第3話 想定外のことが起きました。
「この『ゾルデ歴史学』はなかなか面白かったな。」
大きな本棚に囲まれた部屋の真ん中で、一人の男の子が座っていた。
どうもこんにちは、アランです! 皆さんはどのようにお過ごしでしょうか。
僕は先月の誕生の日で4歳となりました。今では一人で立派に歩くことができ、読書以外の習慣もこなしています!
ゲームしか興味のなかった僕が、ゲーム以外を習慣化できるようになったということに驚くばかりです。ですがこれも僕の目的を達成するために必要なこと……
目指せダンジョンマスター!
「アラン坊ちゃま。なんですかその奇妙なポーズは?」
僕の横に座っている茶髪のメイドさんが不思議そうに見てきた。
やっちゃった。ついつい空に向かって手をグーにして、掲げてしまった。
「マロン何でもないよ。気にしないで。」
「そうですか? では、そろそろ正午のお食事の時間ですので食堂に向かいましょうか。」
メイドに本を棚に戻してもらい、書庫を出て食堂に向かう。
このマロンというメイドさんは僕の世話役を任されている。
僕が自分の力で歩けるようになった以降、お母様とお父様は貴族の仕事に段々専念していった。
このバレンティア家は、貴族の中でも侯爵候補に上がるほどの躍進を遂げているらしい。
しかし僕は家の仕事の話については一切情報を遮断されているので、何を生業にしているかは分からない。
今では両親と会うことができるのは2週間に一度ぐらいだ。
ちなみに、なぜマロンがアラン様ではなくアラン坊ちゃまと呼ぶのかというと、お母様と頻繁に会うことができない僕に少しでも寂しさをなくそうとした結果らしい。坊ちゃまのほうが、距離が小さくなるそうだ。
それにしても年齢は17歳と生前の僕と変わらないのに、なんて優しい子なのだろうか……
「アラン坊ちゃま。どうぞお入りください。」
「ありがとうマロン。」
マロンが食堂のドアを開け、僕を通させる。
その途端、僕の目の前から女性が抱き着いてきた。
「アランちゃん! おはよう!」
「お母様、帰っていたのですか!? あと少し苦しいです…… 」
「こらアーニャ、食事の前だぞ。」
「いいじゃありませんか! アランちゃんと会えたの久しぶりなんだから! 」
両親が今日帰ってきているなんて聞いてないぞ。
まさかと思い後ろにいるマロンを見ると、微笑ましそうにこちらを見ていた。
あいつ知っていて黙ってたな! 後で注意しとかないと。
その日は久しぶりの家族揃っての食事となった。
「アラン。今日もいつもの読書をしてたのかい? 」
「はいお父様。今日は『ゾルデ歴史学』という本を読んでおりました。」
「その年で読書が習慣となっていることはいい行いだ。アランがいるならこの家は安泰だな。」
「当たり前です! なんたってアランちゃんは天才なんですから! 文字だっていつのまにか覚えてしまうし。」
「お母様恥ずかしいのでそのぐらいにしてください…… 」
こんな他愛の話が飛び交うこの時間は僕にとってすごく楽しい。家族と食卓を囲むとご飯もいつもよりおいしく感じる。
そして文字を覚えたことに関してだが、実はお母様の読み聞かせだけでは飽き足らず、部屋で隠れて本を読んでいたことがばれてしまったのだ。
一般的に4歳で覚えるとされる文字を、二歳で成し遂げた僕のことがこの屋敷の皆に知れ渡り、一部の者たちから僕は神童と呼ばれている。
こんなにも将来に期待されたことはないので、少しプレッシャーはあるが、正直気分はいい
ワインを一口飲んだお父様は僕に視線を向く。
「そうだアラン、今日はお前に報告することがある。」
「なんでしょうかお父様。 」
「ああ、今日から魔法の講師に来てもらうように手配しておいた。」
「魔法の講師ですか!? 」
一般的に、魔法の訓練は魔法の講師のもとで行うものらしく、お母様から「講師が来るまでは魔法を使うのは禁止です!」と言われていた。
だから僕がこの日をどれほど待ち望んだかはいわなくてもいいだろう。
「ドラン様、お客様がお見えになりました。」
「話をしている間に来たみたいだな。通してくれ。」
執事様がドアを開け、一人の女性が入ってきた。黒い髪で長いポニーテールをしており、魔術師にしては短い膝までのローブを羽織っている。腰には剣が携えられていて…… えっこの人、剣士の間違いなんじゃないか? 杖を持っていないようだけど。
