第2話

僕はその夜、ひとまず彼女と話し合った。

この部屋と関係する事は何か、それについてだ。僕は彼女の性質は《地縛霊》なんじゃないかと仮定し、ネットで色々調べてみた。それこそ今の住所の過去の事や噂なども見た。しかし特にこれといったものは無く、直に問いただす事にした。


『あの...君の名は、じゃなくって。名前は何て言うのか教えてもらえるかな?』


『...。』


彼女は黙り、俯いたまま名前を名乗らなかった。

言えない理由でもあるのだろうか、それとも言いたくないのか...どちらにせよ急ぎではない。きっと何かしらの出来事があれば成仏する。重くなった空気を変えようと、話題を変えた。


『あ、えっとさ..お腹とか空いてない?こう見えても料理にはちょっと自信があってさ。何が良い?』


僕は彼女に問い掛ける。

すると顔を上げ、彼女は小さく答えた。


『オムライスが...食べたいな。』


僕は分かったと伝え、キッチンに向かう。

とは言え材料があるかが問題だった。冷蔵庫を開くと卵、玉ねぎ、ご飯はあったが肝心の肉が無かった。しかし僕は代用品を見つけ、それで作る事にした。その代用品は夜食でつまもうとしていたソーセージ。包丁でソーセージを一口大に切り、手際良く作る。ふと僕は昔の子供時代を思い出して、聞いてくれるか分からないが、彼女に話してみた。


『高校生の頃、僕のオムライスが好きな女の子が居てさ。学校が寮制だったから よく僕の寮に遊びに来て作ったんだ。』


『今は...会ってないの...?』


『うん、卒業式前日に交通事故でね...一緒に卒業したかったし、言わなきゃいけない事があったんだけど、何だか貴女を見ていたら思い出しちゃって。』


そう話をしながら、皿に盛り付け 彼女の待っている席の机の上に用意した。美味しいか不安になりつつ食べる姿を見ていた。


『...美味しい。』


ただ一言だけだが、美味しいと言ってくれた。ほっと息をつき良かったと安心しては自然と彼女の姿を見ていて、僕は思い出した様に自室へ行き ある物を持って話し掛ける。黙々と食べる彼女にとんとんと触れる。触れるんだと思いながらも僕は『ちょっとじっとしててくれる?』と伝え、髪を結んであげた。髪がだらっとしてて見えずらそうと感じていたので、お節介だがやってみせた。


『...髪、結ぶの上手ね。』


『妹が居て、よく結んでやったんだ。僕の親は母さんだけだっから...僕がちゃんとしなきゃと思って。...はい、出来た。』


僕は改めて彼女の顔を見た。

嬉しそうな、でもちょっと恥ずかしそうにしているその人を僕は可愛いと思った。いざチャットではなく幽霊であっても、対面してみると変に緊張してしまう。しかし僕はあるものを見てしまった。彼女の手首に身に付いていた腕時計、動いてはいないが僕の使っている腕時計と似ていた。


『ねぇ、その時計...どうしたの?』


すると彼女はこちらを向いて、初めて笑ってみせた。僕はその表情に驚いた。感情が無いのかと思っていたが、笑っていた。ニコッと笑みを向けた彼女の口から、意味ありげに言葉が僕の耳に入った。


『約束、したじゃない。』

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僕の初恋相手がまさかの幽霊でした くのまる @Kunomaru417

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