借り物競走(過去編)ー④

 体育祭が終わった。

 いつの間にか美咲は帰ったようで、借り物競走の後からは発見することが出来なかった。


 玄関を開けると、美咲の靴を発見する。


「ただいま」

「…………」


 リビングでテレビを眺める美咲に帰宅を報告する。けれど、美咲は何も返事をしてこなかった。


「いつ帰ったんだ? せっかく来たなら最後まで見てから帰ればよかったのに」

「……お兄さ」

「ん?」

「なんで借り物競争のとき、沙由姉を選んだの? お題、『好きな人』だったんでしょ?」


 美咲がテレビに顔を向けたまま、問いかけてくる。


「あ、あれは、ほら……友達として好き、みたいな?」

「だったら、わたしじゃダメだった?」

「は?」

「妹のわたしじゃダメだった?」

「ダメじゃないよ。日比谷がいなかったら、美咲に頼んでたと思う」


 美咲は下唇を噛み締めると、体育座りの姿勢に移行する。


「わたし、二番目なんだ?」

「二番目なんて言ってないだろ。ただほら、日比谷って人気あるからさ。あのままだと他のやつが日比谷を連れてゴールしそうだし」

「ふーん……」

「なんだよその態度」

「じゃ、もしわたしも同じ立場だったらどうしたの? わたしか沙由姉、どっちかしか選べなくて、選ばなかった方は他の人に連れてかれちゃう。そんな状況だったらどっち選んだ?」

「そ、それは」


 回答に困る内容だった。


 もしそんな状況だったら、俺はどっちを選ぶのだろう。


 答えに窮していると、美咲は視線をそっと落としテレビをぼんやりと眺める。


 結局、俺が回答を出すことはなかった。

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甘えたい幼馴染は「なんでも言うコト聞く券」を持って、キスをしたいと迫ってくる ヨルノソラ/朝陽千早 @jagyj

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