「お初にお目にかかります。私の名は【カルナ・スタール】。今日からアラン様に魔法を教えさせていただきます。」
「【アラン・バレンティア】です。よろしくお願いします。」
黒髪の女性は、右膝を床につき左手を胸につけ頭を下げる。それに対して僕は椅子から降りて右手を胸に当てお辞儀をする。
この世界でのこの両者の姿勢は礼儀である。左手を胸に当てることは忠誠を誓うこと意味し、右手を胸に当てることは、慈悲の心を与えるという意味だ。
また大体の場合、目上の者が右腕を胸に、目下の者が膝をつき、左手を胸に当てる。
「お父様この方は……? 」
「この者は私たちが王都に向かっている道の途中で倒れていてな。お腹が減っていたらしく飯を食べさせたところ、お返しにと護衛をしてもらったんだ。その腕が中々によくて、よければうちのアランの講師になってほしいという話を持ちこんだら快く了承してもらったんだよ。」
なるほどな…… えっどういうこと?
「私には返しきれない恩がございます。その使命必ず全ういたしましょう。」
「カルナちゃんは固すぎるのよ。アランちゃんの先生になるんだからもう少しに肩の力を抜いていいのよ?」
黒髪の女性は表情を変えなかった。あまり表情を表に出すタイプ人ではないのだろうか。あとご飯の恩ってそんなに大きいのか……?
それにしてもお母様は黒髪の女性のことを信頼しているようだ。おそらく飯を与えようといったのもお母様だろう。
しかしなぜだろう…… ストーリーでこの名前を聞いたことはないけど、なんか見たことある気がするんだよな。気のせいか……?
ご飯を食べ終えた僕たちは、カルナさんが僕の魔法を見てみたいということで家から少し離れた広い高原に来ていた。家からあまり出ない僕は、気持ちのいい風に気分が踊っていた。いやあ…… 風が気持ちいいな。
「では今からアラン様の魔法の能力を見させていただきたいと思います。」
「それはいいのですが、僕は魔法を使ったことがなく、どうなるのか分からなくて…… 」
「確かに『審判の日』で神からのお告げを聞くまでは自分の能力の詳細を知ることはできません。ですがご安心ください。もしアラン様の身に危ないことがあれば、私が対処しますので、全力で撃ってください。それに私は魔法の威力でどのくらいの魔法力をお持ちなのか見極めることができます。」
魔法力ってなんだという目の前のあなた!
というわけでまずこの世界の『魔法』について説明しましょう。
魔法には、火、水、風、土、光、闇、の六属性がある。
しかし光属性は主人公、闇属性はラスボスの配下にしか使えない。そのためこの属性の使い手が出てくるまでは伝説の属性だといわれていた。
また回復魔法だが、向き不向きはあるものの、この魔法に関しては誰のでも使うことができ、なおかつ攻撃魔法ではないので属性には含まれていない。
一般的に1人に対して1つの魔法が使え、2つ以上は珍しい。
比率で言えば
2つ使える者は千人に1人
3つ使えるものは1万人に1人
4つ使えるものは10万人に1人と言われている。
そのため歴史上、4つの魔法を使える者は数えるほどしかいない。
王子に関しては使える魔法の数は4~1と人によってバラバラだった。
主人公はこの作品で唯一五属性を扱えるという、Theチート能力を持っている。
だが、主人公はほとんど回復魔法しか使わないので宝のもち腐れなのだが…… 。
次にランクについてだが、この世界には各魔法に対してランク1からランク10が存在する。ランクが上がると使える魔法が増え、戦略の幅が広がる。このゲームには珍しい増やすことにメリットしかない要素の一つである。
だが、俺はこのゲームの攻略中においてランク5以上の魔法になることは主人公の回復魔法以外はなかった。
ランクを上げるためには同じ属性をより多く使うしかない。だが王子には命令することができず同じ魔法を使わせることができず、主人公は常に回復呪文で王子をカバーすることに必死。
戦略が広がるといったが、それは「主人公のみでクリアを目指す」場合のみの話なので、戦略も何もなかった。
ちなみに、パーティーメンバーの攻撃魔法がランク6以上で戦うことが前提とされて作られていると噂のラスボスはマジでバグくらい強い。俺が勝てたのは一人の王子とパーティーを組んだ時だけだった。
ね、クソゲーでしょ?
