さめざめと泣く鴉は白い

入間しゅか

さめざめと泣く鴉は白い



傘を忘れた私は雨宿りしながら、あなたの言葉を思い出す。「君といると心が安らぐ」とはどういう意味だろうか。

土砂降りの雨に打たれながら一羽の白い鴉が誰もいない公園で鳴いている。あれは鴉なのだろうか?鴉が白いものか。

そうか、白いからお前は悲しげに鳴くんだね。あなたと居る私みたい。閉まったタバコ屋の屋根で雨宿り。白い鴉は雨の中、公園の錆びた鉄棒に止まっている。

あなたに髪を撫でられて「君は君のままでいい」と言われても、私が見ていたのはあなたの背後にある時計の秒針。

さめざめと泣く鴉は白い。あなたといる安らぎに染まれない私はきっと、黒い。

閉まったタバコ屋の隣に置いてある自販機だけがやけに明るい。タバコに火をつけて、吐いた煙が白い鴉と私の間を彷徨う。

これは何度も見た夢の話だ。もう間もなく私は泣き腫らして目を覚ます。眠るあなたに背を向けて。

白い鴉が飛んでいく。目覚めの時が来たようだ。雨の音。タバコ屋の屋根が痛いと言ってるように聴こえる。タバコを踏んずける。

あなたの声が空から聞こえる。

「君といると心が安らぐ」と雨粒に混ざり降ってくる。


目が覚めた。目の前にあなたの背中。後ろから抱きついてみたくて、触れた背中があたたかい。私たち、ずっと一緒だよね?

私は黒くなれなかった鴉のように、さめざめと泣いた。

「君といると心が安らぐ」

せめてドレスを着る前に、あなたの言葉の意味を知りたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さめざめと泣く鴉は白い 入間しゅか @illmachika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