第一章 私、異世界転職しました! 第二話
《ユグドラシル・サーガ》は、ユグドラム大陸を
物語は、
その後、若き王が
義勇軍には、エルバニア王国の守護の
そして、現時点は、シュヴァリエ王国との戦争の真っ最中というところらしい。しいなは、面接後の、フォルテとクリスの会話から推察したのだ。
現在、義勇軍が
どうやら、
「ということは、今は十八章、【聖なる
しいなは心の中で言ったつもりだったが、口に出ていたらしい。フォルテが不思議そうな顔をして、こちらを見ていた。
「えっと、そのぅ……」
しまった! と、しいなは心の中で慌てた。どこまでメタ発言が許されるのか分からず、言葉を
大好きな《ユグドラシル・サーガ》の世界を、異世界から来た自分が、必要以上に
「い、今のは、私の故郷の格言です」
「へぇ! そうなんだ! 十八章が【聖なる誓い】なら、格言はいったい何章まであるんだい?」
「序章から終章までで、全三十二章。私の人生の縮図と言っても過言ではないかもしれないですね!」
取り
しいなが、「勇者様、あまり
「これ、フォルテ。せっかくシイナが働くと言ってくれたんだ。拠点の案内くらいせい」
しいなは助かったと思う一方で、いつの間にか、おばあちゃんが自分のことを「シイナ」と名前だけで呼んでいることに気が付いた。彼女は偉い魔女様のようだし、こちらも「クリス様」と呼び方を変えた方がいいのだろうかと思った時──。
しいなが何気なく
「な、なにこれ?」
と、しいなは思わず裏返った声をあげた。よく見ると、フォルテとクリスの頭上にも同じような画面があるではないか。
「何って、メニュガメじゃないか! 君の故郷にはないのかい?」
フォルテは右の人差し指で、白い小画面を引っ張り下ろす動作をした。まるで、タッチスクリーンを操作する動作であり、彼の
「メニュガメ……」
つまり、ゲームでよく見るメニュー画面だ。キャラクターのステータスや装備品、スキルの習得などを
その一方、クリスのメニュガメは【クリス 導きの魔女】で、しいなは【シイナ 商人隊マネジャー】となっていた。レベルや体力の表示がないのは、NPC
「あの、私の商人隊マネジャーって、どんなジョブなんですか?」
シイナが自分のメニュガメをタッチしてみても、商人隊マネジャーの説明は出てこなかった。入っている情報といえば、装備品がブラウスとスラックスであることだけで、興味深いことに、それらは装備品扱いのようだった。
「わたしは、用度課だと思うとるよ。義勇軍の商人隊を、より効率的に、より能率的に動かす仕事だよ。ただ、メニュガメに説明がないということは、自由
クリスに言われ、「自由解釈って、そんなのアリ?」と、シイナは首を
そして、
「うわぁ!
