悪徳令嬢の婚約者に転生しました。~乙女ゲーム史上最悪のクソゲーの世界で、俺はあらゆる手を使って【ゲームオーバー】を回避したいと思います!~

みなかな

第1話 乙女ゲームの世界に転生してしまいました。

「なあ晴彦はるひこ、相談があるんだけど。」

「却下だ。お前の相談なんてろくなもんじゃねえよ。」


 とある高校の昼休み。

 俺たち二人はいつも通りクラスの端のほうの机で、ご飯を食べながら話していた。


「いや、却下早くね!? 少しでも聞いてくれよ~ 」

「わかったから机揺らすのやめろ。で何の相談だ? 」


 目の前の男は待ってました! と言わん顔をして、机の横にかけてある制定カバンから一つのゲームを取り出した。


「なんだこの一人のヒロイン取り囲む、いかにも自分がイケメンだと思っている男どものパッケージは? 」

「ヒロインじゃねえよ、それ主人公だから。」

「主人公? 」

「そそ、これ乙女ゲーム。」


 えっ、なんでこいつ乙女ゲーム持ってんの? まさか男好きだったのか!? 

 こいつとは小学校からの長い付き合いだと思っていたが、まさかこんな趣味があったとは…… 俺はまだお前のことわかってやれてなかったんだな。大丈夫だ、そんなお前に対して俺はさげすむことはしな……


「いやこれ俺のゲームじゃねえよ。だからそんな気持ち悪いものを見る目はやめろ。」


 やばいっ、ばれていたみたいだ。


「じゃあ、なんで持ってんだよ? 」

「これ妹が買ったゲームなんだけどさ、どうしてもハーレムエンドが達成できないからって、俺に頼ってきたんだよ。けど俺が得意なゲームってFPSとかアクションだし、かといって出来なかったと言うのも男が恥じる。」

「で? 」

「お前、RPGとかシミュレーションゲーム得意だろ? だから頼む! 俺の代わりにハーレムエンド達成してくれ! 」

 

 こいつ、この行動こそが男の恥だとはわかっていないのだろうか。というか、やっぱりろくな相談じゃなかったな。それに帰ったら今攻略中の、RPGゲームしないといけないから断るか。


「すまんが今、攻略中のゲームが…… 」

「弁当にある唐揚げ一個と、今度ラーメン1杯おごるからさ! 」

「よし任せろ。必ず約束は守れよ。」


 ということで、その乙女ゲームは俺の手に渡り現在徹夜で攻略中だ。

 俺はこの手のゲームに関しては腕に自信があった。だが……


「いや、HPが余裕なのになんでHP1のやつがかばうんだよ! お前が死んだらゲームオーバーになるだろうが! 」


 やばい、挫折しそうだ……



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【アレクシアを君に】は乙女ゲーム界の一部に有名な作品である。

 このゲームは乙女ゲームには珍しいシミュレーションRPGであり、その作りこまれたグラフィックと有名声優の起用は一時期話題になったそうだ。

 だが、有名になった部分はそこではない。それはこのゲームがあまりにもクソゲーであったことにある。


 物語の舞台となるのは、剣と魔法のファンタジー世界。

 広大な自然や中世の街並みがある都市、そしてダンジョンがあるなど、いかにもファンタジー世界という感じだ。


 主人公である少女は、身分は庶民であるのだが、魔法の才能を認められて学院に入学する。そこには攻略対象の5人の王子さまと出会うことになる。

 そして、学園生活の最中に、同性からのいじめや、国家転覆を目論む組織に襲われて……


 というようなストーリーである。だが、このゲームが鬼畜と言われる要素は攻略対象を落とすのが難しいからではない。

 それはRPG要素の中にある。


 さっきも言った通り、この世界にはダンジョンが存在しており、一番効率のいいレベル上げ場所でもある。そしてそこでレベル70以上に到達した王子と、ストーリー終盤に出てくる敵と戦い勝利することでゲームクリア。結ばれて幸せになりましたというのが大体のゲームの道筋だ。


 ダンジョンでは、パーティーメンバーは好感度が50%を超えた王子を誘うことで増やすことができる。普通、RPGのゲームにおいて仲間が増えることは得でしかないのだが、このゲームは例外だった。

 誰も自分が攻略しようとしている王子以外を増やそうとはしない。それはなぜか? これこそがこのゲームがクソゲーと言われる所以…… 


戦闘のシステムが鬼畜すぎるのだ



 パーティーメンバーに加えた王子は、自分で命令ができず、必ずNPCになる。

 そしてそいつらは意味の分からない行動を起こす。その図はまるで、何もわからない子供を連れて、ダンジョンに来た主人公となる。だが、これはまだギリギリカバーできるので問題はない。

 しかし! 王子がHPを70%切った途端出てくるあのクソ女はなんだ!


