最終話 異世界輝神シャインカイザー
惑星を覆うように広がった白い光はゆっくりと収束し、周囲に星々の煌めきが戻る。
あたりには塵一つ見当たらず、蒼く輝く惑星が眼下に浮かんでいた。
「対象、反応消失。周囲に敵勢反応無し。警戒態勢を解除します」
『了解、任務終了と判断、MODE:AMATERAS解除なの。これよりポーラは離脱し、定位置に移動後、本来の業務に復帰するの』
『同じく、MODE:GODDESS解除なの。これよりグランシャイナーも離脱し、次の作戦にあたるの』
身体から何かが抜けるような感覚がし、合体が解除されていく。それに伴って機内を満たしていた輝力の光が消えていき、パイロット達の姿も俯瞰空間から一人、また一人と消え、コクピット内に見えていた彼女達の本体がピクりと動き、意識があちらに戻ったのが確認出来た。
身体に戻ったというのに、誰一人声を出すことも、動き出すこともなく、少々不安に思ったけれど、まだ倒したという実感がなくって呆然としているんじゃないかな?
うん、そうだね。ここは司令官として最後のシメをきっちりとやらなくっちゃな。
静寂に包み込まれていたコクピット内に、
「ルクルゥシア討伐任務はこれを持って終了とする! 良くやってくれたな、みんな! 俺達の勝利だ!!」
この音声は地上にも届けられていたようで、機内には彼方此方から歓喜の声が次々に飛び込んで、静まりかえっていた機内を賑やかな音が包み込む。
その声を聞いて、パイロット達がゆっくりと戦いの終わりを実感し、一人、また一人と身体を起こしてゆっくりと話し始める。
「あたし達……勝った……んだよね?」
「だよな……? なんだか……まだ実感が薄いが……」
「あれだけ大きな相手を私達が……でも、手応えはありましたわ……」
「先ほどまで居たところは、なんとも不思議な空間でしたね。ミシェルが私で私がマシューで……」
「皆が皆とひとつになって、ルゥ……ううん、カイザーとして戦った、そんな戦いだった」
「ああ、そうさね。アタイ達が皆で掴んだ勝利の感触、まだこの手に残っているよ!」
「君達はやったんだ。胸を張れ。そうさ、俺達は俺達は……!」
「「「「勝ったんだー!!!」」」」
そこから堰を切ったかのように喋り始めるパイロット達。先ほどまでの静かな空気はなんだったのだろうか、そう思わせるほどに嬉しそうに、楽しそうに、心から喜び、勝利を噛みしめている。
「スミレ、お疲れ様だ」
「ふふ、カイザー。貴方も」
このまましばらくここで勝利を味わっているのも悪くは無いと思ったのだが、先ほどから通信で飛び込みっぱなしの声を聞くに、どうやらそれは許してくれないようだ。
『レニーちゃあん! フィオラちゃあん! 速くお母さんに元気な顔を見せてー!』
『カイザー! ブレイブシャイン! お前らは史上初のSA級だ! 盛大に授与式するからな! 速く帰ってこい!』
『ブレイブシャイン! 良くやってくれたよ! ミシェ……ミシェルも本当に……!』
『マシュー! 何時までも上に居ねえでさっさと降りてこい! 自慢の頭領の顔を速く皆に見せやがれってんだ!』
『シグレー! 兄は、兄は……ちょ、ち、母上! 拙者はまだ……!』
「ほら、みんな。下で沢山の人達が君達を待ってるぞ。もう少しここで余韻に浸りたいところだが、どうやらそれは許して貰えないようだ。さあ、そろそろ地上に帰ろう!」
今も尚、賑やかに我々を呼ぶ声が次々に飛び込んでくる。それを聞いてパイロット達は照れたような、困ったような顔を浮かべていたが、皆それぞれ『そうだね、帰ろうか』と頷き合っている。
「帰る前に……足下の
「前に見たときより……綺麗……雲が晴れてるからかな?」
「ああ、なんだろうな、勝利の後は格別って奴なんだろうな」
「改めて見ると……凄い光景ですわね……世界はあんなにも広く……」
「私達が住んでいる大陸が桶に浮かべた花びらの様です」
「あれを……護ったんだよね……私達……」
「はは……スケールがデカ過ぎてアタイ、目が回ってきたよ」
「「「「あははは」」」」
穏やかな空気の中、機体は地上に向け降下する。
数千年前、この世界に降り立った時には予想が出来なかったな。こんなにも素晴らしい良き仲間達に恵まれて、日々満ちあふれた旅路を歩んで。大変な事も色々とあったけれど、きちんと最後はバッチリと決めることが出来た。
『真・勇者 シャインカイザーにしてください!』
今思えば、なんて酷い願い事なんだろうと、顔が熱くなってしまうけれど、あの時の自分は間違っていなかった。
