EXストーリー
番外編:悪魔
アスタゴ合衆国、軍施設のとある一室に阿賀野は一人で座っている。大した家具のない殺風景な、ただ檻のある部屋に押し込められていた。
先日、派遣されていた戦場からアスタゴへと彼は送還された。
「…………」
アスタゴにはまだ馴染まない。
ガチャリと扉が開く音がした。
『よお』
阿賀野は静かに顔を上げた。
「……見覚えあんな、アンタ」
二十を僅かに過ぎたばかりの阿賀野は声の主の顔を記憶の中のモノと照合させる。
『お前は若い頃の儂に似てるな』
「……何だって?」
最低限の言語能力に少しだけ耳が慣れてきた程度。ネイティブの発音を完全に聞き取れる訳ではない。
『言葉、わからねえのか?』
阿賀野は少し遅れて答える。
『ああ』
今のは簡単な質問だった為に何とか答えられたが、他はほとんど伝わらない。
『俺は陽の国出身だ』
阿賀野が取り敢えずと言った様子で出身の国を目の前の男に告げれば、難しい顔をして『知ってる』と答えた。
『お前は軍上層部じゃ有名人だからな。ミカエルを殺した男ってな』
ミカエルという名前に阿賀野の眉尻がピクリと反応した。
「……成る程な」
ミカエルが誰なのかを阿賀野も薄らと理解出来てきている。最初こそ、ミカエル、ミカエルと連呼されて何のことだか阿賀野には分からなかったが、どうにも最後に戦ったタイタンのパイロットがそのミカエルという男なのだと。
『タケユキ・アガノ』
「?」
名前を呼ばれ、何を話されるのかと身構えるが、意味を為さないことに気がつくのは直ぐだった。
『お前は死ねない』
どれだけの屍を重ねても、阿賀野武幸という男は死なないだろう。アイザック・エヴァンスという男は彼を自らに重ねているところがある。
「そんな気もねぇよ」
溜息と一緒に吐き出す。
「それで、爺さん。それ言いに来ただけかよ」
他に目的は無いのか。
お互いの母国の言葉は殆どが一方通行。特に阿賀野からアイザックに向けたものは通じていないだろう。
『アイザック整備士』
二人の沈黙を破るようにもう一人男が入ってくる。
『ああ、アダム司令』
アイザックは形ばかりに見える敬礼を先程部屋に入ってきたばかりのアダムに送る。
「タケユキ・アガノ……今回も無事に戻ってきたみたいだな」
プラチナブロンドの髪、痩せ型の体型。アダムの事は阿賀野もよく知っている。
「無事に戻ってきましたよ」
お陰様で。
皮肉にも聞こえるような口振りだが、アダムは気にした様子は見せない。
「何度も言うが、君を使い潰し消耗品のように扱うつもりは私には無い」
「…………」
陽の国の人間など殺してしまえと世間は思うかもしれない。公表されていればの話ではあるが。
アダムとしては阿賀野の戦力を使い潰し、殺してしまうなど余りにも下らないと思う。
「君にはミカエルに代わる働きを期待している」
「ああ、俺が殺した……」
阿賀野が呟くと食い気味にアダムが言う。
「だからこそ」
ミカエルを殺したという実績を持っている阿賀野であるから。
「私は君に求めている」
彼の代わりである事を。
阿賀野が存命であるのは阿賀野自身の実力と、アダムによる計らいの結果だ。
「私は失礼する。呉々もヴォーリァとの戦争が本格化するまで死なないでくれ」
アダムが去っていくのを阿賀野とアイザックは見送った。
『何を話してたかさっぱりだ。まあ、儂も失礼させてもらう、タケユキ・アガノ』
扉に手をかけた瞬間に阿賀野は何かを思い出したのか、一言だけ。
「I like your painting」
不慣れなアスタゴの言葉で告げると、アイザックは何も言わずに背中を向けて部屋を出る。阿賀野にこそ彼の顔は見えなかったが、彼は部屋を出た後でクツクツと笑っていた。
傲慢な戦士:偽 ヘイ @Hei767
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