てく研活動日記

とぉ

そうだ京都、行こう

 この世に争いがあるのは争わなければいけない状況と理由があるからで。

 何もなけりゃ、それはそれで面白くも何ともない。

 つまり、何が言いたいのかというと。

「この度は誠に申し訳ありませんでした」

 深々と誠意を見せている最中である。

「ほんっと!申し訳なく思って下さいね!咲先輩」

 土下座ををかます私を半ば同情するような目で見ている女の子。

 同じ部活の一つ下の後輩である、ひーちゃんには文字通り頭が上がらないよ、コンチクショー。

 え、何で私が後輩の子に土下座までしているのかって?

 その理由を説明するには二時間ほど前に遡る必要がある。さぁ、時を戻そう。


「え?観光に行かないかって…どこにですか?」

 電話越しに聞こえてくる可愛らしい声の持ち主は、私が後に土下座をすることになるひーちゃんのものである。

「それは後のお楽しみ!っていうことで、一時間後に駅に集合で。よろしく!」

「え、ちょ!待ってください、せ――」

 ピロンという音とともに画面が切り替わる。

「さて、準備準備~」

 時刻は午前八時。本日は二日ある休日の内の最初の日である。

 なぜ急に部活の後輩を誘ってまで観光に行くのかって?そんなの気分だからとしか言いようがない。そう、今日はどこかに行きたい気分なのだ。

 一応ひーちゃんの準備の時間を見計らって一時間後って言ったけど、私はもう準備が出来ているので時間が来るまで待つしかない。

 でも私は先輩だし。今日行く所のエスコートをするために予習でもしておきますか。

 文明の利器を使用し、サクッと調べ物をする。

「ふむふむ、なるほど」

 ………。

 ……。

 …。

「って、やば!もう約束の十分前じゃん!」

 スマホの時間表示を確認すると、更に時間が加速していた。

 充電しているケーブルを抜き、鞄を手に家を飛び出した私。

 駅までは普通に行けば自転車を使って十分弱。

 このままでは遅刻する。

 遅刻遅刻~と、マンガでよく見るパンを咥えながら通学するようなちょっと余裕のある光景ではなくマジ必死。

 こんな自転車を爆走しているJKがどこの世界にいるのっていうぐらい本気も本気。

 自分から誘っておいて遅刻した日には。

「先輩、今何時だと思っているのですか?約束の時間から二分も経っていますよね?まさか時間もろくに見ることが出来ないオツムの持ち主なんですか。そんな人とは関わっていたくありません。ぷい」(イメージです。)

 とか言われたりするんじゃないだろうか!

 ひーちゃんの性格からして約束の前には絶対にいるし、このままでは…。このままでは!

「うおぉぉぉぉ!」

 自転車から悲鳴が聞こえるぐらいペダルをぶん回し、駅のホームまでスライディング。

 駅の電工掲示板を確認するとギリギリ時間は間に合っている。

「よかった~。間に合った。…そだ、ひーちゃんは?」

 自転車にまたがったまま辺りを確認するが、それらしい姿はどこにもない。

 まさか、無視された…。

 いや、まさか~。約束したのに来ないとかないでしょ。…約束出来ていたよね?

 予想もしていない事態に嫌な方に思考が進んでいく。

 え、一週回って電話をしていなかった…の辺りで。

「だ~れだ?」

 瞬間、視界が失われる。

 暗闇の原因である手で覆われた感覚と質問された声から察するに。

「駅員さん、すいません。すぐに自転車置いてきますので」

「駅員さんじゃないですよ!?分かっていてボケたんですよね?」

 その言葉とともに目に光が差し込んでくる。

 こんな小ボケを挟むのは、待ち望んだ人物だからで。

 特定に至ったもう一つの理由をさらっとネタばらししてしまいましょう。

 私はニコッと微笑みながら、振り返る。

「このいい匂いはひーちゃんだ」

「え、そうですけど…匂いで分かるのは流石に引きます…。」

 そう言って実際に距離を取る。あれれ、その距離感と表情は引き過ぎなのでは?

 ゴミを見る目を頂いたところで、ひーちゃんは話しやすい距離まで戻ってきた。

「それにしても先輩、時間ギリギリ過ぎですよ。自転車が駅に突っ込んで来たときは何事かと思いましたもん」

 見られていました。いや~お恥ずかしい。

「って見てたなら早く声かけてよ!ひーちゃんが居ないと思って不安になっちゃったじゃない!」

「ふふ、急に呼び出したお返しですよ。それより早く自転車置いてきてください」

「むー、意地悪することを覚えてきたな~、もう。置いてくるからちょっと待ってて」

「はーい」


                  ☆


「それで今日はどこに行くんです?わざわざ電車に乗ってまで」

「ふっふっふ。それは着いてのお楽しみ」

 電車に揺られながら、ひーちゃんはいいから早く教えろと目で訴えてくる。

 そんな可愛らしい目で見つめられても、言わ…ない、よ?

