲台と魚雷を搭載したんだけど、それがまた。護衛艦やフリゲート艦みたいな地球の艦とはまたちょっと違ってね、なんとうか船型の機兵と言った方がいいようなものだったんだ。
別に人型に変形するわけじゃないんだけど、コクピットがエードラムなんかの新世代型機兵の物を船用にカスタムした物なんだよね。勿論、船舶として動かすために色々と増えてはいるけれど、機兵のアームを動かすかのように砲塔の操作が可能でね、船底に設けられたフィールド展開装置のおかげもあって、島との往復くらいであれば十分に船体の防衛が可能となったんだ。
それともう一つ。魔獣問題の他にも難解な潮流という、天然の防護壁がリーンバイルを覆っていて、それもあってリーンバイルに渡れるのは秘伝のルートを知る島の人だけだった。
今となっては、そのルートを隠す意味が無くなったので、それを使おうかと提案されたけど、それがまた、結構遠回りというか、ぐるぐるとあっちへこっちへと回る必要があるルートだからね。フェリーでそれをやるのは少し厳しいなと言う話になったんだ。
そこで手を上げたのがフィアールカだ。『ポーラを位置情報システムとして使えば色々とできるのー!』と、この世界の技術革新たる仕組みをあっさりと提案してきたんだよ。
それは新たに生み出された『思考魔導石』――ゴーレム技術の応用で作られた簡易なAIだ。
そのAIはポーラの位置を基準とした現在地を割り出す事が出来る。それによって、海上での遭難事故が激減することは勿論のこと、なんとオートパイロットまでもが実現してしまったんだ。現在地と海流をAIが分析し、適切な操縦で難所を乗り越えていく。人の力では難しい箇所もスイスイと抜けられるため、従来の秘伝ルートよりも圧倒的に短距離でルナーサとリーンバイルを結ぶ事に成功したんだ。
そのおかげで、片道2日で行けるようになったんだけど、それももう直ぐ1日でいけるようになるっていうんだから、エンジニア達の張り切りようと言ったら凄いよね。
リーンバイルの特殊な土地柄は様々な面で大陸の人々に受けていて、1年が経つ今でも渡船のためのチケットは結構な人気があるみたい。
シグレの指導の元、観光客や商人の受け入れ体制が取られててさ、徹底したおもてなしをしているんだ。そりゃリピーターが増えるわけだよ。なんでも、独特の建築様式や、ニンジャ体験ツアーが受けているとかでね。それが未だにチケットが手に入りにくい状況を生み出しているってわけ。
宿屋も数を増やしているらしいし、もう少し船を増やして増便したほうが良いかもしれないね。
ああ、そうそう。同じ様に外国との交流が再開された場所といえば、レニーとフィオラ達の故郷である『グレンシャ村』もうそうだよね。
キリンから『シグレから船の開発を頼まれた』と事情を聞いたフィオラは『ならば私達の村も!』と、同じくキリンにお願いして元々存在していた巡礼用の道を整備することにしたらしいんだ。それを聞きつけた各国のお偉いさん達は両手を上げて賛同し、びっくりするほどの寄付金を私に送りつけてきたんだ。
というのも、あの場所は既に村ではなく『機神国グレンシャ』と各国の同意で名付けられてしまっていて……その代表は不本意ながら私こと、カイザーだからね……ルナーサやらトリバやらリーンバイルやらから『聖地巡礼を復活させよう』と、熱烈なラブコールが届いたんだよねえ。多分、それの半分くらいはアズ達の悪ノリだと思うけどね!
