生きるってどういう事?後編
今までの人生を思い返してみて思い知る。
やはり僕は絵を描く事が大好きだ
何を発言しているのだと思う人間もいるだろう。で?だから何だと。でも自分は何が好きで何が嫌いか、ちゃんと向きあう時間は1度
取るべきだと僕は思う。
それで将来が決まるかも知れないし、決まらずに平凡な人生を歩む事になるかも知れない
それでいいじゃないか。一度思い返してみて
また夢に向かって歩き出す人だっている。
そしてそれは、とても幸せなこと。
「自分の夢さえ叶えられず、命を絶つ人も
ここには居たのに………」
お母さんはスーパーのパートさんとして
働いていたが、お父さんは工事現場の監督の傍ら自宅でちまちま小説を書いていた。
本人は趣味だ!と頑固として小説を僕やお母さんに見せる事はなかったが郵便ポストに原稿を入れるのを自分は何度か目撃していた。
恐らく小説をどこかに応募していたのだろう
必死になってPC画面にかじりついてキーボードを打っていたから。
「お父さんの本当の夢は小説家か」
ボソリと呟きながら床に散らばった紙を
眺める。
「ねぇ…僕ってイラストレーターになりたいのかなぁ?」
紙に話しかけても答えてくれる筈もなく、場はシーンと静まり返る。
「まぁ、いいか」
(考えるのも疲れた。寝よう)
お風呂にも入らず布団も引かず
床で寝る事にした。
____
月日は流れ1ヶ月後、葬儀屋さんから箱を
開ける許可が頂いたので墓地に行ってきた。
「これでちゃんと見送れる」
花を添え、お線香に火をつける。
「お母さん、お父さん…ありがとう」
今までの感謝の気持ちを込め手を合わせた
そしてお墓参り後、僕は交通事故にあった。
信号無視のトラックに跳ね飛ばされ意識は
そこで途絶えた。
___
3日間意識が戻らず、医者はもう助からないだろうと思っていたらしい。それぐらいの
大怪我を負っていた。
「自分が誰かわかりますか?」
「はい。名前は
お墓参りの後、事故に合いました」
「うん記憶障害はないね。…お腹は空いてる?今食べちゃう?」
「あ……お願いします」
「よっし、ちょっと待ってて」
美人看護師がスタスタと音を立て個室から
出ていく。
暫くすると看護師が料理を持ってきてくれた
「いただきます」
「はいどうぞ」
「…モグモグ」
じー
「あの」
「なぁに?」
「ずっと僕が食べてる所見てるんですか?」
「あはっ、違うよ。ちゃんとスプーン持てるか見てただけ。それ確認したら出て行くつもりだったけど?」
「あ、すみません。失礼なことを」
「いーや、私も悪いからね。じゃ、あと親戚の方がなんかの紙を大量に持ってきたから
そこの引き出しに入れといたよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「じゃ、またねぇ〜」
バタンッ
(親戚ね……叔父さんかな)
引き出しを見ると、家に置いてあった白紙の
紙が綺麗に入っていた。
「叔父さんにも見せたっけな。懐かしい」
親戚の中で特に仲良くさせてもらっていた
叔父さんは、僕が絵を描く子だというのは
昔から知っている。
完成するたび自慢していたから。
「わざわざ持ってきてくれたのか…」
早速1枚取り出し、シャープペンを走らせる
「ふふ、3日ぶり♪」
毎日描いてたせいか、体は3日も空けば
紙を欲する。直ぐに絵を完成させてしまう
その日からリハビリや検査、食事時以外は
ずっと紙にへばりつく様に絵を描き起こしていた。
毎日毎日毎日ひたすら___
そして僕は幸せそうにシャープペンを持ち
ベッドの上で息を引き取った。
愛する紙をそれはまた沢山散りばめながら
____
1ヶ月後、近所の公民館で小さな個展が
行われた。
《字並凛さんイラスト作品展》と題して。
主催は
凛さんの叔父さんにあたる方だ。
「今日は沢山の方に来て頂いて私も凛も
とても幸せであります」
そう野太い声で挨拶をし、そそくさと裏に
戻る。
そして、自分を描いてくれたであろう
絵を持ちながら涙する。
「グスッ……ふっ…凛、おめぇ騙したな」
そう空を見やる。
絵を描く子だとは教えたが
誰にも、叔父さんにも言ってない事がある。
それは持病により余命1年だということだ
丁度僕が死んだ日辺りが宣告されてから1年
だったから、そろそろかなとは思っていた。
『僕ね!絵ぇ描いてるの!死んだ後にさ
生きた証として残していきたいの!皆に覚えていてほしいの!だから沢山描く!』
ふと叔父さんと幼少期に交わした日を
思いだす。
(あぁ…だから…。ふふ、個展開いてくれてありがとうね。そしてごめんなさい)
そう僕は、何にもなれなかったが幸せそうに
天国から眺めた。
愛する紙に埋もれて 寿魔都 @miyati
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