そしてカルナさんが言っている魔法力というのは、自分の魔法の威力が上がるステータスのことだ。
それにしても、この世界にダメージ表記はないことは知っているので、魔法の威力だけ見てそのステータス値がわかると言っているこの女性は戦闘経験が豊富なのだろうか。
「アラン様は、ランク1火属性魔法【ファイアーボール】をご存じですか?」
「はい。本で読んだので知っています。」
「今から私が金属の的を作りますのでそこに向かって撃ってください。【メタルウォール】」
カルナさんは50メートル先に自然豊かな高原には似合わない鉄の壁を作り出した。この近くに鉄は見当たらないのだがどういう理屈なのだろうか。
やばい、なんか緊張してきたな。まさか僕が魔法を撃てるようになるとはな…… てかまず僕は火属性魔法の適正はあるか? まあ使える魔法を知ることもこの実践の意味に入っているんだろうけど。
……よし、使えることを祈ってやってみるか!
呼吸を整えて鉄の壁に向かって右手のひらを向ける。
「それではいきます…… 【ファイアーボール】! 」
その瞬間、手のひらの前に僕の3倍以上ある大きさの火の玉が現れて、ものすごいスピードで鉄の壁に激突し、ドゴオォォン!!という爆発音を鳴らした。
その火は容易く鉄の壁を溶かし、その周辺の地面はマグマのようになっており、一部はガラスと化していた。
それにしてもまさか爆発音がするとは思わなかったな…… けどまあ火属性魔法を使えてよかったよかった。
「アランちゃん…… 今のは何の魔法なの? 」
「えっ、【ファイアーボール】ですよお母様。」
なんでそんなことを聞いてくるんだ? 確かに僕もランク1の【ファイアーボール】でこんな威力なの? とは思ったけどさ。
とりあえずカンナさんに聞いてみるか。
「カンナさん僕の火属性魔法はどのくらいのLVでしょうか? 」
「アラン様のさっきの魔法が【ファイアーボール】なら、ランク6以上の火属性魔法に匹敵します。」
「なるほどランク6以上ですか…… ランク6!? 」
「はい。私は火属性魔法ランク5なのですがこのような威力の火属性魔法は出ません。」
どういうことだ? 先天的にランク6ということがありえるのか…… いやありえない。このゲームはクソなシステムはあってもバグは一個もない。じゃあほかの要因が…… もしかして。
「カルナさん、もう一度鉄の壁を出すことは可能でしょうか? 」
その問いを察してくれたのか、同じ距離に鉄の壁を作ってもらった。
俺の仮説が正しかったら……
先ほどと同じ姿勢で魔法を唱える。
「【ファイアーバレット】!」
……だがその魔法は発動しなかった。やっぱりか。
その光景を見たカルナさんがこの現状に理解できない様子だった。なんせ口がぽかんと空いているからな。
「アラン様、これは一体……? 」
「僕の火属性魔法はランク1だったということです。」
そう僕の火属性魔法はランクなんて一つも上がってなんていなかった。
なぜなら【ファイアーバレット】は火属性魔法ランク2にならないと使えないのである。
では、なぜこんな威力の【ファイアーボール】が撃てたのか。
それは…… 基礎ポイントを上げまくった結果であった。
ど…… 読書ってすげえ……。
悪徳令嬢の婚約者に転生しました。~乙女ゲーム史上最悪のクソゲーの世界で、俺はあらゆる手を使って【ゲームオーバー】を回避したいと思います!~ みなかな @minakana782
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