第30話 城下町にて

ゲートを使い、僕達は一瞬で王都に着く。

ゲートとは一体どんなものかと思っていた。

体に異常をきたさないのか、負担はかからないのか。

かなり心配をしていたけれど、全然異常は無かったようだ。

考えてみれば、ライアスさんは毎日のように使っているんだ。

体に悪いなら、国が許可する訳無いものね。


今日はまず、王様との謁見の予定だ。

だから僕も気を使い、それなりの服を着てきたつもり。

だけど上等のつもりでも、それは僕の中での基準。

王様に会うに相応しいかと問われれば自信がない。

何度も服を確認し、しわにならない様に引っ張たり、

ついてもいないホコリを落とす様に

ポンポンと叩いてみたり。


「デニス、そんなに気にしなくても大丈夫だ。

君はどんな物を身に纏っても、とても綺麗で素敵なんだから。」


「何ですかそれは。

冗談を言っている場合じゃ無いんですよ。

これは僕にとって大切な問題ですから。

王様に気に入られなくて、そんなに貧弱な奴は、

ライアスさんに相応しく無いと言われて、

結婚を許してもらえないかもしれないし…。


「ライアスさん、僕はやっぱり王様に会うなんて出来ないです…。

せめて、王様に会うのに相応しい服を着て、

改めて会った方がいいんじゃないかな。

でも、王様がお休みの日にわざわざ僕に会ってくれるのだから、

約束を破る訳にはいかないし。

どうしたらいいんだろう……。」


「何を言っているんだデニス。

今の君は十分素敵だ。

それはさっきから言っているだろう?

そんなに心配をしなくても大丈夫だよ、自信を持ちなさい。

だが、もし君の気が済まないのなら、

今からデニスが納得できるような服を買いに行こうか。

そうだ、そうしよう。」


ライアスさんは僕の手を握り、

城に向かっていた道を不意に曲がり、

少し細くなった道を進む。

やがてその道は、高級そうな店が立ち並ぶ道になっていた。

そのうちの一軒の店の入り口を押し、

ライアスさんは平気な顔で入っていく。


「ここは城の者達がよく利用する店だ。」


「そ、そんな所の物なんて、僕は買えません!」


一応何が有るか分からないからと、有り金は全て持ってきたけれど、

お城の人が買うような服など、僕にはとても手が届かないだろう。

僕はライアスさんの腕を掴み、帰りましょうと言いながら、

ぐいぐいと腕を引っ張るけれど、

僕の力ではライアスさんの気持ちを変える事なんて出来なかった。


「デニス、私の我儘を聞いてくれないか?」


「我儘ですか?

もちろんです。

ライアスさんの言う事なら、いくらだって聞きますよ!」


「それなら、君の服を…君を私の望み通りの姿に変えてもいいか?

もちろん王に会うのに、

君が不安にならないような姿にすると約束する。」


え………。


「もちろん私の我儘だから、

その服は私からのプレゼントだ。」


「ダメです!

ライアスさんに僕の服の代金を払わせる訳にはいきません。」


「しかし、私の我儘を聞いてくれるって約束してくれただろう?

それに私達は夫婦になるんだ。

これからはお金の出どころは一つになるんだから、

私がそれを買っても、デニスが買ったと同じになるんだよ。」


「それは屁理屈です。」


「でもなぁ、それならデニスが作ってくれた食事の代金を、

私は払わなければいけないな。」


「だからそれは屁理屈ですってばぁ。」


「とにかくデニスは私の我儘を聞いてくれるんだろう?

ならばこうしていても、いたずらに時間が過ぎるだけだ。」


そう言って僕を奥に連れて行く。

卑怯だよライアスさん。

僕があなたに逆らえないって知っているくせに。




「そうだな、このフロックコートやベストの組み合わせもいいが、

やはりデニスには、このローブの方が似合うかな。」


ライアスさんがしきりに首を傾げ、色々と吟味している様だ。

純白の柔らかそうな生地に、

金の刺繍をしたローブ風のマントをじっと見つめ、

考え込んでいる。


「やめて下さいライアスさん、

そんな高級そうな物は、僕には分不相応です。

やはり違う店に行きましょう。」


僕はライアスさんの上着を引きながら、小さな声で呟く。

確かに薬師をしていた影響で、

ローブの方が照れは無いけれど、

やはりお祭りでも無いのに、

そんなものを平気な顔をして着る訳にはいかない。


だけどライアスさんは、僕の声など耳に入っていないように、

品定めを続けている。


「このローブを着るなら、下はこの水色の方がいいかな。

それともいっそ、この赤いのはどうだろう。」


「お客様、新しく入荷しましたこのピンクはどうでしょう。

可愛らしいこちらの方にはぴったりだと思いますが。」


「そうだな、そう派手な色ではないし、

デニスにとても似合いそうだ。」


「そちらのブルーでお願いします。」


僕は思わずそう口にしていた。

そんなに可愛らしいピンクを着るぐらいなら、

まだ落ち着いた色のブルーの方がいい。

と言う訳で、この白いローブを買う事が決定してしまいました。

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遠きイズガルドの地にて ー弱虫でヘタレな薬師は、遠い辺境に逃げ出したー  はねうさぎ @hane-usagi

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