第14話 決着

 人型がこれまでの戦いでは見せなかった勢いの乗った一撃を繰り出す。

 ユリスさんはそれを剣でいなし、バランスを崩したことで生じた隙を突くために剣を返す。

 しかしそこで四方からユリスさんに向かって影の剣が飛んでくる。

 最初の一撃はこれまでにない思い切ったものだったけどそれ以外はこれまでにも何度か見た流れだ。

 人型は自身が隙を作るような動きをする際に影の剣を差し込むことでユリスさんが攻撃できない状況を作り、ユリスさんが無理矢理攻めてくるようであればその隙を突くというような戦い方をしている。

 手数も相手に分があり隙を突くこともできないため戦闘開始からここに至るまでにユリスさんは一度も有効打を与えられていない。

 これまで通りならこのあとユリスさんは近づいてきた影の剣を躱しつつ自分に当たりそうな物だけを剣で払い、その間に人型は体勢を整えて仕切り直し、という流れになる。

 今回もそうなるんだろうなぁと思って見ていると、予想外の展開になった。

 ユリスさんに迫った影の剣はユリスさんに触れることなくあらぬ方向へと飛んで行き、ユリスさんの剣が人型を捉えた。

 肩口から斜めに入った剣が人型を両断。司令塔を失った身体は力なく倒れ込み灰に変わっていく。

 先程飛んで行った影の剣が戻ってきてユリスさんと人型の間に割って入る。

 地面に倒れた人型はユリスさんに向けて何かを言うと灰になり、それとともに影の剣も姿を消した。

 既に戦闘を終えていた三人がユリスさんの元に歩み寄り何やら声を掛けている。

『終わったよ』

『はい。お疲れ様です』

『マスタールームに戻してもらえる?』

『ルビアさんの腕輪はいつ外します?』

『私達を回収してからでいいんじゃない?』

『あの、よろしければ私も皆さんと共に戦わせて頂けないでしょうか?』

『外したら帰るんじゃなかったんですか?』

『はい。ですからこれは外して頂かなくて構いません』

『はぁ』

『私はさっき噛んだ子に謝ってくれるまでは反対です』

『我はどっちでもいいぞ』

『じゃあそのモンスターの意見を聞いて決めよう』

『はい』

『じゃあ私達をダンジョンに戻してくれる?』

「四人をダンジョンの入り口に移動させろ」

 命令するとユリスさん達が第一階層にある入り口の前に移動した。

 それからしばらくユリスさん達が入り口の前に立っているとエミューと共に噛まれたモンスターが現れた。

 噛まれたモンスターは話ができないのでエミューを通訳として連れてきたのだろう。

 エミュー達がユリスさん達の前まで行くとルビアが一歩前に出て頭を下げ、ルビアが頭を上げるとユリスさん達が話し始めた。

 音声を拾っていないので何を言っているのかはわからないけど噛まれたモンスターが身振り手振りで何かを伝えてエミューが翻訳しているのはわかる。

『ルビアさんを仲間にしてもいいって』

『じゃあマスタールームに入れるようにしますか?』

『うん、お願い』

 タブレットを操作してルビアもマスタールームに入れるようにする。

『できました』

『じゃあ移動させてくれる?』

「ユリスさん達を……」

 いや、今のままだと狭くてルビアが入れないか。

『ルビアさんは小さくなれたりしますか?』

『私のことは呼び捨てでいいですよ。多少窮屈ですが可能です』

『たぶん天井が低くて入れないので小さくなってください』

『ルビアが迷宮創造主になったら高くなったりするんじゃないか?』

『あ、じゃあ一旦マスタールームから出るのでその間に許可をお願いします』

『うむ』

「ウムル」

「うん!」

 ウムルと一緒にマスタールームを出る。

『どうですか?』

『許可したぞ』

 中がどうなってるのかわからないので顔だけ中に入れてみる。

「あっついな」

 天井はちゃんと高くなってるけどフローリングの奥にマグマみたいなのができてる。

『一応天井は高くなりました』

『じゃあ移動させてもらえる?』

「四人をマスタールームの草地に移動させろ」

 ユリスさん達を移動させてから自分も中に入り、神の系譜を使って汗や汚れを落としてキッチンに向かう。

「ねえ、暑くない?」

「暑いですね」

「そうですか?」

「ルビアさんは暑くないとダメなの?」

「いえ。暑いところのほうが快適ではありますが暑くないとダメというわけではありません」

「じゃあちょっと涼しくしてもいい?」

「はい。問題ありません」

「ハジメ君、あの入り口のところの属性変えてもらえる?」

「はい」

 属性を変えるためにダンジョンマネージャーをトップ画面に戻すと〈残り七十一時間五十七分〉という謎のカウントダウンが表示された。

「ウムルさーん」

「なに!」

「これ何かわかります?」

「戦いが終わったから次の戦いに向けての準備期間が始まったんだよ!」

「いつの間に終わったんですか?」

「時間的にさっきだね!」

 ルビアがここの迷宮創造主になったくらいのタイミング?

「ダンジョンの掛け持ちってできないんですか?」

「できないよ!」

「ルビアさんの作ってたダンジョンはどうなるんですか?」

「マスターがいなくなったダンジョンは消えちゃうよ!」

「なるほど」

 ダンジョンが消えたから勝ったことになったのか。

「ハジメ君、早く」

「あ、はい」

 玉のような汗をかいたユリスさんに急かされたので属性を変える。鎧を着てるから暑いのかな。

「変えました」

「できれば涼しくして欲しいな」

「はい。マスタールームを涼しくしろ」

 残っていた熱が消えて涼しさが戻ってきた。

「ありがとう」

「いえ」

「さっき準備期間がどうとかって言ってたけど、どのくらいあるの?」

「七十二時間くらいです」

「じゃあ宣戦布告されたときと同じくらいだ」

「はい」

「じゃあ少し休憩してから次の準備をする?」

「自分は皆さんに合わせます」

「私はお風呂に入りたいです」

「私も」

「じゃあ一旦休憩にして、頃合いを見て皆で話し合いをするってことで」

「うん」「はい」「うむ」「うん!」「わかりました」

 ユリスさんとリューズさんが立ち上がり、それぞれの部屋へと歩いていく。

「私はどこにいればいいのでしょうか?」

「今からちゃちゃっと部屋を作るのでそこにいてくれてもいいですし、ここで寝ててもいいですよ」

 言いながらタブレットを操作してマスタールームの拡張と分割を行って枠を確保してから属性を変更する。

 ルビアは身体が大きいので部屋も大きめにした。

 属性は火山とか火とかにしたほうがルビア的にはいいんだろうけど、マスタールームが暑くなってルビア以外が疲れるだろうから普通の寝室にした。新しく階層を作るときには暑いところを推そう。

「とりあえず一番奥がルビアさんの部屋です」

「ありがとうございます」

「じゃあ自分も一旦部屋に戻ります」

「私も参ります」

 自分達も立ち上がり廊下を進む。

「じゃあ自分の部屋はここなので、またあとで」

「はい」

 部屋に入り、見慣れた座椅子に身を預ける。

 ふぅ。大したことしてないけど精神的に疲れた。これがまだまだ続くんだよな……。

 そういえば折角使えるようになったのに全然魔法使ってないや。

 今回みたいに神の加護や守護を持ってる敵がどれだけいるかわかんないけど、また出てきたときのために練習しとかないといけないな。

 よし! このまま十分くらい休んだらお風呂にでも入って魔法の練習でもするか!

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迷宮創造主になったので迷宮を作って戦います @_sai_

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