異世界転生したが姉が前世で知っていた悪役令嬢?だった。

黒猫Sin05

異世界転生したが姉が悪役令嬢らしい?

「カラミティ・テスタロッサ!貴様との婚約を解消する!」

広いパーティー会場にその言葉が響き、歓談していた人々は一斉にそちらに向いた。

この場所はこの国、トラブ王国が貴族や商人の子息、才能ある平民から選ばれた者たちが学べる場所である学院の講堂、声がよく響く。

現在この講堂は学院の行事でもある軽い立食パーティーの最中だ。この学院に通う貴族の子息の婚約者探しや貴族同士のつながり、商人の子息や才能がある者たちが卒業後の就職先の伝手や顔つなぎなどをするために行われるよくある行事であった…今までは。

飲み物や軽くつまめる物などが並んだテーブルが並ぶ場所より一段上から、青年が少女の肩を抱きながら下にいたドレスを着た少女に言ったのだ。

彼女は侯爵家の娘カラミティ・テスタロッサ、発言の主はこの国の第二王子バリー・テネス・トラブ、二人は幼い頃からの婚約者同士であった。

(まさか今日だったとは…)

そんなことをオレ、カラミティ・テスタロッサの弟でカラミティ伯爵家の跡継ぎレブン・テスタロッサはため息とともに考えていた。


突然だが、まあ最近よくある話で、オレは前世に日本で生きていた日本人であり記憶がある。

異世界に転生した時はヒャッホウと大喜びして胸を高鳴らせたのだが、だんだんと成長していくうちにこの世界が前世日本で知っていたゲームの世界に酷似していたのに気づいた。

王国の名前と自分の家の名前そして何よりも自分の姉である女性の名前が”あれ”だからである。

こりゃまずいかとも思ったが、悪役令嬢と呼ばれていた姉は、家族思いでオレにも”優しく”時に”厳しい”ながらも良い姉である、前世の知識を必死に思い出しとりあえず事を起こさないように立ちまわっていたのだが…。


ちらりと壇上の第二王子に肩を抱かれている少女をちらりと見た。王子に隠れながら口元が”してやったり”とほくそ笑んでいたのが見えた。

どうやらオレとご同類(前世記憶もち)のようだ。

「殿下、突然何をおっしゃっているのでしょうか?私にもわかるように言っていただけますか?」

突然の発言にも何の衝撃も受けていないように、軽い立食パーティーにも悪目立ちしないが目を引くくらいの軽装のドレスを身に着け、気品と美しさを崩さないままコテンと姉は首を傾げた。

美しい彼女のにしては可愛いしぐさに見えるがオレは気づいている、姉の声が壇上の二人を威圧しているのに、その証拠に何故か第二王子の方が腰が引け始めている。

彼はそれでも高貴な血筋と人の上に立つ地位の生まれのプライドゆえか、勇気を振り絞って発言を続けた。

「ここにいるステラ男爵令嬢に対して貴様は数々の嫌がらせを行い、階段から突き落としたそうではないか!」

叫ぶように、会場に響くように告げた後、第二王子は肩を抱いた少女に顔を向けた。

「そうです、カラミティ様は私が気に入らないと数々の暴言と、取り巻きの方たちをつかった酷いイジメを…そしてついには階段から…。」

泣き崩れるかのように第二王子に抱き着くセレナ男爵令嬢の芝居がかった姿に自分と姉の周囲以外がざわざわとし始めた。

(詰んだな…)

彼女の証言はあらぬものであるが、多感な年ごろの上に第二王子が発言しているということで、信ぴょう性など皆無なのに信じるに足ると生徒たちが思い始めていた…。

一部をのぞいて。

「そうですか、私が、その?えと?どちら様か知りませんがその方に色々した、という事でよろしいですか?」

姉は少々悩んだ末に笑みを浮かべて問いかけた。

「なんと白々しい!貴様には我が妻になる資格などない!貴様との婚約など破棄して私はこのステラ男爵令嬢と婚約する!」

姉を見ることなくステラ男爵令嬢を抱きながらあらぬ方へ指差し宣言する。

(それが本音だろうに…、要はステラの方が可愛いからだろ。しかしまあ、あの女よくもやってくれたものだ。)

オレは再度ため息をついた”だいたい”のシナリオ通りに事は進んでいるが、ステラは気づかなかったのだろうか?第二王子の周りと自分の周りに、取り巻き(他の攻略キャラ)がいないことに、なぜか王子攻略ルートしかなかった事に。