ただ、純粋にロボの身体となって異世界を味わってみたい、そんな軽い気持ちからの願いだったけれど……自分は今、真の意味でシャインカイザーになれた、そんな気がしているよ。
ああ、なんだかとっても……満たされたなあ。
うん、もう満足だよ……私にはもう……思い残すことは無いよ……。
◆◇◆
戦いから三日後。避難所として使用されていたシュヴァルツヴァルト近郊の平原には多くの天幕や仮設小屋が建ち並び、避難民以外にも方々から集った人達で賑わっていた。
これはグランシャイナーに乗るフィアールカが言っていた『次の任務』による成果で、彼女達は地上に帰還後、各地を巡って我々の知人達をここまで送迎していたらしい。
そんなわけで、今この場には大陸中の人々が集って勝利の宴に酔いしれているのです。
私達、ブレイブシャインが座る特別席には次から次へと人々がやってきては、何らかの言葉をかけ、皆嬉しそうに握手をしたり、お礼を言ったりして行く。
パイロット達は誇らしさと嬉しさ半分、疲れが半分と言った表情で、半ばぐったりとしながらも、この時間を楽しんでいた。
私は"ルゥ"となってこの場に座って酒や料理を堪能しつつ、来客達と親睦を深めてとても幸せな時間を過しているところ。
……と、ちょっと飲み過ぎてしまったようだ。
この身体は小型のロボットなので、とうぜん病気や毒という物は無縁なんだけど、こういう場で酔えないのは面白くないので、キリンにお願いして擬似的な酔いが発生するよう、システムを弄って貰ったんだ。
おかげで、今の私は気持ちよくほろ酔いと言った状態で。飲み過ぎてしまったというのは大げさだけれども、ちょっとだけ一人になって夜の空気を吸いたくなったんだ。
私が席を立つのに気付いたスミレに手を振って『なんでもないよ』と、その場に残らせる。
会場から少し離れた場所に生えている大木の枝に横になると、葉の隙間から煌めく星々が見えた。
まさか宇宙戦まで出来るとはなあ。ほんと、満足以上に満足だ。ほんと思い残すことはもう無いと思う。今日まで色んな事があったけど、私達が紡ぐ物語を無事に、ハッピーエンドで終えることが出来たんだ。これ以上の望みなんてもう残ってないね。
そんな事をボンヤリと考えていると、すっと景色が後ろに流れ……なんだか懐かしさを感じる空間……けれど、ついこの間行ってきたような空間に移動? していた。
周囲に煌めく多数の星々、そして足下に広がる蒼く大きな惑星。
宇宙に転移してしまった? いいえ、違うよね。
ここは、この場所は知っている。そう――
「久しぶり、と言うべきか……なんと言うべきか。取りあえず、改めてお礼を言うよ。ありがとう、カイザー」
目の前に居る謎の発光体、自称神がそこに立っていた。だろうと思った。ここはいわゆる神界とか、何かその手の類いの場所なのだろうな。
……と、よく見れば神の隣に、小さな黒いトカゲのような物がちょこんと座っている。こちらをチラチラと見つめているけれど……この子、何処かで見たような……というか、まさか、これって。
「相変わらず良くわからない姿ですね。それと……そのちっこいのはもしかして?」
「最初に出た台詞がそれ!? もっとこう、何か言うことはないのかい? ちなみにこの姿は君の嗜好から導き出されたそれっぽい姿……の筈なんだけどな。もしも君がエッチな少年だったらば、この場には目のやり場に困る女神様が……
っと、ちっこいの……グランシールはお陰様で元通りさ。君達が魔石を取り戻してくれたからね。身体も小さくなっちゃったし、当分ここで修行のやり直しにもなるけれど、暫くの間はこの子の仕事もないだろうしね。ゆっくり私の話相手でもして貰うさ」
「そっか、良かったです。黒龍の……グランシールの事は私も気の毒に思ってましたし。 それと、お礼を言うのは私からもです。ありがとうございます。此方の世界で凄く、凄く楽しい一生を送ることが出来ました。前世の未練もすっかり断ち切れました。なんだかんだ言って貴方には感謝していますよ? こんなにも素敵な第二の人生を歩ませてくれたのだから。いやあ、ほんと楽しい日々だったなあ……」
深々と礼をすると、神様はなんだか困ったような顔をしている。
「……ちょ、ちょ、まって? ねえ、まさか君、天に還る――とか言い出さないよね?」
「あれ、状況から考えるとそうなんだろうな思ったんですが、違うんですか? てっきりお迎えに来たものとばかり」
満たされた、物語も終わったし、思い残す物は無い。そう思った瞬間、ここに喚び出されたんだ。そう考えない方がおかしいと思うんだけどな。