天幕を出ると、空の
「私、ほんとに《ユグドラシル・サーガ》の世界に来たんだ……」
太陽の光が暖かい。
今、自分が見て感じている世界は、日本ではない。ましてや、画面
非現実的でありながら、まさしく現実。ここが、新しくシイナが生きる場所であると思うと、自然と心が
「外に出ただけで、こんなに嬉しそうにするなんて。シイナって不思議だね。もしかして、今までの職場は、地下
フォルテは、しゃがんで草を撫でていたシイナに手を差し
その手は温かく、やはりリアルなのだとシイナに実感させた。
「ここが、憧れの場所だったので……。前の職場は、地下帝国ではなかったけど、生きた
「そっか。大変だったんだね。ここでは、何か困ったことや、分からないことがあったら、すぐに相談してくれたらいいから」
なんて
かつての上司と
「天幕って、こんなにたくさん張るんですね。それだけでも大変そう、ですね」
さっそく見たままの景色についての話をしたシイナに、フォルテは宣言通り
「敬語はいいよ。僕はこだわらないから。……義勇軍も、人数が増えてきたからね。数日前からは、エルバニア王国の聖騎士団の一隊も加わってくれたし」
シイナはフォルテの言葉に
そんなことを考えていると、シイナはふと、一つだけ異様に目立っている天幕を見つけた。
「ねぇ、あの天幕だけ作りが違うみたいだけど?」
天幕群の中に、
「あれは、なにごと?」
「シイナよ、あれはまさしく商人隊と、商人隊に対するクレーマーさ! まったく、何回揉めたら気が済むんだい」
「うーん、今日だけで三回目かな」
と、クリスは
その一方で、シイナは驚きを
「おーい! 今度はどうしたんだい? また回復薬が売り切れた? それとも、武器の値段が法外かい?」
フォルテは爽やかに、にこやかに、揉めている中心へと割って入っていった。そのダッシュ力は、さすが主人公といったスピードであり、シイナとクリスは、彼に
「ちょ~! フォルテっち! 店に矢が
「オレはグローブの
天幕の前で、ピンク色の
この二人は義勇軍の戦闘員である、
きゃあーっ! 二人とも尊い!
シイナは、フォルテに会った時もそうだったが、不思議な
「二人の言いたいことは分かった! 今回は仕入れと錬成についてだから、モンドとマートンだね? 理由を聞いていいかい?」
と、フォルテは慣れた様子で、商人隊に話を
「おめぇらは、このご時世の武器調達の苦労を知らねぇんだ! 矢の一本だって、貴重なんだぞ! レオナ、おめぇ、もっと燃費のいい武器にしろ」
「僕は仕事したさ! アストールが適当に頼む、って言ったから、オーダー通りさ! 文句を言われる筋合いはないさ」
中年の商人モンドは、大声で
レオナたちの不満はもっともだろう。こんな説明では、客は納得できるわけがない。「この商人隊は、なかなか
そんなシイナの存在に、揉めている当人たちもようやく気付いたらしい。一同の視線がシイナに、そしてシイナのメニュガメに注がれたのが分かった。
「お姉さん、初めて見るね。シイナっち、っていうんだね。あたしと名前似てるから、親近感だな~。よろしくね!」
レオナは、
彼女は、話し方こそギャルっぽいが、出身は
「はい! シイナです。栗栖おば……、クリス様の
シイナはつい、「いつもお世話になってます!」と言いたくなったが、その言葉は心に留めておいた。一方、アストールは何も言わなかったが、軽く
対して、苦情を寄せられていた商人と鍛冶師は、シイナのジョブ名を指差している。
「アンタ、ジョブが商人隊マネジャーって……」
シイナは、モンドの
「商人隊ってことは、俺たち側の新入りってことか! ははは!
「そうだよね。
意外にも、モンドもマートンも好反応を示してくれたため、シイナはホッとした。二人とも、先程までの険悪な表情が
思い出すと、ゲーム内では、義勇軍がほんの数名の時から、大軍勢に
これは業務の見直し
「モンドさん、マートンさん。お力になれるように
「おうよ! まぁ、お
「せいぜい、僕に楽させてよね」
モンドとマートンは、話してみるといい人そうな印象だ。職場の仲間としては、うまくやっていけそうで、まずまず安心だ。
そんなシイナの心中を読み取ってか、クリスは満足そうに
「では、今回の揉め事は、
「僕は構わないけれど、レオナとアストールはどうだい?」
「クリス様が言うなら、
「オレも、いいぜ。その代わり、次はきっちり頼むぜ」
レオナとアストールも
「シイナよ、わたしは一度国王の元へ帰るが、また顔を出す。それまで
「えっ! おばあ……クリス様、もう行っちゃうの? 私、お礼も何もできてないのに……」
「礼なら、仕事の結果ということにしようかね。なぁに、楽しくやってくれたらいいよ」
こうしてシイナは、難のありそうな商人隊のマネジャーとして、勤めることとなった。もちろん、やるからには
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