エピローグ
epilogue:とある男の帰還
「ここか……」
一人の男がとある学校の中に入っていく。足取りに迷いはなく、ただとある目的のために。
髪の色は金髪と白髪混じり。
年齢は五十台前半、或いは四十代後半に見える。
「久しぶりすぎて慣れねぇな」
来客用のスリッパがあるのを見つけ、履き直し堂々と校舎内に入り込む。関係者以外の侵入を禁止されている校舎内に入るなど問題行為なのだが少なくとも彼は気にしていない。
自分勝手と言うべきか。
「ちょ、ちょっと! 誰ですか!」
年老いた女教師が職員室があるであろう方向からカツカツと歩いてくる。
「
挨拶を一言、横を通り抜けて行こうとする。
「ちょっと、待ちなさい! 警察呼びますよ!」
女に肩を掴まれて彼は歩みを止める。
「ん? アポイントメント必要なのか。悪いな、ンなもん取ってねぇ。とにかく、四島出せ」
態度は相変わらずだ。
「四島……は、私の旧姓ですが」
女性教師の言葉に眉間に皺を寄せる。
「ここに四島が居るって九郎なんちゃらに聞いたんだけどな」
嘘でも聞かされたか。
「アイツの下の名前なんだったか……」
昔もそちらの方で名前を呼ぶ事はなかったために思い出す事ができない。
「そういや、ここの校長だって聞いたな。校長室に通せ」
女教師は腹を立てているのか顔を真っ赤にして「だから!」と語気を荒げる。どちらも譲らない話に騒がしくなっていく。
「──お前、は」
たった一人の男の声が空間に静けさをもたらす。二人はこの男を知っている。お互いのことを知らずとも、二人は今現れたこの男が誰なのかを覚えている。
「兄さ……校長! この人が勝手に……!」
彼女は先程現れたばかりの男性に向かって駆け寄る。
「あ……ああ」
身体が震えていた。
彼の目尻には大粒の涙が浮かんでいる。
「ああああああああああああああああああ!!!!」
膝から崩れ落ちて彼は泣く。
大の男が、大人にもなって恥も外聞もなく泣き喚く。
「よお、四島」
名前を呼び、ニヤリと笑う。
「随分と頭が爽やかになったな」
小馬鹿にしたように言ってやる。
顔も皺が多く老けてしまっている。若い頃の玲瓏さを外見に感じられない。だが、それでも彼はこの男を四島であると分かった。
「────」
四島雅臣の心はこの瞬間に救われたのだった。
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