最終話
戦争は終結したと言えよう。
アスタゴ最大の軍需企業、エクス社の代表取締役社長の死亡。デウス・エクス・マキナの製造者であるトム・ウィルソンの逮捕。
激動から一年、二人が墓石の前に立っていた。
アスタゴ合衆国は、まだまだ問題が山積みだ。しかし、一先ずの区切りがついた事は間違いない。
「…………」
一人の男、ユージンにとって。
彼は墓にタンポポの花を添えて黙祷し、数秒。隣に立っていた女性も既に数本ほど添えられていた花にもう一つタンポポの花を乗せる。
「もう何人か来てたみたいだね。アリエルは皆んなに愛されてたみたいだ」
クロエは花を置くとゆっくりと立ち上がり黙祷を捧げる。
「らしいな」
ユージンはぶっきらぼうに呟く。
「はい、これ」
クロエはユージンにいくつかの物を手渡す。一つはパスポート。もう一つは飛行機のチケットと幾らかの金。
「で、なんだコレは?」
ユージンが手渡された箱を軽く持ち上げる。見るからにアクセサリーの入っていそうな箱だ。彼は装飾品の類に興味がない。クロエもこんなことは分かっているはずだろう。
「ネックレスだよ。ダイヤモンドの」
「売れば金になりそうだな」
ユージンは確認のために箱を開けて中身を確かめる。
「人工のだけどね」
「……人工だぁ?」
素人目には分からない。
人工も天然も変わらないだろう。
「遺骨からダイヤモンドを作る技術とかもあってね」
「……アリエルのか」
流石にユージンにも分かった。
「何で、俺が……」
ここに墓があるのなら、こんな物を持ち歩かなくとも良いだろう。きっとアリエルの友人も墓参りに来る。
「アリエルはあなたと一緒に居たいって」
クロエはクスリと笑う。
「アイツはンなこと言ってなかったろ」
ユージンが眉根を顰めながらネックレスに向けていた目をクロエに移した。
「なら、あのキスは?」
クロエの質問にユージンが溜息を吐く。
「好きだったんだよ、ユージンの事」
思い出すのは唇に感じた柔らかな感触。どんな思いを抱き、アリエルがユージンにキスをしたのかなど二人には分からない。
「なら、応えなきゃね。それが男の甲斐性ってやつ?」
コテンと小首を傾げたクロエに、ユージンが「そう言うんじゃねぇだろ」と否定を入れる。
「じゃあ、どう言うの?」
クロエは分かっている。
誘導尋問の様に。
ユージンの、ユージン・アガターの答えを吐かせようとした。アリエルとの関係を、彼女に対する関係性を。
「──家族だろ」
墓石にはこう刻まれている。
R.I.P. Ariel Agutter。
クロエは微笑みを浮かべ、家族である彼女の墓石の前から去っていくユージンの背中を見送る。
彼の首裏で金属が少しの光を反射し輝く。頭上には澄み渡る青空が広がっていた。
第二部・『傲慢な戦士After Ages』・完。
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