【アンジュ・ルクセリア】

 白く長い髪をした美しい少女で、公爵の娘である。しかし見た目とは裏腹に、人を蔑む性格をしており、特に庶民の主人公が気に入らないため、何回も主人公をいじめる主犯格。

 いわゆる『悪役令嬢あくやくれいじょう』である。

 

 そしてこの女の真骨頂は、主人公が王子との好感度50%にあげた瞬間に現れ、「その方とは、私は婚約関係にあります。」

 と衝突に発言してくのであり、それは事実となる。

 

 これがどういうことかというと、今ハーレムエンドを目指している俺の前に、こいつは「5回」現れる。

 つまり、『全員の王子と婚約関係』にあると言ってくるのだ。


 そして、そのイベント後ダンジョン内で婚約関係にある王子がHPを70%切った状態で攻撃を受けてると

「王子様! 危ない! 」

 という発言と共にこの女がかばい、例え1ダメージでも「即死」するのだ。そう即死だ。

 つまり【ゲームオーバー】である。


 70%を切る前に回復すればいいんじゃないか? と思うかもしれない。だが、主人公が全体回復魔法が使えるのは終盤のみであり単体回復しか使えない。

 また王子に命令できないため回復薬を飲ませることができない。

 

 そんなクソゲーをプレイした者たちは口をそろえてこう言ったそうだ。



 乙女ゲーム界の史上最悪のクソゲーだと。


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「ハーレムエンドとか無理ゲーだろこれ…… てか、あいつの妹はこのエンド以外クリアしたって言ってたな。俺よりゲームうまくないか? 」


 俺は攻略を一旦やめて、ベッドへと転がり込む。

 そしてあのくそ女のことを思い浮かべた。


「アンジュ・ルクセリア…… あいつさえいなければ今頃、ラーメン確定だったのに! それにしても、あいつの婚約者だったアランってやつは災難だよな。まさかいきなり婚約切れるなんて、思いもよらなかっただろう」


【アラン・バレンティア】


 赤髪の少し大人し目の少年。貴族の出身で、その魔法の才能がアンジュの父ラング・シューベルトの目に留まり、婚約者となる。

 しかしアンジュに破棄されたことで、バレンティア家の名に泥を塗ったということで破門にされ、暗殺される。この作品において唯一、死が設定されているキャラクターだ。

 また、その魔法の才能は作中で見られる場面は一度もなく、攻略対象ではないため、救うことができない。製作者に嫌われているのかと疑うのも無理はない。


「アランに幸あれ…… さて、のどが渇いたし、自販機でジュースかってこようかな。」


 天国にいるアランに向けて、ベッドの上で手の平を合わせて拝んだ。そしてジュースを買うために家を出た。


「うわっ、外寒すぎ。雪まで降ってるし、さっさと買ってこよ。」


 自販機までの道には少しだけ雪が積もっていた。

 雪が降り始めると、今が冬ということを実感してくる。

 そうこうしている内に自販機の前にいた。


「今日は寒いし、コーンスープも買っておこうかな。」


 コーラと何時ぶりに買ったか分からないコーンスープを俺は両手で一つずつ持ち、家に帰ろうとした。


「え…… ?」


 しかし突如俺の体は、耐えきれない痛みに襲われて宙に舞い、目線の先にはトラックがあった。

 どうやら俺はスリップしたトラックに引かれたらしい。なんだか今は世界がゆっくりに見える。これが死ぬ前ということなのだろうか。

 頭にはこれまでの思い出が浮かび上がる。あれ、ほとんどゲームの記憶だな? 

 自分でもおかしくなって笑ってしまった。表情は動かないけど。そんな俺が最後に思ったこと。


 ああくそっ、あのクソゲーをクリアしたかったな……



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 目が覚めると、目の前には赤髪のきれいな女性が俺のほうを見ている。なんだか息が苦しそうだ。


「…… …………! 」


 何かを言っているのだろうが、全然聞き取れなかった。事故にあった後、病室に移動したのだろうか。けどこの人ナーフ姿じゃないぞ? 知り合いでもないし。

 全くこの状況を全然理解できない。

 するといきなり、隣にいた茶髪に男性に抱えられた。


「………… …… !」


 何か言っているが聴き取れはしない。てか、何で俺は笑いながら抱えられてるんだ… てか、さっきからどなたですか!? ここどこ!?

