第二章 商人隊をマネジメント! 第一話
異世界に転職したその日から、シイナは天幕の一つを借りて暮らすことになった。あるのは簡素なベッドとテーブルと
そして、翌日。初出勤日に、シイナが商人隊の天幕を目指して移動していると、フォルテと魔術師ガーナが立ち話をしているのを見かけた。
彼らの話によると、義勇軍は、エルバニア王国とシュヴァリエ王国の国境にある、キャワベ
そして、そのチェバ城で待ち受けるのが、シュヴァリエ王国の暗殺師団──、ヴァルドロイが率いる暗殺部隊だ。
ゲームのストーリーでは、ヴァルドロイは暗殺師団を
「チェバ城は
そう話すガーナは、フォルテと同郷の出身で一番の親友。義勇軍の初期メンバーの少年であり、いわゆるショタ
「チェバ城を
「あぁ。そのつもりさ。たしか、陣を構えているのは暗殺師団だったね?
「い、今、暗殺師団って?」
「やあ、シイナ。君も知っていたんだね」
「暗殺師団はシュヴァリエ王国の二大勢力なんだし、知ってて当然じゃないの? 知らない方が変だよ」
ガーナは仲の良いフォルテとの会話を
しかしシイナは、《ユグドラシル・サーガ》名物である、フォルテにだけ「デレ」、それ以外には「ツンツン」なガーナを見ることができたので、それはそれで悪くない気分だった。
「でも暗殺師団って、今は本当に強いかどうか、ボクは
「え! どうゆうこと?」
ヴァルド様が弱いわけがないでしょ! と声をあげそうになったシイナだが、ぐっと
「数か月前に、暗殺師団が反乱を起こしたんだよ。シュヴァリエ王のやり方についていけなかったのかな。フォルテ、覚えてない?」
「そういえばあったね。でも、たしか
そこで、シイナも設定資料集に
ヴァルドロイは二代目の暗殺師団長であり、
「初代暗殺師団長──、【
ガーナの解説に、シイナはぐうの音も出ない。ゲームをしていた時は、暗殺師団の
「じゃあ、城の構造もしっかり調べ上げておいた方がいいね」
「そうしよう。ボク、
フォルテとガーナは力強く頷き合い、
「二代目の暗殺師団長なら、話せば仲間になってくれたりしないかなぁ~」
という希望をたっぷり込めた言葉を残して、その場を後にした。
内心では、信頼できる仲間を失ったヴァルドロイのことを
「私にできることって、何だろう。レベルもスキルもないし……」
見慣れた
ちなみに、ゲーム《ユグドラシル・サーガ》でのレベル上限は99と統一されており、どうやらこの異世界でも、それは同様らしかった。それは、経験値稼ぎに行こうとするアストールが、「目指せ! レベル99マックス!」と気合いの入った
しかし、大切なことはレベルだけではない。どのジョブにもある
術技というのは、いわゆる、【なんとか
一方スキルというのは、
そしてシイナは、戦うことができないジョブ──、商人隊マネジャーであるため、レベルと術技は初めから存在していなかったのだが、なんとその時、メニュガメを操作していると、スキルのページが見つかったのである。
「ある! スキルがある!」
それは、ゲームをプレイしている時には、お目に
スキル、【エグセル】。
エグセルといえば、表計算やデータ集計に長けたソフトウェアとして有名だ。もちろん、シイナも
シイナは、苦笑いせずにはいられなかったが、
「まずは課題整理よね! 現状
シイナは新しい職場に胸を
◇◇◇
シイナは、オリエンテーションとして一日ずつ、商人隊のメンバーの仕事を手伝って回っていた。しかし、
初日は、商人モンドに同行して、町に武器や道具の仕入れに行ったのだが、その方法はまさに感覚と感情によるものだった。ちなみに彼のスキルは【
「俺は、勇者たちがいらねぇと言ったレアアイテムを買い取って、それを町の武器商人や薬師に売る。
と、
「でも、モンドさん。昨日は、矢がない、ってレオナが言っていたけど、どうして?」
シイナは、モンドに
義勇軍のためにと思うのなら、
「そりゃあ、お前。町の武器商人が、
「で、実際は矢の在庫がなかったわけね」
「まぁ、そういうこった」
モンドの決まりの悪そうな顔を見て、シイナは
