愛する紙に埋もれて

寿魔都

生きるってどういう事?前編



お母さんとお父さんの遺骨が自宅に

届けられた。


「この2つの箱ですが…すぐには開けず

1ヶ月後に開けてください。感染すると

ヤバいんで」


若い葬儀屋の男性が憐れむように僕を見る


「分かりました。わざわざ雨の中ありがとうございました。では」

「はい、…失礼します」

バタンッ


玄関ホールに立ちすくむ僕は、まだ現実を

受け止められずにはきられなかった。


「ほんとに死んじゃうんだ」

遺骨が入れられた2つの箱を持ちながら居間に移動する。

兄弟姉妹などは居ないひとりっ子の僕、お母さん お父さんとの3人暮らし。22歳会社員 字並凛あざなみりんは、何不自由なく今の今まで生きてきた。イジメられることも無く普通に学校生活を送れてきた。


今年の2月辺りに起きた感染性の高い

ウイルスが日本に襲ってくるまでは当たり前の様にこのボロアパートに住んでいたのだ。僕の両親は。


海外旅行で感染したのか、それとも働き先で

感染したのか?

それは誰にも解決出来なかった。

ただ、今流行のウイルスにかかった事は

間違いではなかった。

現に2人は、そのウイルスのせいで死んだ。


「僕の収入で何とか暮らせるからって先に

逝く必要はないでしょう……」


箱を棚に置き、周りを見渡す。

誰もいない静かすぎる空間

(親の亡き顔も見てあげれなかった)


今頃お母さんは夕飯の支度を始め、お父さんはそれを見て新聞を閉じ、お手伝いをして

僕も絵描きを中断しお手伝いをするだろう。


「……1人で準備しろって言うのかよ」

誰も居ない部屋で怒りを露わにしても、意味はない。しかしそうせずにはいられなかった


____

ちゃぶ台に散らばる大量の紙を床に置き

ご飯を台所から持ってくる。人生で初めての

ひとり飯は、それはもうクソつまんなかった


ご飯を10分でかき込み、素早く洗い物をし

床に置いた紙から1枚中途半端な絵を取り出し作業を再開する。


別にイラストレーターや漫画家、同人作家という福職に就いてる訳ではなく、ただ趣味の一環として毎日最低でも1枚は絵を描いているようにしてるのだ。


全てシャープペンで描く。デジタルにはない描いてる音が好き。ガリガリ音を出してると

自然とイライラは収まってくるから。


「…………」

ガリガリ__

 

「出来た」

5分後、そこそこのクオリティの絵が完成。


「今日はコードギアスのルルーシュ描いて

みたんだ〜……どう?」

遺骨が入っている2つの箱に話しかけるなど

傍から見たら気味がられるだけなのだが、

仕方がないだろう。

今までは直接その声を聞いていたんだから。


「やっぱ人の感想聞かないとモチベーションあがらないな……」


段々悲しくなってきたのでちゃぶ台に紙を

戻し、何となく今までの人生を思い返して

みる事に。


…僕が絵を描き出したのは、いつなんだ?

幼稚園の頃か?あ〜…多分そうだ。

よくポケモンのキャラクター描いては色んな人に自慢してたっけ。


小学生の時は何かのコンクールで優勝して

全校生徒の前で賞状貰った記憶がある。

中学生は一応美術部だったけどそれらしい

成績は取れずただ遊び感覚で絵を描いてた。


高校生活は楽しかったけど、美術部がなく

家でしか絵が描けなかった。


その後イラスト関係の仕事に就きたい!って舞い上がってた訳でもなく、近くに会社が

あったからって理由で面接を受け、とんとん

拍子で今もそこの会社で働いている。


「うーん……なんやかんや絵は描き続けて

生きてきたんだな」


天井を見上げぼーっとする。













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