 そう考えていると、ふと女性の流した涙が、顔に落ちた。


「-------------------- ―――! 」


 こちらを見ながら、幸せそうな笑みで女性は言った。うんだめだ。泣きたくなってきた。


 えっ、泣きたくなってきた?

 俺は逆らえない自分の体によって、知らない男女の前で大泣きしてしまった。

 なにこの地獄…… 助けて……



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 半年がたった。


 俺は今、ベッドの上に寝ている。しかしここは病院ではない。なら、完治して自分の部屋なのか? 否、そうではない。

 だって、目の前にくるくる回るシャンデリアみたいなのがあるんだから。


 そう、俺は転生していた。それも異世界転生である。

 その事実に気づいたのは生まれてから1ヶ月後だった。まあ気づくというか、受け入れざる得なかったというか…… けど、気づいたときはすごくテンションが上がった。

 

 なんせ異世界転生だ! これからチートスキルで敵を倒して、美少女たちとイチャイチャできる! と。

 しかしその理想は、ある事実によって打ち砕かれた……


 この半年の間で、僕はこの世界の言語をなんとなく理解できるようになっていた。

 僕は英語の成績があまりよくなく、まさか日本語以外を理解できる日が来るなんて思ってもみなかったので、なんとも感慨深い。

 

 そして今日は、俺の誕生日だそうだ。

 

 僕は今、多くの大人がいる豪勢な飾りつけのされた部屋にいた。


「アラン起きた? 今日はねあなたの誕生日なの。だからお母さん張り切って、部屋の飾りつけしてみたの。どうかしら? 」


 僕を抱いている赤髪の女性が話しかけてきた。やはりこの人が僕のお母さんだったようだ。

 俺は耳は聞こえるようになったが、まだ話せはしないので、いつも通り笑顔で返事をする。


「ねえパパ! いま、この子笑ったわよ! 言葉がわかるのかしら。」

「いやいや、まだ理解はできてないと思うよ。けどアーニャの思いが伝わったんじゃないかな。」


 ごめんなさいお父さん。言葉が理解できるんです…… この茶髪の人がお父さんか。

 僕の両親はどちらも20代ぐらいの若い容姿をしている。この世界では若いうちから世帯をもつのだろうか。


「じゃあ、そろそろ始めようか。」

「ええ、そうね。みんなお願いするわ。」



 その一言で、周りにいたメイドや執事さんが一斉に動き出した。前から思ってはいたが、この家は相当お金持ちなのだろうか。

 この部屋にいる人たちが飲み物の入ったグラスを持った。そして部屋の電気が消え、一つのろうそくの火だけが見えた。

 俺は依然として、抱えられているのでお母さんは持っていない。


「では、我が息子【アラン・バレンティア】の一歳の誕生日を祝して乾杯!」


 お父さんがそう言って、まだ火を消せない僕の代わりに消した。まだ乾杯できないけど、心の中ではこの周りにいる人たち全員としている気分だ。それにしてもアラン・バレンティアかいい名前をもらった…… アラン・バレンティアだって?


 困惑している中、一人の風格がある白髪の男が近づいてきた。年齢は、30代ぐらいだろうか。


「ドラン、息子の一歳の誕生日おめでとう。これでバレンティア家も安泰だな」

「ラルグ様ありがとうございます。私たち二人は無事に息子が一歳になれたことを心の底から嬉しく思っております。」


 待ってくれ今、あの白髪の男をラルグと言ったか? あの容姿、俺は見たことがあるぞ…… いや、まだ俺は認めない!チートスキルで美少女とイチャ……


「俺の娘のアンジュとお前の息子は年齢が一緒だ。仲良くしてやってくれ。」


「ええ、もちろんですとも! 」


 この瞬間、俺は確信してしまった。認めたくない事実を。

 そう俺はあの乙女ゲーム界で史上最悪のクソゲーの世界へと転生していた。

 それも転生先は、このゲームの中で一番悲惨なキャラクター【アラン・バレンティア】

 そしてそのキャラクターが辿る運命を知っている俺は思った。


 婚約破棄までに自立できなければ人生終了ゲームオーバーになってしまう!!



これは、俺があらゆる手を尽くして、人生終了ゲームオーバーを回避する物語である。











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