メイプルシロップ・パンケーキ
宇佐美真里
メイプルシロップ・パンケーキ
「よく漫画に出てくるタワーみたいなパンケーキが食べたいなぁ~」
カレのその言葉にワタシは頷いた。
「いいね!」
そういえば、パンケーキを食べるのは久し振りのような気がした。
休日のブランチ。
キッチンでワタシは、ボウルの中の小麦粉を溶いていた。
カップボードから皿とカップをふたつずつ取り出し、紅茶の準備をしながらカレが訊く。
「パンケーキとホットケーキって何か違うの?」
「それ…前にも話したコトあるじゃん」
「そうだっけ…」とカレは舌を出す。
ホットケーキは、日本だけの呼び方だ。
「パンケーキは"パン"…フライパンで焼いたケーキの総称…」
「あ、思い出した…へへ。じゃあ、クレープもパンケーキ?」
「う~ん…、そういうコトになるね…」
ティーバッグをカップに用意したカレは、スマートフォンを持ち出して画面をスクロールしながら読み上げる。
「パンケーキは食事的に甘さ控えめで…、ホットケーキはデザート的なモノ…というヒトも居るけれど、それは"俗説"…だって」
「それも前にワタシ言った…」
そんな何度目かのたわいない会話をしながら、用意された皿に一枚ずつパンケーキを積み上げていく。
「こんなもんでいいんじゃない?」
「充分だね!」
最終的にカレの皿にはパンケーキが十二枚も積み上げられていた…。
ワタシは二枚で十分だ。
「子供の頃はさ…いつも『掛け過ぎよ!』って言われて、
好きなだけメイプルシロップを掛けられなかったんだよね…」
カレはパンケーキを食べる度に子供の頃の話をする。
「好きなだけ掛けたらいいよ…もう大人だし…」
そしてワタシも毎回同じように言う。
「シャンパンタワーならぬ、シロップタワーだねっ!」
嬉々として、積み上げられたパンケーキタワーにメイプルシロップを垂らしていくカレ。
積み上げられたパンケーキの上から下へ、シロップがゆっくりと伝っていく。
『あぁあ………、またびちゃびちゃにして…まるで子供みたい…。
もはや、ただのシロップ漬けだよ………』
そう思いながらもワタシは黙ったまま、はしゃぐカレを見ている。
「甘~いっ!やっぱり、目一杯のシロップは幸せだなぁ~!」
皿に溜まったたっぷりのメイプルシロップに大喜びするカレ。
そんなカレを眺めながらワタシはしみじみと思った。
『ワタシ…このヒトに甘々だなぁ…』
シロップ漬けのようなカレのパンケーキとは対照的に、
皿に僅かに残るメイプルシロップをワタシは、パンケーキ最後のひと欠片で拭い取って口に入れる。
生地に加えられた…ほんのちょっぴりの塩が、少しのメイプルシロップでも充分に甘さを引き立てている…。
休日のブランチ。
口いっぱいにパンケーキを頬張りながら笑うカレを、ワタシも笑いながらみつめた。
-了-
メイプルシロップ・パンケーキ 宇佐美真里 @ottoleaf
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます