第2話 【ゲームオーバー】を回避する策を考える。

 2歳になった。


 言葉を話せるようになり、四足歩行だが自分の力で動けるようになった。

 そんな僕は今『とある場所』に行くために、お母さんに抱っこされている。


「アランちゃん。書庫の着きましたよ。今日は何の本が読みたい? 」


 そう僕が、行きたかった場所とは、『書庫』であり、【ゲームオーバー】を回避するために必須の場所でもある。

 お母さんが、僕に本棚が見えるようにして部屋をぐるりと回る。

 そこで気なった本の名前を…… と言いたいが、2歳の子がいきなり文字を理解ししていたら怖がられるだろうと思い、黙って指をさす。


 文字に関しては、お母さんに本を読み聞かせてもらっているうちにわかるようになった。

 どうにもこの体は、異常に吸収力がすごい。昔に、幼少期の記憶力は生涯において一番高いと聞いたことがあるが、それは事実なのかもしれない。


「今日はこれが読みたいの? 『水魔法・入門編』ね。本当にアランちゃんは、魔法が大好きね。 」


 お母さんが僕の頭を撫でる。将来は魔法使いかしら? と笑みを浮かべた。

 その手は暖かかった。この場所に来る理由は、お母さんに撫でてもらうために来ているようなもの……


 ではない!

 そんなメルヘンな理由ではなく、この『本を読む』という行為をするためである。


 さてここで、僕の置かれている状態を整理しようと思う。

 転生先の【アラン・バレンティア】は婚約を破棄され、バレンティア家の顔に泥を塗ったということで破門になる。そして最後は『何者か』の暗殺よって死ぬ。

 いや、よくよく考えてもひどすぎるだろこれ……

 アランがなにしたんだよ。


 そのアランに転生してしまった僕は、何として『死』を回避しなくてはならない。

 そこで考えた案は3つだ。


 1. 悪役令嬢が『婚約破棄』するのを阻止する。

 2. 暗殺してくる『何者か』を返り討ちにする。

 3. 婚約破棄を帳消しにできるくらいの『功績』を残す。


 まず1に関してだが、即却下だ。

 その理由は単純だ。

 婚約破棄を阻止するということは、あの【アンジュ・ルクセリア】に好かれなければならない。

 ストーリー上の性格の悪さと言い、5人と婚約するような奴の得体が知れない。

 絶対に不可能であり、こっちから願い下げだ。


 となると2と3の二択になる。

 だが、2はあまりにも不確定要素が多すぎる。

 その『ある者』が単独なのか大人数なのかもわからない。


 そしてこれは『ゲーム』ではない『現実』だ。

 僕にはキャラクターたちのような戦闘能力なんてない。

 家に引きこもりってゲームをしていた高校生だ。

 しかし戦わなければいけない場面は今後出てくるだろうが、自分から増やす行為はしたくない。というか一度も来ないでほしい。


 よって3.婚約破棄を帳消しにできるくらいの『功績』を残す。

 が今後の方針となる。


 次にその『功績』の話だ。

 この婚約破棄イベントは、主人公が王子に対して50%以上の好感度を得た時に発生する。

 その設定が、この世界でも適応されるのか。

 なにより『主人公』はこの世界にいるのかという問題もあるが、今は置いておく。


 僕がそのイベントを最短で発生させたのは『高校2年の春』である。

 それまでに取ることができる功績は一つしかなかった。

 その名は……


『ダンジョンマスター』


 それは、ゲームの世界で、最も価値がある功績でもあった


 ダンジョンマスターとは、ダンジョンの最深部に初めて到達した者に与えられる栄光である。

 そしてこの世界にダンジョンは少なく危険度も高い。

 よってこの功績を持っているのはストーリー上『4人』しかいなかった。


 ちなみにゲームの主人公がこの功績を得るためには、王子との好感度を一切上げず、イベントにも参加しないでダンジョンに潜り続ける方法しかないとインターネットに書いてあった。


 しかしそれは3年間という縛りの話あり、僕にはその縛りはない。

 また、唯一の救いか【アラン・バレンティア】には魔法の才能がある。

 これしかない!


 その方針を決めた俺は、自分のステータスを上げるための努力を始めた。

前にも話した通り、レベル上げの1番効率のいい場所はダンジョンに行くことである。

 しかし今は行くことができず、ゲームの仕様上魔物を倒さなければレベルは上がらない。


 ならなぜ僕はお母さんと本を読んでいるのか

 それは『基礎ポイント』を上げるためである!


 このゲームのキャラクターは、上限のレベル100まで上げた場合のステータス振り方が決まっている。

 なので、もともと魔法特化の王子は、どれだけレベルを上げても近接職にはなれないというような感じだ。


 しかしそれを覆すことができるシステムが一つだけある。

 それは『習慣』と言って、ステータスに基礎ポイントを加算することができるシステムだ。

 この習慣には『筋トレ』や『お参り』などがあり、レベルは上がらないが自分の割り当てたいステータスを上げることができる。


 その内の一つがこの『読書』という行為である。

 読書は一番重要なステータスの各魔法力と頭脳を上げ、稀に『スキル』を覚えることができる。

 これを聞けば、とてもいいシステムと思うかもしれない。



 だがしかし、僕は攻略中に習慣を使ったことが一度もない!

 なぜならば1回で加算されるステータスは一桁であり、大事な1日を消費してしまうからだ。

 恋愛ゲームでの1回行動は鉄板の仕様らしいが、RPG要素を入れたこの作品では縛りしかない。

 ましてや、ハーレムエンドを狙っていた僕としては使わないのが当たり前だった。


「習慣を使うのは初心者か、頭のいかれている奴だけだ。」


 このシステムをネットで調べたら最初に出てくる言葉である。


 だが今は違う! 

 時間はたんまりあるのだ。これを使わない手はない。

 だが、一回も使ったことがないため、何の本を読めばいいのかが分からない。

 なので、それっぽい魔法の本ばかりを見ている。



「私は水の魔法は使えないけど、もし使えていたら花の水やりが楽になったのかしら? 」


 お母さんはいつも楽しそうに笑う。その笑顔で僕も幸せな気分になってくる。

 そういえば、僕ってなんの魔法が使えるのだろうか。


 僕は今、ステータスを見ることはできない。

 6歳になると『審判の日』というものがあるらしく、そこで初めて知ることができるらしい。

 しかし、魔法に関してはいつでも使えるそうなので、外に出た時は使ってみたいものだ。

 

 ちなみに、周りに人がいないときに、できる限りの大きな声で「ステータスオープン!」と言ってみたが、何も反応しなかった。

 すごく恥ずかしかった。


 そんなことを考えていると本が最後のページとなり、読み終わった。


「さて、この本を読み終えたことだし部屋に戻りましょうか。」


 僕は笑顔で返事をした。

 この行動に効果が出てるのかは分からないけど、できることは全部しなくてはならない。


 【ゲームオーバー】を回避するために。


 

 そんな毎日を過ごし、2年が流れた。



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