裏をかかれたのはタイミングだけだ、後の彼女の攻略できると思い込んでいたであろう者たちはすでに第二王子から離れて行っている。

第二王子とは言え、爵位の高い貴族の子息が取り巻きにいるものだが、ここはゲームではなく現実だ。

ぽっとでの男爵令嬢にうつつを抜かしていられるほど、彼らも卒業後の地位は確かではないのだ。

そこいら辺を少しづつ教えてやれば距離をとるものだ、純粋培養の軽い神輿の王子様以外は。


それにこれから、もっとも彼女ステラの”勘違い”を修正する出来事が起こる。

オレも最初にこれが現実だとわかるようになった洗礼を。


「よくは理解できませんが、殿下はそうおっしゃるのですね?」

腹の底から冷え冷えとする声が、静かに、だが透き通るように講堂のすべての生徒たちに届いた。

「そ、そうだ貴様のような卑怯愚劣な女など…」

第二王子の発言は途中で途切れた、彼の顔に姉、カラミティのつけていた手袋が当たったのだ。

「では殿下、私は傷つけられた乙女心と、名誉のために戦わせていただきますね。」

少女のようなあどけなさの笑顔を浮かべながら、姉の背中から恐ろしいまでの殺気が立ち上った。

姉の周囲の者たちは、慣れている手つきで特注のドレスの裾を動きやすくし、長く伸ばした銀の髪をまとめ上げ、装飾品を厳かに恭しく受け取った。

そしていつの間にか姉の隣にいたオレは、すっと差し出された姉の拳から腕に”我が伯爵家伝統のテーピングとグローブ”をはめた。

これこそオレがこの世界がゲームとは違うと認識させられた現実だ。


「カラミティ!貴様何をしたと思っている!そしてその姿、なんと野蛮な!。」

第二王子の声が震えている、怒りではなく恐怖によって。

彼は忘れていたのだ、婚約に際し我が家と王家の取り決めの中に、いつ、いかなる時もテスタロッサ伯爵家は実力を行使できると。

普通それは貴族の爵位でつぶすとか、外敵に向けられたものであるのだと第二王子とその派閥は思っていたのだろうが、その条件を見たとき王は気づいていた、だから厳しく教育してきたが彼は逃げた。


「我が伯爵家はその地位に胡坐をかかず、代々武勲を上げてきました。ですが、その中で何度も危うい目にあい亡くなる方もおりました…。それに故日々鍛錬を積み、戦いを挑まれたならば受けるのみです…。さあ、お二方ご用意はよろしいですね?」

姉は戦士のように立ち、淑女の微笑みを浮かべるというアンバランスなすがたで壇上に歩みを進める。

その姿に用意を手伝った過去、敵対し姉の”慈悲”と”慈愛”によって信者となった令嬢たちが神々しいものを見るかのように瞳を輝かせていた。


「カラミティ!やめろ!私はこの国の第二王子だぞ!なにかあれば父上がだまっておらんぞ!。」

今にも逃げ出したいのに体が動かず、ガタガタと震えながら王子は叫んだが姉は意にも介さず、音一つ立てずにずんずんと壇上へと昇ってゆく。

「うそでしょ!?なんであんたここで断罪されないのよ!それにその姿は一体何?取り巻きとかにも裏切られて断罪されるはずでしょ?!」

思わずステラ嬢が叫んだが彼女の勘違いはまだ治らなかったようだ。

物心つき、ある程度育ったころから姉の相手をさせらた自分も、最初はああやって絶叫したものだ、それも今は懐かしい。

「悲しいけどこれ、現実なのよね…。」

物語のような陰険で卑劣な手段で相手を蹴落とそうとする悪役令嬢はここにいない。今、現実にいるのはどんな敵にもひるまず真っすぐに撃破する王者がいるだけだ。

そしてオレは懐から”伯爵家伝統のゴング”をとりだし、鳴らした。

カーーーーーーーーン

金属の音が行動に響き、それと同時にカラミティは走り出し、動けない王子の顔面に右ひざを打ち込み、そのバランスを保ったまま、一瞬で足の動きを変え王子の首を刈り取った。

刹那の事で、王子に抱きしめられたまま逃げることもできなかったステラ嬢も、共に壇上に倒れた。

意識がない王子に興味を失ったカラミティは、次なる獲物に取り掛かった。

ステラ嬢を昏倒した王子から解放すると、その場で首と肩を腕でロックし、絞めにかかった。

1,2,3,4、5…カンカンカーーーーーーン!

勝負ありと判断した俺はゴングを鳴らし、壇上に上がり王子の意識がないのを確認し、ステラ嬢も失禁して意識がないのを確認。

その場で追い打ちなどせず、静かに佇んでいた我が姉であり勝者の右腕をとり…

「両名とも昏倒により…勝者!カラミティーーーーテスタロッサーーーー!!」

勝利宣言を告げると姉の信者が壇上に駆け上がりタオルを渡したり花束を渡したりと大忙しだ。

姉は満足げにうなずき信者に声をかける。

そして彼女らを従えて壇上より声を上げた。

「私はいつでも、誰の挑戦でも受ける覚悟でございます。皆様方もご遠慮なくかかっていらっしゃることをお持ちしております。」

叫んではいないが講堂すべての生徒の響いた。

そして誰からともなく。

姉を称える声が響きだした。


現実の悪役令嬢も楽ではないのだなぁ、しみじみと調教されたオレはつぶやくのだった。


 

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