 言うか言わないかの葛藤と戦っていると、車内アナウンスが流れる。

「もうすぐ京都駅ですよ。まさか京都駅周辺なんですか?」

「ちちち違うよ…。そそんなところじゃ、ない、よ」

「目が反復横跳びしていますよ。京都で合っていますね」

 プシューという音と共に京都駅に着いた電車のドアは開き、ひーちゃんは迷わず電車から降りた。その後を私は着いていく。

「それで、どこに向かえば?」

 前に立つひーちゃんは私の隣に並んできた。

「よくぞ聞いてくれました!それでは発表します。今回の目的地は…ドゥルドゥルドゥル」

「ドラム音はいいですから…って無駄に発音良いですね」

 十分な溜めを置きつつ、私は息を吸う。そして。

「ここ、京都です!」

「見れば分かりますけど?」

「いやー、思い立ったが吉日ってね。気軽に行ける場所はどこかって考えた時、「そうだ京都、行こう」って自然と口が言ってた訳でぇぇ~ひたい、ひいよ!にゃんでほっへたひっはるの!」

「それは先輩のこの口がいらない事を言ったからですよ」

 私のそうだ京都、行こうに対する怒りからかひーちゃんはしばらく私のほっぺたを引っ張り伸ばし続けた。

 やっと解放されたけど、私のぽっぺたちゃんとついてる?大丈夫?

「痛てて…ひーちゃんも遠慮がなくなってきたね。一応私、先輩なんだけど?」

「良かったですね、先輩で。そうじゃなかったらこの程度では済みませんでしたよ」

 笑顔でそんなことを言うなんて、なんて恐ろしい子…。

「…それはそれとして。これから行くのは部活の一環でもあるんだから、気を引き締めて行こうね!」

「部活って言っても同好会じゃないですか」

「な、何を言うだァー!許さんッ!部活だよ!」

 ひーちゃんが同好会と言っているのは、単に人数が足りてなくて形式上そうだからである。

「だって構成員私たちだけじゃないですか。だから同好会になったんですよね?」

「うぐッ!で、でもひーちゃんが入学する前はちゃんと部活だったんだよ。先輩達が揃って卒業なんてするからであって!」

「分かりました。分かりましたから、もう行きましょ。時間の無駄です」

「あぁー、めんどくさいと思ったでしょ!」

 一人で行こうとするひーちゃんを追いかけ、追い越す。

「というか私より前に行かないで!これから行く場所分からないでしょぉぉ、とっとと」

 ひーちゃんを差し置き、駅の改札を出ようとするが、ピーという音と共に小さな二枚板に阻まれる。

 カードを確認するが特に外傷に異常はない。

 もう一度それをタッチするが同じ現象が起こった。

 ふと改札の画面を見ると、すぐにその原因が分かる。

「…えへへ、ちょっとチャージしてくるから待ってて…」

「さっきの威勢はどうしたんですか…。早くしてきてください」

 手で頭の後ろを押さえながら、申し訳ないと小声で言う。

 持ってきた鞄から財布を取り出そうと。

 …あれ、取り出そうとするが、財布が見つからない。ま、まさか!

「早かったですね。チャージ出来たのなら行きましょ。…?どうしたんですか?」

 下を向いて黙っている私に違和感を覚えたのか、ひーちゃんは心配そうにのぞき込んでくる。

「…して…くだ、さい…」

「え?何か言いましたか?すいません、もう少しだけ大きな声でお願いします」


「お金…貸して、下さいッ!」


 私はためらいなどなく、誠意を見せるポーズをとった。

 古から存在する、人が出来る最高峰の謝り方。

 土下座である。

「え?えっと、ちょっと待ってください。理由を…というか周りの目が痛いです!」

「財布をッ!財布を、忘れてきてしまいました!どうか、こんな私に御慈悲をッ!どうか!」

「…。えー…」


 と、いう訳で現在に至ります。

 いやー、参った参った。まさか部活動をする前にこんな大きな障害があるとは思わなんだ。

 え?部活動じゃなくて同好会だろ?うるさい。部活動である。

 え?違う?何をする部活かって?あぁ、言いそびれていたね。私たちの部活は、


 地域散歩研究推進部 通称、てく研


 いわゆる、遊ぶための部活である。

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てく研活動日記 とぉ @ayameken

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