「確かに、君は私の望みを叶えてくれたし、隠してた秘密の依頼も達成してくれた。何より、君も満足しているようだから……状況として間違っては居ない。でも、私が喚びだしたのは別の理由だよ」
そして神様は私の前に歩み寄ると、柔らかな笑顔を浮かべた。
……ぼんやりとした人型の光が笑っているわけだから、少し不気味に見える。
「君は見事私の望みを叶えてくれた。退屈だったこの世界の大陸はジャンルが良くわからない不思議な場所に生まれ変わった。ファンタジーとロボのごった煮だよ? そう言う作品がいくつかあるのは今や知らない話ではないけれど、自分の世界にそういう場が出来るとはね」
「私の影響で色々ご覧になられたようで……」
「ふふ。ああ、話しがズレてしまう所だった。そこで、君にお礼をしよう、そう思って喚んだんだ。今まで君の行動を見てさ、色々考えていたんだ。全て成したときに何を上げようかってね。
君が何を求めているのか? 何をあげたら一番喜ぶのか? ずっと色々と考えていたんだけど……」
「私が欲しいもの……?」
「うん、そこで私は君にこの世界で生きるための肉体をあげようと思ったんだ。ロボの身体になって嬉しいことも沢山有っただろうけれども、それと同時に機械の身体である故に不自由を被った事も少なくは無いだろう? そこで生前の君と同じ姿の身体を用意したんだ」
スウッと私の目の前に私の身体が現れる。……良かった、服は着ているな。
「うええ、なんだか久々に自分の身体を見ると気持ちが悪いな」
「今同じ姿でそこに立っているけどね……どうだい? 病気もしないし頑丈だよ! 今度は君がパイロットとなってさ、カイザーに乗る! 中々良い提案だと思うんだけど」
嬉しそうにそう語る神様。うん、中々に魅力的な提案だと思う。カイザーになりたい、そう思ったと同時にカイザーを操縦してみたいという気持ちもあったからね。
でも――
「ごめんなさい、神様。私はそれを受け入れられないよ」
「そうかい?」
「うん。身体ならルゥが居るし、カイザーの身体にも結構愛着があってね。それに……なにより、あの機体のパイロットはレニー、レニーだけなんだよ。あの子が乗るカイザーが、あの子達が乗る機体達が描いてくれたのが、この世界の『真・勇者シャインカイザー』なんだ。だからごめん、今更"私"が出て行って変に水を差すのは嫌なんだ」
私が頭を下げながらそう言うと、神様はなんだかとっても嬉しそうに笑い始めた。
「ふふ……はは……あっはっは! 君ならそう言うと思ったよ。いや、確実に言うんだろうなって思ってた。一応この身体は用意してたけど、無駄になるかもなあって思ってたんだよ」
「あれ? 断るかもって思ってたんですか?」
「ああ、そうさ。でも、人の心はわからないからね、一応ってね。うん、でも必要が無いというのであればそれで良いさ。この身体は
「こ……これは!」
「どうだい? 悪くはないだろう? 私の
「それを聞くとちょっと複雑な気持ちになりますが……でも、これ、きっと皆も喜ぶだろうな。ありがとう、神様!」
「うんうん、やっぱり君にはそう言う物のほうが喜ばれるよね。君が私に見せた中で一番の良い笑顔をしているよ……っと、そろそろ時間のようだ。では、またそのうちね。これからも……君の物語がより良い物となりますように……」
星々が点から線になり、私の後方に凄まじい速度で流れていく。長いようで一瞬の現象が終わると、宴の賑やかな音が戻り、視界には元の薄暗い草原が広がっていて。
私は元いた場所に戻ったことを悟った。
「こんな所に居たんですか、カイザー。皆貴方を探してますよ。もっと話しを聞かせて欲しいようです」
と、私を心配したのか、スミレが探しに来てくれたようだ。なんだかんだいってスミレは優しいからね。ほんと言い相棒を持ったもんだよ。
「いえ、本当に皆さんが貴方を……おや? カイザー、そのデータは何ですか? 未知のデータがストレージにあるようですが……」
……流石スミレさん。データリンクしているだけあって私の変化にめざといな。
「ああ、これはね……ふふ、君も皆も驚くぞ! よし、皆を待たせたお詫びをしようじゃないか。スミレ、キリンに頼んでスクリーンを張らせてくれ!」
「え? ええ……ふふ、なるほど
そんな事を言って去って行くスミレはなんだか上機嫌で、私のお土産を心から楽しみにしているようだ。
――そして、私が皆の所に戻ると、既にスクリーンが張られていて、どうやら何か面白い事が始まるらしいと、来客やパイロット達がソワソワとスクリーンを見つめていた。ふふ、そうこなくっちゃ。こりゃあ、見せ甲斐があるぞう!
