第2話 魔法基礎

「ミセスまだですか?」

「ええ、パーカー、誰もやめなさいなんて言ってないわ」


次こそは大きなため息をついてエドワードは話を続ける。


「14世紀印刷技術など、ある程度発展の足掛かりを掴もうとしていた、工業それに付随した技術の側面はそのまま独自の発展を続けました。魔法が先ほど言った代償、カタリストが必要、かつそれが人の適正によって大きく振れ幅があるものに対して、化学は素材さえあれば、それを適切に活用することによって、火やそういった物は誰の手にも安定して供給されるものだったのです。特に石油を用いた技術的発展は世界を大きく動かしました。」

「ではカタリストになる物質は?」


突然の質問にもエドワードは一切動揺せず答える


「現在あまり大きな規定はありません。ただ色によって相性があると考えられています」

「例えば?」

「火の魔法を使う時は赤色のカタリストを、水なら青色、風ならまあ、イメージでは緑」

「では、青色のカタリストで火の魔法はつかえませんか?」

「NO、火は赤のイメージがありますが青色の火もあります。なので青であってもカタリストとして使えます」

「ではカタリストの価値によって魔法の力は変わりますか?」

「イエス。例えば赤のクレヨンをカタリストとした場合とルビーをカタリストにした場合の火の威力は明らかに変わってきます。」

「では魔法の力が変わるのはカタリストの素材差だけですか?」

「NO、個人の魔力によっても差は出てきます。しかしコレについてはカタリストの素材差ほどの大きな差は見当たりません」

「魔法を使うことによるデメリットは?」

「疲労が大きな問題ですね。一度であれば息切れ程度の疲労感ですが、使いすぎると倦怠感に包まれます。これは魔力の消費が関係していると考えられます」

 

二人の間で矢継ぎ早に繰り広げられる問答に教室は変な緊張感に包まれていた。


「ありがとう、では続きをどうぞ」

「と、いっても此処まで喋ればもう終わりは近いんですけどね。利便性や何とも言えない倦怠感への嫌悪。魔法はそういった面が積み重なっていき、魔法は誰もが使えるが、誰もが使わない、時代遅れの産物となっています」

「最後まくしたてるように終わらせたのは、どうかと思いますが良いでしょう」


 その言葉を待っていましたと言わんばかりに、エドワードは椅子に座った。


「あなたは授業態度さえ良ければ、いい成績をつけて上げたいものなのですが。」

「僕も興味がある内容なら聞くんですけどね。」


さっきの仕返しと言わんばかりに煽るエドワードに、ミセスが眉を顰める。


「例えば『魔法の工業応用学』であるとか」


そういった瞬間、教室に笑いが起こった。


「さすがだなエディ、このタイミングで冗談を言うなんて思ってなかったぜ」

「本当にエドったら」


そういった笑い声にエドワードは手を挙げて応対する。


「静かに」


そんな教室を一言で制圧するのも、ミセスが恐れられる理由でもある。


「パーカーあなたはまだそんな冗談を言っているのですか? 」

「先生、冗談ではなく本当にあれば僕は結構楽しく聞く自信がありますよ」

「もう何回目になるか分からないですが、」

「ストップ、ミセス」

「先生です」

「ストップ先生、その話は先生から耳がタコになるくらい聞いています。」

「あら、そうだったかしら。ならそれを私に教えてもらえないかしら?」

「ミセス、そんな面倒なこともうよくないですか?」


ミセスは黙って首を動かし、エドワードを促した


「・・・・・もちろん、化学、工業の発展に伴って、魔法の併用または応用が可能かどうか政府主導で研究が推し進められました。しかし、うまく作用することはありませんでした」

「それはなぜ?」

「実際のところわかっていません。ただ有力な説の一つにカタリストの問題があると言われています。例えば、鉄を基にして銃は作れますが、鉄をカタリストとして銃を作ることは不可能です。」

「もっと端的に」

「カタリストから物質を作るのは不可能であると考えられています。火や風を起こすことは可能ですがそれ以外、物質的に質量があるものは今のところ難しいとされています。」


 エドワードは何度言わせんだといった態度で、しかし『今のところ』は若干力をいれて答える。するとここまでの答えにミセスは満足げに頷いた


「パーフェクト。あなた本当に優秀ね。けれどもなぜ、あなたはそこまで理解をしながら魔法応用を唱え続けるのかしら」

「だから何度も言わせないで下さいよ。僕とミセスの間で何度この問答が繰り返されてると思ってます?」

「良いから。」


その一言でまた大きな溜め息をつきエドワードは話を続ける


「・・・・水です。水は物質的な重さを持っているにも関わらず、カタリストからの作成が可能だからです。ここに僕はカタリスト経由で応用が可能ではないかと考えています。」

「では、ミス、アイリス」

「は、はい!」

 

 いきなり名指しされた、さっきまでポケーと話を聞いていた女生徒は焦りながら呼ばれた名前に反応する。

 まさかエドワードの問答から自分に当てられると思わなかったのだろう。


「定説では、なぜ水は魔法での精製が可能なのですか?」

「え、え、え、え?」


 聞かれて答えられず戸惑うアイリスは教科書をパラパラと捲る。無理もない、魔法は今や誰も使わないのだ。農家や消防士が井戸や水路の水が足りないからとりあえず使っとくかー位のノリで使われる水魔法の定説など誰も考えないし、教えてもらったところで一回テストを挟めばもう忘れる。


「他に分かるものは?」


 と聞くが教室の誰もが目を合わせない


「では、パーカー」

「ミセス、こいつら本当にバカじゃないですか?」

「良いから答えなさい」

「定説としては、水は特異な物質だからです。重さはありますがそれはどこまでも細分化できます、どこまでも大きくできます。また物質的にも雪、氷、霧など様々な形に変換可能なことから唯一の例外『魔法の例外』と呼ばれています。」

「イグザクトリー。ということよ。自分の説明で理解できたかしら、パーカー」


その返答が答えでしょ? と言わんばかりのミセス


「いやいやいやいや、おかしいでしょミセス。なんでかなー。何でそうなるかなー、ミセス程魔法学に精通している人なら、この物質的例外がおかしいと思うでしょう。そもそも、魔法学に例外があったらダメでしょ。例外があること自体おかしいと思うべきでしょ。この例外を甘んじて受け入れていること自体が僕にとってあり得ないことなんですけど。ミセスは何でこれを受け入れられるのかな」


と吠えた途中でチャイムが鳴った。

まだまだ言い足り無さそうなエドワードは外の鐘にまで噛みつきそうな勢いだった。が


「あら、今日はおしまいね。ではパーカー今日の居眠りは不問にします」

「・・・・・・むしろ、この講義半分くらい僕がやったみたいなものなんだから、加点が欲しいです」

「過去二回分の居眠りも不問にしましょう」


そういって、ミセスは教室を離れていった。

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魔法使いであるために 弓月紗枝 @yamadanoko

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