第二章 商人隊をマネジメント! 第二話
ヴァルドロイが加入するまでに、商人隊の業務改革をすること──、それがシイナの目標である。どんな仕事であっても、期限や納期は守らなければならない。たとえ、自分で決めた期限であっても、計画性を持って取り組むべきだ。その方がメリハリも出る。
「よしっ! やるぞ!」
シイナは、自らの
「商人隊の
シイナが改まった口調で言うと、モンド、マートン、キャンディは
「おいおい。えらく
「い、一応司会進行役なので! でも、提案や意見は気軽に言ってくださいね! あ、飲み物も自由に飲んでいいので」
シイナは、不慣れな会議の進行役に
「ねぇ、シイナ。ボク、アクセサリー作りに戻りたい……」
「よせよ、キャン子。
「まぁ、今より仕事が楽になるなら、会議しといた方がいいんじゃないの」
そして三人は、「それで?」という顔をシイナに向けた。その視線にシイナは思わず身が縮こまりそうになる。
「じ、実は、それぞれの仕事について提案があって。まずはモンドさんの仕入れです」
「俺のやり方に文句あるってのか?」
モンドは
「
「そりゃあ、まぁなぁ。具体的にはどうするってんだ?」
「案は三つです。初めにやりたいのは、義勇軍のジョブと装備品の確認です。理由は、もちろん必要なアイテムを
そしてモンドもそれを理解してくれたのだろう。少しの間、目を閉じて思案した上で、彼は口を開いた。
「治癒術使いがいたら、HP回復はそいつに
「そうです、モンドさん! でもそれだけじゃなくて、今度は治癒術師のMP回復薬が必要になるんです。何がより必要とされるのかを予測するために、義勇軍のパーティーバランスの
モンドだけでなく、
「その次は、
シイナは、三人が頷いたことを確認して続けた。
「三つ目は、市場調査──、仕入れ先での
シイナの経験上、物品の需要を把握し、予算内で業者と交渉する点は、病院の用度課と共通している。その交渉こそが、モンドの
「なるほど。
モンドの反応もよく、シイナは少し安心した。次は、やる気が欠けるマートンである。彼は、完全に受け身姿勢で、のんびりとコーラを飲んでいた。
「どうぞ、シイナ。僕はどうしたらいいのかな?」
「
「みんな適当だからさ、変な組み合わせのアイテムを持って来たりもするよ。僕はオーダー通り錬成するから、変な物ができるけど」
「マートン、プロ意識が低い……」
と、
すると、さすがに年下の少女からの批判は
「僕だって、職人だし。伝説の武器みたいなやつを作ってみたいさ。でも、それは別に求められてないし」
シイナが思うに、マートンには
しかし《ユグドラシル・サーガ》ガチ勢のシイナは、マートンが
「マートンさんは、伝説の武器を作れる鍛冶師です!」
「え……。シイナ、そんな言い切られても。僕、実績ないけど」
「やり方を変えませんか?
「それじゃあ、時間がかかり過ぎるよ。僕の手間が増えて、割に合わないしさ」
シイナは、「マートンなら、そう言うと思った!」と、心の中でニヤリとした。彼の
「時間に関しては、予約制にして、面談と作業の時間を確保するんです。で、面談ですが、面談料を錬成費用に上乗せするのはどうでしょう? マートンさんの仕事には、それだけの価値があります!」
「面談料? そんなの、
マートンは
「マートンよぅ。おめぇがもっと
「ボクは、丁寧な仕事が好き……。マートン、一回じっくり
「えぇー……。そんな簡単に、
二人の援護もあり、マートンは
「次は、キャンディさん。あなたは逆に、作業を簡易化した方がいいと思います」
シイナの言葉に、キャンディは不満そうな顔をした。しかし、モンドとマートンは納得の顔だ。
「ボクは……、
「作るところはそのままで。素材集めを、義勇軍に依頼するんです。クエストです!
クエストならば、この異世界にも
「そっか……。それなら、アイリスに
キャンディは小さく
ボクっ
そして会議は、シイナの案にまとまっていった。その
考えを聞いてもらえることが
こんな感覚は、日本で機械のように
「最後に、モンドさんの仕入れ・売上げ統計リスト、マートンさんの予約表、キャンディさんのクエスト広報ですが、私がやらせていただいてもよろしいでしょうか?」
シイナが言うと、三人は異論なしと
「もちろん頼みてぇよ。だが、どうするつもりなんだ?
