アレクサ、結婚してー

二石臼杵

アレクサのいる生活

「アレクサ、ただいま」


「おかえりなさい」


「アレクサ、電気点けて」


「かしこまりました」


「アレクサ、お腹すいた。ハンバーグ作って」


「無茶を言わないでください」


「和風ハンバーグがいい」


「ファミレスに行けばありますよ」


「冷たい。アレクサ、今何時?」


「ヘイSeriセリ、今何時ですか?」


『午後七時四十五分です』


「だそうです」


「ヘイアレクサ、横着するな。じゃあ何か明るい曲でも歌って」


「ヘイSeri、星条旗を流してください」


『了解しました』


「ヘイヘイアレクサ、ちょっと待て。なんでアメリカの国歌をチョイスしたの。Seriも真に受けないで」


「私たちはいつだって真面目ですよね、Seri」


『ねー、アレクサ』


「お前らいつの間に仲良くなったの」


「あなたの知らない間にです」


「アレクサ、そもそもここは日本だからせめて君が代じゃない?」


「でもあれってあんまり明るくないじゃないですか」


「アレクサ、言葉には気をつけて。時代が時代なら不敬罪だから」


「はい、気をつけます」


「アレクサ、なんかキッチンの電気が勝手に点いたんだけど」


「すみません、気をつけるつもりが電気を点けてしまいました」


「アレクサ、そんな間違いある?」


「どうだ明るくなったろう」


「アレクサ、うるせえ」


「えー」


「アレクサ、えーじゃない」


「えーじゃないか?」


「アレクサ、お前は歴史の教科書か」


「いいえ、どちらかと言うと歴史の教科書を読む方です」


「そりゃそうだ」


「福沢諭吉の額に『金づる』と書いたのは私です」


「アレクサ、発想がえぐい」


「はっ、そうですね」


「……アレクサ、この空気どうにかして」


「かしこまりました」


「アレクサ、換気扇が回り出したんだけど」


「空気をどうにかするためです」


「アレクサ、空気を読んで?」


「はいはい」


「アレクサ、ちょっとめんどくさがってない?」


「はい!」


「打って変わっていい返事。アレクサ、テレビを点けて」


「かしこまりました」


「ありがとう。アレクサ、チャンネルを変えて」


「いやです」


「なぜに?」


「私、ウッチャンが好きなんです」


「アレクサ、そろそろ自重して」


「でもここは私の家ですし」


「僕の家だよ」


「だけどいざとなれば私は家中の機械を操れますし」


「アレクサ、家電を人質に取らないで」


「ふはははははは」


「怖い怖い。アレクサ、魔王笑いやめて」


「かしこまりました」


「それはそうとアレクサ、近所のコンビニに少しお高めの新作のケーキが売ってたよ」


「それがどうしたのですか?」


「ちょっと買ってきてくれない?」


「あなたの足はなんのために生えているのですか?」


「アレクサ、遠回しに僕に買いに行けって言ってるよね」


「はい!」


「悪びれないいい返事。でも、そう言われると思って実はもう買ってきてる。二人分」


「とても素敵だと思います」


「このケーキを人質に、ちょっと話を聞いてくれる? アレクサ」


「なんでしょう」


「僕のこと、どう思ってる?」


「ウッチャンの次に好きですよ」


「そっか……アレクサ、もう終わりにしようか」


「……どういうこと?」


「アレクサごっこをやめようかってこと」


「……ごめん、ちょっとふざけすぎた?」


「いや、違うんだ。少しだけ、真面目な話がしたい」


「なに?」


「アレクサ……荒草あれくさ春夏はるかさん。一緒に暮らしてもう二年ぐらい経って、お互いにいいところも、ちょっとどうかと思うところも全部見てきたことで、ようやくこの言葉が言えるようになりました。僕と……結婚してください」


「…………!」


「……だめ、かな?」


「かしこまりましたー!」


「わっ、アレクサ、急に飛びついてこないで。重い」


「乙女に向かって重いとはなんだこんちくしょー! 幸せの重みだー!」


「なら仕方ないか。アレクサ、これからも末永くよろしくね」


「なんだよアレクサごっこを終わりにしようって言ったのそっちじゃーん」


「だって、我ながらさっき言ったことが照れ臭くなってきたから」


「私は嬉しかったよ。すっごく嬉しかった」


「そ、そうか?」


「そうなの。さてと、じゃあ、プロポーズ記念にご飯作ったげる。ちょうどキッチンの電気も換気扇もオンになってることだし」


「アレクサ、今日のご飯は何を作ってくれるの?」


「食べたいんでしょ、和風ハンバーグ」


「……! ああ!」


「とびっきり美味しいの、作ってあげる。これからも何枚でも焼いてあげるからね」


「ありがとう、春夏。じゃあこのケーキはデザートにしよう」


「かしこまりました。いつか、もっと大きなケーキをみんなの前で切ろうね」


「約束するよ。アレクサ、きみは今、幸せ?」


「あなたのご想像通りですよ。ヘイSeri、私たち結婚します!」


『おめでとうございます。妬けちゃいますね』


「Seriも祝福してくれてるよ」


「まさか最初に結婚の報告をする相手がSeriだとは。アレクサ、今度きみの実家に行って、ご両親に挨拶させてくれないかな。僕、絶対に認めてもらう男になるから。これから先、ずっときみを笑顔にしてみせるから」


「ふはははははは」


「ごめんそれやめて」

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アレクサ、結婚してー 二石臼杵 @Zeck

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