「おら、
「はいはい! 持ちます!」
モンドに回復薬をどっさりと
「これ、買いすぎじゃない?」
と、思わず口に出さずにはいられなかった。モンドの反省はどこへやら、だ。
◇◇◇
その翌日は、義勇軍の武器や防具のカスタマイズを担当している、
ゲーム内では、プレイヤーが特定の組み合わせのアイテムや素材を提供することで、別のアイテムを
そしてその
しかし、仲間たちの話によると、実は半日で仕上げる職人というのは、なかなかいないらしく、作業スピードに関しては評価が高かった。マートンは若いが──、といってもシイナと同い年なのだが、才能のある職人であり、迷いのない仕事をするため、納品が早いそうだ。
そしてシイナは、その辺りをとっかかりにしてマートンに話しかけてみた。
「マートンって、仕事がすごく早いって聞いた! 私と同い年なのに、すごいな~って」
しかし、マートンは気だるそうに
「僕をおだてたら、
「おだてたつもりはないけど……。
「ふうん。ま、一応それなりの修行はしてきたからね。ただ、今、
シイナは、マートンの言葉が、日本の社会人の多くに当てはまりそうだなぁ、とぼんやりと思った。大学や専門学校で学び、社会に出たところで、仕事に楽しさや面白さを
「錬成って、だいたい未知の組み合わせでやるんだよ。日々研究。だから、失敗したってしょうがないと思うんだ。
「その結果が、下位
そのまま
「まぁ、そんなかんじさ。とりあえず言われた通りに仕事して、適当にお金
マートンは、鉄の
「う~ん、オリハルコンがあれば、
「フォルテに教えてあげたらいいんじゃない? オリハルコン持ってきたらいいよ、って」
「シイナ。僕は仕事を増やさない派なんだ。最初に金額はこれくらい、って示してるし。追加金を計算するのも面倒だ」
シイナ自身、「仕事は増やすな」、という言葉は、用度課にいた時も上司によく言われていた。その点は、たしかに
「シイナ。そこの箱から、
何か案を考える
「えぇっと。はい! これとこれとこれね!」
シイナは、素早く素材をかき集め、マートンの目の前に持ってきた。マートンはそのスピードに
「ありがと。難しいのに、見分け
シイナは、「素材コンプ、やり込んだからね!」と、心の中で思いながら、得意げに笑ってみせた。
◇◇◇
そして、その次の日は、三人目の商人隊メンバー、キャンディという少女の工房を
彼女は、ダメージ軽減や属性
「えええ? ど、どうしてそんなにボロボロなの?」
「誰……?」
「うそ!
シイナは
「君……、
キャンディは消え入りそうな声で言った。
「私はシイナ。数日前に就職したんだけど……、今はそれどころじゃないって!
シイナは、キャンディをそっと
「アイリス、いる? キャンディが倒れたの! お願い、みてあげて!」
「まぁ、キャンディさんが、また? すぐに行きます」
アイリスは、お
シイナがそんなアイリスを連れて工房に駆け戻ると、アイリスは、すぐにキャンディに治癒術を
「キャンディは、大丈夫? もしかして、
シイナは不安になって、アイリスの顔を
キャンディのメニュガメは、シイナと同じくHPの表示がない。もしかして大きな傷か、それとも状態異常か、見た目だけでは分からない状態だった。
「いえ。傷は浅かったので、術で十分治ります。後は、休息が必要ですね。キャンディさんは、低栄養と
「はぁ~、ちょっと安心した。じゃあ、ゆっくり休ませてあげなきゃね」
「お食事も、お
あぁ、白衣の天使だ。
「でも、キャンディは、どうしてこんなボロボロに? そういえばアイリス、また、って言ってたけど。前にもあったの?」
しばらく
「えぇ。キャンディさん、とても仕事熱心な方なんです。でも、それが
と、困り顔になった。
「じ、自分だけで? そんなの危なすぎる!」
これは何とかしなければならない。何か情報はないだろうかと、シイナはキャンディのメニュガメに
【こだわりの
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