エピローグ また、始まる世界

Epilog Vol.1 その後のブレイブシャイン1 

 皆で盛大に祝勝会をしたあの日からもう1年か。

 あの後は大変だったな。暫くの間、行く先々で上映会をさせられたからね。


 最初のうちは何処かに顔を出したついでに頼まれて、って感じだったから良かったんだけれど、だんだんと噂が噂を呼んでさ、上映会をするためだけに呼び出されることも多くなってしまったんだ。


 実は私が神様から貰った『異世界輝神シャインカイザー』のデータは2種類有ってさ、上映会で皆に見せてまわった物は劇場版と書かれた物で、要するに地上波版の総集編のような物だったんだ。


 2部構成で2時間半ずつ合計5時間。これでも結構な長さがあるけれど、これくらいなら許容範囲だよね。


 で、隠していたもう片方は……うん、そうなんだ。地上波版なんだよ。1話25分の全60話だよ? 流石にこんなの上映会で流したらどれだけ拘束されるか分かった物じゃあない。それに、ブレイブシャインのみんなも何かと忙しいからね。こいつの存在がバレた日にゃあ、彼女達の仕事に差し支えるってわけで、申し訳無いなとおもいつつもパイロット達にすら秘密にしていたんだよ。まあ、何時か見せようとは思ってたけどさ。


 でもね、不味いことに、これの存在が何処からか漏れたんだ。


 犯人は大体分かっているけれどね……どうせスミレ先生なんだろう?


 真っ先に嗅ぎつけたパイロット達にせがまれて見せているうちは良かったんだけどね……一度漏れ出した情報というのは、もう止められないわけで。パイロット達からその身内に、そこからまた近しい人に……気付けば多くの人達にその存在が漏れてしまってたんだ。


 流石の私も困ってしまって、キリンに泣きついたんだよ。ああ、困ったときのキリンさんだ。彼女はやっぱり頼りになるね。


『うん? なるほどね。ならばこの世界に映画館という概念を作ってしまえば良いじゃないか。今までなかったのがおかしいんだし。君のデータを映写機のストレージにコピーして各地の劇場に貸与すれば君の負担はなくなるんじゃないか?』


『それだ!』


 それからは速かった。各国の代表に話しを通し……というか、誰よりも地上波版の上映を熱望していたのがその代表達だったから、トントン拍子に各地に施設が建造され……キリンやフィアールカの協力で大陸中のあちらこちらに映画館が出来上がったんだ。


 と言っても、当分の間は地上波版の『異世界輝神シャインカイザー』を数話ずつローテーションを組んで放映する場所になるけどね。いずれこの世界にも映像作品を創ろうという人達が現れて、オリジナル作品が上映される日が来るかも知れないね。ロボットが機兵という名で実在しているんだ、ロボット作品がたっくさん創られるに違いないよ! ああ、早く誰か作らないかな? 何だかワクワクして来ちゃったな!



 ――さて、ブレイブシャインのパイロット達はどうしてるかと言えば。


 地上波版の視聴を終えた彼女達は、なんだかとっても満ち足りた顔をしていてね。それが切っ掛けとなったのか、それぞれが『やり残した仕事がある』とかで各地に散ってしまってね。結果として現在ブレイブシャインは一時休業中なんだ。


 マシューはトレジャーハンターギルド 紅き尻尾のメンバーを連れ、リムール周辺の発掘調査に向かったんだ。


 あの地は未だ手つかずの土地が多いため、地質調査やボルツ時代の遺跡調査と、もしかしたらばリム族のように今も生存しているかも知れない旧ボルツ領の生き残りの人達を探すという重要な仕事なんだ。


 旅立ってからは暫く音沙汰がなかったけれど、半年が過ぎた頃、オアシスのような所で細々と暮らしていたナミ族という、犬系獣人の集落を発見したと報告が届いたよ。マシューが『自分はリム族である』と告げ、外の話しを聞かせると大層驚かれたけれど、ナミ族の人達と友好的な関係を気付くことが出来たみたい。

 

 現在ではその地にもリムールから物資が届けられるようになり、リムールとオアシスを結ぶ街道工事も始まっているんだ。マシューは中々立派に頭領をやってるよね。


 次にミシェルだけど、彼女は……ザックを唆して結構大きな商売をしているんだ……。


 何をしているかって? それは勿論、私達のフィギュアの大量生産とその販売だ。


 私達ブレイブシャインの活躍は元々彼方此方で囁かれては居たのだけれども、映画館が各地に出来てからその人気はうなぎ登りだ。なんともムズムズしてしまう話なんだけれども、そこに目を付けたのが、商家の娘であるミシェルだ。


『カイザーさん! 許可を下さいな! 後は貴方の一言だけで大きなお金が動きますの!』


 突然そんな事を言われたときは何事かと思ったけれど、話を聞いて納得。原型師ザツクの許可は取ったし、賛同する職人も数を揃えたから後は私の許可待ちなのだと。どうか、カイザーとそのの人形を作る許可をくれないかと、今までに見ないほど、本気で頭を下げられてしまった。