「皆! 待たせたね。知っている人は知っているけれど、初めて見る人も居るだろう! これからシャインカイザーのアニメ上映会を始めます!」
知っている人達は盛大な拍手をし、『アニメ上映会』という物が何のことなのか分からない人達は首をかしげながらも、とりあえず周りに合わせて盛り上がっている。
「先にひとつ言っておくけど、今日の奴は特別版だよ。まだ、
私の言葉をきいて、既に何周も視聴済みなレニー達も思わず立ち上がり、感動のあまりなのか、何やら妙な踊りを踊っている……って、あーー! 誰だレニー達にお酒を飲ませたのは!
「……では、しばしの間、少々変わった冒険譚をお楽しみ下さい」
端末から映像が投影され、聞き慣れたオープニングテーマと共に映像が流れる。しかし、普段とは少々様子が違う映像にパイロット達が驚きざわめき始めている。
「お、おい……彼処で走ってるの……竜也じゃなくてレニー……なんじゃね?」
「う、うん……竜也達みたいな絵になってるけど、あれはあたし……あ! 見て! 岩を砕いてるの……マシューだよ……!」
「えー!? わたくしが弓を射ってますわ!」
「おおお……! 私がガア助と飛んでいるでござる!」
「みて! ラムレット! あれきっと私達だよ! キリンに乗ってるし!」
「ああ、結構似てるな! あれは……何か建ててるのか?」
映る映像を見たパイロットや来客達がざわめいている。ふふ……驚いたか、驚いただろう。……私もめっちゃ驚いてる。まさかここまでの物を創りだしてしまうとはね。神が言う勉強とやらは無駄ではなかったようだ。
オープニングのお約束で様々な戦闘シーンが流れるんだけど、それは見慣れた物から差し替えられ、今までレニー達と共に戦ってきたシーンのダイジェストになっていた。
そして、何故か今まで表示されていなかったタイトルがオープニングの終わりにでかでかと表示された。
『異世界輝神 シャインカイザー』
私が皆と紡いだ物語、この世界のシャインカイザーの物語。彼方とは違う、此方の世界の物語。
私が知るシャインカイザーではない、私達が歩みながら創りあげた新たなシャインカイザーだ。
それは数千年前、私がこの世界に降り立ったところから始まっていたけれど、中々立派な構成スキルをお持ちのようで、間延びせず、重要なところだけを簡潔に、かつ、魅せる流れであっという間にレニーと出会い、マシューと出会い、ミシェルと、シグレと出会っていく。
……私達の冒険を多くの人達が夢中になって観ている。
大人も子供も、皆が笑い、泣いて。時には声を上げてスクリーンの中の私達を応援をしながら見ている。
「がんばれー! レニー! 後ろに居るぞー!」
「マシュー! ミシェルの所! 敵が向かってるよー!」
「そこだー! 合体だー!」
シャインカイザーになりたいという願いはとっくの昔に叶った、そう思っていた。
けどさ、それはあくまでカイザーの身体を手に入れただけだったんだよ。カイザーという容れ物に入っただけの存在、それが私だった。
「いけーカイザー! ヒッグ・ギッガを殴り飛ばせー!」
「うおおおおお! やったぞ! パインウィードに平和が戻ったんだー!」
レニーとの出逢いから始まった濃密な冒険と戦いの日々。それを通じて私は少しずつ、少しずつカイザーとして成長していったんだ。
「シグレちゃーん……良かった、ほんと良かったねえ……」
「やっぱ黒騎士つえーなあ! けどブレイブシャインも良くやったぜ!」
「気持ちとしてはアランドラ様を応援したいけど、レニーちゃん頑張れってなっちゃうわ」
そして今、この瞬間。皆が私達の冒険をスクリーンで観て、応援してくれている。
今の私達はまさにテレビの中のヒーロー、憧れだった存在その物になったんだね。
そう、思った時。
私は真の意味で『シャインカイザー』になれた――心からそう思えたんだ。
# タイトルに最終話ってついてますが、後三話ほどエピローグが続きます。
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