第94話 青いスライム(6)
必死の形相で拒絶するタカトは、ようやく己の運命を理解した。クロダイショウに噛まれて死ぬのか、ミズイに生気を吸い取られて死ぬのか、結局同じことではないかと。いやだ! いやだ !絶対にいやだ! ミズイから距離を取りにらみつける。もうその目は半泣き状態で、情けなさそうな涙が浮かんでいた。
「安心せい。ここは以前、荒神牢獄として幽閉された荒神が爆発した場所じゃ」
「だからなんやねん!」
「お前は馬鹿か! 荒神が爆発したということは、この周りの輝く石は全て命の石の結晶じゃ。すなわち、神一人分の生気が詰まっておるのじゃ」
タカトはあたりを見回す。この輝く壁がすべて命の石とは……売れば結構な金になるかな?
己の運命が風前の灯火であるにもかかわらず、タカトの頭の中には大金が浮かんだ。タカトの口が少しいやらしく弛む。
「お前のもう一つのスキル『万気吸収』があれば、この命の石の生気を吸って生き延びることができるじゃろ」
――へぇ……俺のもう一つのスキルは『万気吸収』って言うんだ……って、ちょっと待てよ!
「いやいや! 俺が生気を吸うじゃなくて、お前が直接吸えばいいんじゃね! その方が早いだろ!」
ミズイはため息をつく。
「あのな……命の石の生気を吸うということは簡単ではないんじゃ。石を身に着けて徐々に吸収することはできても、一気に吸収することはできんのじゃ」
「なら、俺も一緒だろ!」
「なぜかは知らんが、お前の『万気吸収』レベルは異常に高い……普通に呼吸するだけで、命の石の生気を吸収できてしまうのじゃ……」
「アホか! その話が真実なら、普通に呼吸している俺の体は生気が異常にたまっているということになるだろうが! そんな人間おらんわ!」
ミズイは馬鹿にしたようにタカトを見つめた。
「自分の手を見てみい……」
タカトは自分の右手を見つめる。その手から生気が揺らめき立っていた。体から生気があふれ出すなんて初めてだった。いや、実際にはダンクロールの時に同じような状況になっていたが、タカトは、その際、気を失っていて、全く状況を覚えていなかったのだ。
「これ……何?」
「お前が吸収した生気があふれ出しとるんじゃ」
――へっ!? ……どいうこと?
「これで分かったじゃろ。わしが生気を吸ってもお前は死なん。と言うことで、やるのか?やらんのか?」
よく分からんが、どうやらタカト自身の体から生気があふれ出していることは間違いないようであった。眠気も、このドームに入って寝ている間に収まっていた。と言うことは、既にタカトの生気は充満し、さらに、体の外にまで溢れるほどになっていたということなのだろう。タカトは、自分なり分析をし、ミズイの提案を検討してみた。
「本当に助かるの……?」
「神様、嘘つかない! じゃ」
「じゃぁ、お願いします」
「契約成立じゃな……」
ミズイはスーッと上空に浮かび上がっていった。
魔物が近づいて来ないか、いそいで足元を見るタカト。
しかし、先ほどとは違い、足元の光は縮まらない。ミズイの体から発せられる『神の盾』が大きくその範囲を広げていた。
浮かび上がるミズイの目は、タカトが抱えるスライムにむけられ、とても切なそうであった。
――やっと光を見つけたのねアリューシャ……・こんな義姉でゴメンね……
くるりと振り返ったミズイがクロダイショウとオオヒャクテの大群を睨み付けた。
その目には鋭い決意の光が輝いていた。
――今度は、必ず!!
「鑑定の神ミズイの力!とくと見るがいい!」
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用語の説明は、別小説「蘭華蘭菊のおしゃべりコーナー(仮)」に記載しています。
神の生気吸収 → 「第19話 神様の生気吸収について、いやいや、ビン子はどうなのよ!」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054906427764/episodes/1177354054922675112
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