 自分のフィギュアが売られるというのはあんまり良い気分はしないけれど、家族のような間柄のミシェルに頼まれてしまったら断れないよ。それに、この世界にロボット玩具の流行が起こると言うのを想像してしまったら……許可を出さずには居られないじゃない? だって、アニメを見たらおもちゃも欲しくなるのは自然なことだもんね。アニメだけ見せておもちゃが無いってのはあまりにも気の毒だもの。


『うん、許可しようじゃないか』


 そういった瞬間、待ってましたとばかりに置かれたのは契約書と……見るのも嫌になるほどに分厚い『企画書』の束だった。


 サラサラと契約書にサインをし、企画書に目を通す。幸い、私はロボなので、どんなに分厚い書籍だろうがざっくりとスキャンをすればあっという間に読めてしまう。なので読むこと自体には苦は感じなかったのだけれども……。


『なんだいこれは……ちょっーと流石に看過できないかなあ?』

『いいえ、もうサインは頂きましたし、その通り行かせて頂きます』


『くっ! 仕様書を先に見なかった私が間抜けだったというのか!?』


『馬鹿ですねカイザーは。間抜けですよカイザーは。サインをする前に書類と資料は隅々まで目を通すのは鉄則でしょうに。ああ、ミシェル。面白いのでそれは勿論許可します。私の権限で改めて承認します』


『スミレぇ……』


 仕様書に書かれていたのはカイザーを初めとした僚機達のフィギュアの仕様書。そして私……ルゥとスミレの仕様書もそれに含まれていたんだ。


 しかもご丁寧なことに、稼働フィギュアと非稼働フィギュアの2種類だよ? これはロボ好き以外のお兄さん方の需要に応える感じになっちゃうんじゃないかな!?

 

 しかし、時は既に遅し。


 スミレ大先生の承認を受けて直ぐ、弾ける笑顔と共に部屋をかけだしていったミシェルはもう止められない。


 あれよあれよという間にフィギュアの製造が開始されてしまった。


 うん、そうなんだ。私が許可を出す出さないは別として、既に全てが用意されていて、形だけの承認をもって即座に工場を稼働させる気だったんだよなあ。


 どう考えても全て黒幕にスミレが居たよなあこれ……思えば地上波版流出からの流れがスムーズだったもの。


 おかげさまで、フィギュアは各地で大人気だ。一番人気はやっぱり塗装済みフル稼働モデルなんだけど、それは結構お高いため、実際に売れた数で言えば未塗装フル稼働モデルが一番だった。


 塗装されていない分、塗装済みモデルの半額で売られていたのがその理由だね。


 自分で塗りたいと言うモデラー的な層には勿論の事、塗装済みを高くて買えないという層にも大受けで、作れば作るほど売れるという笑いが止まらない状態らしい。


 ミシェルの売り方が上手いなーって思ったのは、私達のフィギュア以外にも、ちゃんとエードラムやシュヴァルツ等の機兵やヒッグ・ギッガやバステリオンなんかの魔獣もラインナップに加えたことだね。


 これらは最初あまり数が出なかったらしいんだけど、ザックがジオラマを作って展示したのを切っ掛けにシュヴァルツやエードラムが凄まじい勢いで売れているんだ。


 たくさん集めて好きなように並べて『ルナーサ防衛戦』を再現! みたいな感じの需要があるみたいだね。広場で私のフィギュアとヒッグ・ギッガを戦わせてる子供達の姿も見かけたっけ。そういうのを見ているとさ、やっぱり何処の世界でも変わらないなって思って嬉しかったよ。


 ……あとね、認めたくはないけれど、やっぱり私とスミレのフィギュアも結構売れてるようで……それはまあ、仕方が無いんだけど、ちょっと困ってることもあるんだよね。


 いつだったか、ルナーサの広場で日向ぼっこしてたらさ、いきなり衛兵につかまれたんだ。もう、びっくりしちゃってさ。


『ちょ! 何をするんですか!』


 なんて、腕を振り上げて文句を言ったら、目をまん丸くして驚いてんの。いや、びっくりしてるのはこっちだからって思ってたらさあ……――


『こ、これはルゥ殿!? 失礼しました! フィギュアの落とし物と間違えてしまって!』


 ――なんて言うんだよね。そんな落とし物はないだろうと呆れたけれど、衛兵が言うには、外に連れ出したまま忘れる者や、レニーやフィオラをまねて懐に入れて落としちゃったりするんだって……。

 それでね、予想通り、子供だけじゃあなくて、の間でも私やスミレのフィギュアが凄まじい人気みたいでね……『実はわたしもと』と、恥ずかしげに語るその衛兵もまたフィギュア購入者だったんだ……。


 凄く畏まった顔でサインを求められてさ、どうしようか迷ったけどしてあげたよ。サインを書いた紙を手渡してあげたら泣くほど喜んでたけれど、そこまでなの? って、なんだか恐ろしかったな……。


 まあ、そんな具合にミシェルもバリバリと仕事をしているわけなんです……。

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