もっとも、代表といっても、私は王様やら皇帝やらになる気は無いし、国をあれこれ運営する気も微塵もない。内政チート? 無理無理! 普通の日本人にそんなの無理だから。 なので国の運営はグレンシャの方々に任せることにして、私はレニーと一緒にとっとと逃げることにしたんだ。
グレンシャの代表代理についてはレニーの両親に任せる事にしたんだ。元々巫女のアイリさんやジーンさんが纏め上げていた村だし、なによりあの2人はグランシャイナーに関わる上位権限を持っているんだ。2人以外に適任者はいないと思う。
というわけで、私は国の象徴みたいなもの――何らかのイベントの際には顔をだすけれど、政治には一切口を出さない存在、そんなポジションにしてもらったんだ。
でまあ、街道を整備する事業が本決まりともなれば、郷土愛に燃えるフィオラが張り切るのは自然なことなわけで。暇を持て余していたラムレットと共に自らキリンを動かし、先頭に立って土木作業に従事していたよ。
ルナーサやトリバからの技術者や作業員の支援も凄くってね。『大陸を守護する機神が治める国へ繋がる街道は素晴らしいものにするべきだ!』と、言う声があちらこちらから上がったみたいでね……現地に向かう作業員の数は自然と数を増やしていったらしい。
まったく、大陸を守護する機神とか誰が言い出したんだろな……。いやまあ、何か有れば、大切な場所を護るために戦う事はやぶさかではないけどさ、神として祀り上げられるのはちょっと……なあ。
そんな具合で始まった工事だけれども、荒れ果てていたとは言え、元々道があったところだからね。工事図面の作成は非常にスムーズで、キリンと言うチート重機の存在もあって、街道改良工事は半年ちょいであっという間に竣工しちゃったんだ。
街道が出来たおかげで、ルナーサ北端のロップリングは人の往来が増え、かつての賑やかさを取り戻し。ロップリングとグレンシャの中間地点には、リムールから派遣された人達が主導して宿場町をつくっているみたい。いずれ聖地街道は現在施工中の東リムール街道と繋がる予定で、それが開通すれば宿場町に建造中の港と相まって大陸の交通事情が大きく変わると思う。
リーンバイルもそうだけど、グレンシャ村はより隔離された土地だったからね。これからはあっちこっちから人が流れ込むようになるし、これで人口問題も解決しそうだよね。土地も結構広大だし、何故か温暖な気候だから結構繁栄するんじゃ無いかなって思う。
さて、私とスミレ、そしてレニーが何をしていたかと言うと……。
あの後……暫くの間は、各地を巡っての放映会をしていたよ。だって、映画館が出来るまでは私しかそれが出来なかったからね。もう行く先々、どこもお客さんの数が凄くってね。行く先々でそれはそれは大歓迎……はいいんだけどさ。
放映している作品の登場人物が自ら巡業に来ているわけで。自分で言うのもなんだけど、元々有名人だったのに加えて、アニメの登場人物になっちゃったんだよ? 映画見た後って、なんか感化されるじゃん? ついうっかりグッズ買っちゃったりするじゃん? グッズどころか、本物がいるわけですよ……劇場に。
私もレニーもスミレまでもが、お客さん達からもみくちゃにされてひどかったよ……。
私はカイザーの身体に移れば、多少もみくちゃにされたところで何も感じなくなるんだけれども、それが出来ないレニーやスミレは大変そうでね。時折恨めしい表情でこちらを見ていたっけ。
いやあ、あれだけ狼狽したスミレを見れる機会はなかなかないからね。あれはなかなか楽しかったなあ。ああ、勿論録画して厳重に保存してあるともさ。キリンにもバックアップを流してあるからね、ふふ……いつか忘れた頃にでもスミレにみせてやるのさ。
それから暫くして、映画館が稼働してからはその状況
『ファンサービスは必要だよ。わかっているね?』
なんて、無理矢理説得されちゃってね……。
ようやくお役御免だと思ったのに、レニーと共にあっちこっちを回って講演会をする羽目になったんだよなあ……。
移動映画館の時と違って、お客さんとの距離があったからもみくちゃにこそされなかったけれどさ、大勢の前でステージに立つわけだからね……暫くの間はレニーが悲惨なことになってたっけ。
だったら、もういっそみんなも巻込んでしまえと、特別ゲストとして僚機やそのパイロット達を呼ぼうと連絡を取った事も有ったけど、これまで話してきた『事情』により断られちゃってね……。
みんなが何かと忙しいのは分かってたけどさ、あれ、絶対にそれを言い訳にして逃げたんだと思う。
そんなわけで、私達はそれぞれがそれぞれの目指す未来に向けて、新たな一歩を踏み出したんだ。ルクルァシアとの最終決戦は終わったけれど、俺達の戦いはまだはじまったばかりだ! ってところかな?
そう、私とレニー、そしてスミレがやりたい事はまだこれからなんだ。
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