第6話
廃工場内に逆縞の叫びが響き渡ると同時に、警察が雪崩れ込んできた。あらかじめ赤鍵、青錐が事情を説明していたおかげで僕らは釈明の必要に晒されることもなく、警察はキバとその一派を速やかに確保し、連行していった。
倒れ伏した逆縞は救急隊の手早い処置を受け、担架に乗せられた。救急車に運び込まれる直前、彼は激痛に耐えながら、
「折れ三角。リーダーは……今日からお前がやってくれ。お前のあの言葉なら、時間はかかると思うけれど、きっと」
そう言った。
後日聞いたところによれば、キバの父親の再婚相手の子どもは捻れた角を持つ女の子であるらしい。キバは事あるごとに仲間に対して「時間がない」と漏らしていたそうだけれど、その女の子が大人になる前に角曲がりが馬鹿にされる世の中を正しておきたいと思っていたかどうかまでは、定かではない。
隠レ角の活動は続いている。メンバーの中には、文章を書くのが得意な者もいれば、衣服を作るのが得意な者もいる。SNSでの情報発信に長けた者、センスの良いウェブサイトを作れる者、いろいろだ。それぞれが隠レ角の名前を使いながら、自分なりの個性を発揮できる仕事を続けている。
正直に言えば、世の中が少しでも変わったかというと、そんな実感はない。
けれど実感がないくらいにゆっくりと変えていくのが僕らなりのやり方なのだろうとも思う。その速度ではキバは許してくれないかもしれないけれど。間に合わない人、今すぐに変わってくれなければ耐えられないような人への言い訳の言葉もないけれど。
空があの時くれた綺麗な絵は、僕の部屋の一番目立つところに、今も飾っている。
今日、僕は空と一緒に、駅前で漫才のような演説をする。
《了》
『角』 綾繁 忍 @Ayashige_X
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