第7話 挑戦

 昨夜得た知識を忘れないうちにと思い、彼女に会う約束をする。


 とはいえ、彼女の自宅まで車で2時間。近い距離ではない。

 遠距離恋愛とまではいかないかもしれないが、私にとっては遠距離恋愛。


 現代はとても便利なツールが沢山ある

 人類の必需品になりなりつつある携帯電話。また文章制作や動画編集、そして作曲までできてしまうパソコン。両方ともメールを使って文章を送れるしテレビ電話もできてしまう。


 現代は遠距離を感じることが少なくなった。


 私は彼女と会う日までの間メールで、会えない間の会話を繋いだ。


 どんなに些細な出来事でも、どんなにつまらないギャグでも毎日送ることで彼女の精神を支えられるように努力した。


 また本も読み漁った。なるべく「精神を安定させる」本を探しては買い、その本から彼女に伝えられる言葉を探した。


 言葉には言霊が存在すると彼女はいう。言葉の有り難さを知ってるのは私よりも彼女の方だった。


---

 

月日がたち、約束の日を迎えた。


 前回は自分の過去を語った彼女。


 笑顔を作り平然を装っていたが内心はすごく繊細で、「過去」塗り替えたい気持ちと、「過去」を貴方に受け入れる覚悟はありますか?という混ざり合わない気持ちでいた。


 そんな気持ちには動じない私。


 彼女の過去を否定できる生きた方を私はしていない。ずーっと平な道だけを歩いている人生を私は見たことも聞いたこともない。誰だって過去に少なからず失敗をしている。失敗を経験しているからこそ、成功を得ている。


 まるで人生はスプリングのように伸び縮みを繰り返している。伸びているだけで、縮む姿を見せない人は「影で縮む苦労」している。その苦労を見せず淡々しているから「偉大」だと私は思う。


 過去を受け入れるため、そして塗り替えるため、彼女に挑戦して貰いたいことがあった。


 それは「痛みを忘れ日々を楽しむ」ことだった。彼女を「病人」としてデートするのでなく、ごくありふれたデートを望んだ。 


---


 選んだ場所は前回ネットで調べた渓谷。


 そこは澄んだ水が流れたおり沢山の観光客が訪れる場所。また彼女の地元だということもあり、彼女自身昔の「楽しい時間」を思い出せる場所だった。


 私は意を決して彼女に伝える。

 「今日は渓谷に行こう!」

 戸惑う彼女。数分考えて、言葉を絞り出す。

 「歩けるかわからないけど…」

 私は彼女口から否定の言葉が出ず、安心した。


 ここで「無理」と否定されてしまったら、挑戦自体が終わってしまう。ここから彼女の改善プロジェクトが始まるのに、否定されてしまったらチャンスを失う。 


 私は言葉を返した。


 「大丈夫!限界を感じたらおり返そう。歩けなくなったらタクシーでも捕まえて帰ってこよう!」


 実際渓谷にタクシーなんか来るはずもない。それは彼女もわかっていたはず。

 彼女はクスクスと笑い始めた。 


 緊張感がなくなり穏やかな時が流れた。 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

線維筋痛症の彼女 HiYuu @HiYuu0606

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る