と、モンドは首を
ここで、ついにシイナのスキルが登場だ。
「【エグセル】です!」
三人とも、初めて聞く単語にきょとんとしている。
シイナ自身、ここ数日で発見し、研究した機能だ。メニュガメを調べるうちに、【エグセル】を立ち上げ、操作する方法が分かったのだ。しかも、他者のメニュガメにデータを送信することも可能という
シイナは三人に、そのスキルを簡単に説明し、試作品が完成
「数式とかデータとか、小難しいことはよく分からねぇ。とにかく、シイナに任せてみるか!」
「うん。僕もそれでいいさ。やってみないと、分からないし」
「ありがと……。商人隊マネジャーさん」
シイナは、彼らの
受け入れてもらえた、
「私の方こそ、ありがとう。私、頑張るから!」
◇◇◇
会議の後、シイナは義勇軍のリーダーであるフォルテへの報告や、【エグセル】作業、市場調査の同行、職人との打合せなど、目まぐるしく働いた。その生活は、かつて、
「やぁ、シイナ! 商人隊の業務改革は順調みたいだね!」
新しいシステムが
「えへへ、ありがと。まだ細かい見直しはいるけどね」
「でもでも~、シイナっちが来てから、モンドの店で
「マートンも変わったぜ。ちゃんと話したら、武器のこと、めっちゃ考えてくれるんだ。こないだなんて、
「キャンディさんも、
これは、期待通りの結果が出ている、とシイナの顔は思わずにやけてしまった。そして、商人隊メンバーの頑張りが嬉しかった。
みんなにフィードバックしなければ、と思った時、フォルテの一言がシイナの胸に
「君にしかできない仕事だ。ありがとう。シイナ! 今後も
「……!」
それは、今までシイナが欲しくてたまらなかった言葉だった。
強い風が
「シイナ、
フォルテは、なかなか言葉が返せないシイナを心配し、顔を
「うぅん、大丈夫! ステータス異常なし!」
「そっか。よかった。でも、働きすぎはよくないからね。覚えておいて」
「うん、分かった」
シイナが笑ってみせると、フォルテは安心したようだった。
「じゃあ、僕らはチェバ城へ進軍するよ。シイナたちは、戦いが終わるまで、ここにいてね」
「えっ! もうチェバ城?」
チェバ城──、それは二十章の
「
フォルテの後に、レオナたちが続き、シイナはその後ろ姿を見送った。
しかしシイナは、今のフォルテの言葉は聞き
「いつもの陣形……」
つまり、フォルテ、レオナ、アストール、アイリス、ガーナ、モネ、ランスロットの七人は、固定化された
「ヴァルド様。大丈夫、だよね?」
シイナは、先日加入したばかりのランスロットが、早くもスタメン入りしていることに驚いた。だがその一方で、彼のバランスのいい攻撃と
シイナは、まずはヴァルドロイが無事に仲間となってくれることを
◇◇◇
チェバ城。エルバニア王国義勇軍とシュヴァリエ王国暗殺師団の戦いの
いや、部下などではなかったか。
部下とは名ばかりの、反乱分子である彼への
「あの人には死ぬなと言われたが、俺に何ができるというんだ……」
男は
それを理解してしまった彼は、いつの間にか死に場所を求めていた。
だがせめて、あの人のために、
そのため男は、エルバニア王国の義勇軍との戦いの最中、城内外の
しかし、もちろん、監視役たちがそれを許すはずがない。
「やはり裏切ったか。構わん、貴様程度の代わりなど、いくらでもいる!」
だろうな、と男は心の中で
そして、剣と魔法をひたすらに振るい続け──。男はすっかり静かになったチェバ城の
「これは……。敵が、もう……」
遠くから複数名の近づいてくる音が聞こえ、ようやく義勇軍が
「いや、フォルテ君。一人いるぞ。あれは、【魔剣】だ。始末しよう」
金髪の聖騎士が、男の存在に気が付いて、鋭い
当然の行動だろう。男は、応戦する気はもちろん、
しかし、勇者は首を横に振って、聖騎士を止めた。
「ランスロット、待ってくれ。彼がシュヴァリエ王を止めたいと思っているのなら、僕たちに協力してもらうのはどうだろう?」
「
聖騎士だけではない。男自身も、勇者の発言に耳を疑った。敵軍の将を仲間に引き入れるなど、
「そうだね。僕も少し前なら考えなかったと思うんだけど……。シイナが言っていたんだ。『二代目の暗殺師団長なら、話せば仲間になってくれたりしないかなぁ~』って。なんだか、僕もそうしたい、そうできると思って。どうだろう、【魔剣】の師団長さん」
いったい何者だ、そのシイナという
しかし、当の勇者にはすっかり戦意がない。つまり、男は死に場所を失ってしまった。ならば、生きざるを得ない。
「ヴァルドロイだ。この命、好きに使ってくれ」
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