第三章 冴えない推しキャラをマネジメント! 第一話
義勇軍は無事に暗殺師団を退け、チェバ城制圧に成功した。その
戦いを終えたフォルテから、
「二代目の暗殺師団長──、ヴァルドロイが仲間になってくれたよ。シイナの読み通り、話したら理解してくれたんだ」
という
フォルテによると、ヴァルドロイはチェバ城の守備を引き受けてくれており、しばらくは仲間たちの元には顔を出さないかも……、ということだった。
ヴァルド様がいる! 大好きなヴァルド様に、もうすぐ会える!
最愛のキャラクターに会えると思うと、胸の高鳴りが一向に
「すいませーん。しばらく使わない装備なので、預かってもらえますかー?」
聖騎士団員の間延びした言葉に、シイナは
「こ、これは、二軍落ちフラグ!」
シイナは、認めたくなかったが、ゲームを何周もプレイしてきたファンとして、彼の置かれている
ヴァルドロイは、ゲームでは、シュヴァリエ王国暗殺師団から
ただ、それはシイナの場合であって、世間
その理由は、二つある。一つ目は、加入時期が
二つ目は、彼の初期職業である魔法剣士が、敬遠されがちということだ。魔法剣士は、剣術・魔法・治癒術の三種類をも使うことができる反面、どれも
そんな悲しみを背負ったヴァルドロイは、ファンの間では【ゲーティアアーマーさん】と呼ばれている。理由は、彼がレア防具であるゲーティアアーマーを装備して加入するからである。
しかし、加入するや
その事態が、今、起こっている。
この異世界では何としても、彼に活躍してほしいというシイナの願いも
「やっぱり
「さっきから独り言ばっかり、どうした。そのレア装備が気になんのか?」
商人隊で使うことになった大部屋の真ん中で
「あ、ごめん。うるさくて」
「ずっとソワソワして何なのさ。仕事に差し
「で、でも、公私混同はよくないから! 就業時間は守るよ、私は」
「もう、お昼休み……。ボクも
実際は、昼休みには少しだけ早かったのだが、シイナは有り
早く、会いたい。
その一心で、シイナはチェバ城外を
「はぁ、はぁ……。し、しんどい。事務員には、ハード、過ぎる……!」
さすがは城というだけあり、北から東、東から南へと移動するだけで、シイナはフラフラになっていた。広いうえに、足場もごつごつとした石が多く、ぺたんこパンプスでは走りにくいのだ。
シイナは
すると勢いよく、ドンッと、背の高い男性にぶつかってしまった。
「わっ! ごめんなさい!」
シイナは男性に
「ヴァ、ヴァル……」
「シイナ君、そんなに
低音のいい声が頭上から降ってきた。シイナが見上げると、声の主は金髪に
少女
「えっと……。ヴァルドロイを
「ヴァルドロイか。彼なら
「西ね! 教えてくれてありがとう、ランスロット!」
シイナはランスロットに礼を言い、その場を去ろうとした。だが同時に、「待てよ?」と、気付いてしまった。
「ランスロット、今装備してるのって……」
「これか? ゲーティアアーマーといって、とても
それは知っている。親切に説明してくれるランスロットに罪はない。だがシイナは
それは、ヴァルド様のやつ!
◇◇◇
シイナが走って西門へ向かうと、一人の男性が、
「ヴァ、ヴァ、ヴァルド様っ!」
シイナは、生ヴァルドロイの
「いたた……! あの、えっと、こんにちは……」
シイナは生まれたての
「
あぁぁぁっ! かっこいい!
ヴァルドロイの声に、シイナはこれまたシビれた。意識が飛んでしまいそうだ。
しかし、そんなシイナを見て、ヴァルドロイは
「ごめんなさい、ヴァルドロイ。わ、私、商人隊マネジャーのシイナといいます」
「シイナ……?」
ヴァルドロイは、シイナの名前に聞き覚えがあったのか、ほんの少し興味を示したように見えた。そして、彼はシイナを
「で、俺に何の用だ」
「ヴァルドロイ、私、あなたに会いたかったの!」
絶対に顔が赤くなっていると確信できるほどに、シイナは熱くなっていた。
ヴァルドロイに会えて
しかし、ヴァルドロイの反応は、とても冷めたものだった。
「俺なんかに会いたいなど、分かりやすい
「虚言だなんて! 私は本当に……」
初めて《ユグドラシル・サーガ》をプレイしたときから大好きで。
祖国を裏切ることになっても、自らの信念を
「あなたに、最後まで戦い抜いてほしい!」
シイナの、心の底から出た言葉だった。
だが、ヴァルドロイの瞳の光は、
「俺は、シュヴァリエ王の、弱者を切り捨てる思想が許せなかった。強い国を
ヴァルドロイの
物理的に装備やお金がない、というだけではない。力がない、心を支えるものがないという悲鳴が聞こえたような気がして、シイナは胸が苦しくなった。
「何もできないんだ。そんな俺に、初対面のお前が何を期待している? 前線の戦いなら、他に
代わりはいくらでもいる。
呪いの言葉だ。シイナはその言葉が、重く苦しい
今のヴァルドロイは、かつて自信を失っていたシイナにそっくりだ。だが、シイナはクリスや義勇軍、商人隊の仲間のおかげで、それを取り
じゃあ、ヴァルドロイを救うのは誰?
「私に、あなたをマネジメントさせて! あなたの代わりなんていないことを、私が証明してみせるから!」
私があなたを終章へ連れて行くから! あなたにしかできない戦いがあるから!
シイナは、ヴァルドロイを真正面から見つめ、力強く言った。いつだって、シイナの心の支えとなってくれたヴァルドロイを、今度はシイナが助けたかった。力になりたかったのだ。しかし──。
「断る。
返ってきたのは
「ご、ごめんなさい……。私、そんなつもりじゃ……」
初対面で、でしゃばり過ぎた。失敗した。きっと
「…………っ」
シイナは、ヴァルドロイにそれ以上何も言えず、彼にくるりと背を向けて、
「職業:事務」の異世界転職! ~冴えない推しキャラを最強にします~ ゆちば/角川ビーンズ文庫 @beans
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