第83話 小門と言う名のダンジョン(3)

「おぉ、お主、久しぶりじゃの……」

 広場の中央にどんと据えられた大きな石に腰かけるように座っていた人影は、顔をあげる。

 ローブの隙間から金色の目がタカトを見つめる。


「あっ! あの時のババァ!」

「ババァではないわ! ミズイじゃ! ミズイ! 鑑定の神ミズイさまじゃ!」


 全く聞いていないタカトはビン子と顔を見合わせ、また、あのババァ出やがったと騒いでいる。

 オオボラがとっさにミズイの前で膝まづく。


「神様でしたか、失礼いたしました」

「よいよい」

「しかし、いかなる御用でしょうか?」


 ミズイはローブの隙間から金色の目でタカトをにらみつける。


「まぁ、ちょっと生気が切れてきたもんでな……」


 とっさに後ずさりするタカトはズボンのポケットをおさえる。

「俺、今、金ないぞ。もう、命の石なんて買えるほど持ってないぞ」


 明らかにズボンの中にお金が入っているようである。ビン子にはわかっていた。どう多めに見積もっても、おそらく大銅貨2・3枚がいいとこだろう。しかし、タカトにとって全財産であるその大銅貨は命に匹敵する重さを有していた。


「ないないない! 絶対に持ってない!」

「お前の小遣いなど期待しておらんわ!」


 ミズイは小馬鹿にするようにタカトをみる。そして、怪しく笑うと一つの提案を差し出してきた。


「お前たち、小門を探しておるのであろう。その場所、教えてやってもいいぞ」

「本当か! ババァ!」

「だから、ババァじゃない! ミズイじゃ! ミ・ズ・イ!」


「本当ですか神様。それはありがたいのですが、その見返りはいかなるものでしょうか?」

 これで小門への足掛かりが見つかるかもしれない。顔をあげたオオボラの顔が明らかに輝いている。ミズイはビン子の様子をちらりと伺う。どうやらビン子をライバル視しているかのようであるが、当然、ビン子はそんな気持ちに全く気付いていない。いや、気づいたとしても、何についてのライバルなのか全く見当がつかないことだろう。


「お主、話が分かるの、そこの馬鹿に比べると話が早い」


「いえいえ! 馬鹿じゃなくてアホですから!」

 ビン子が大声で擁護する。


「いえいえ、そこは訂正ではなくて、取消しでお願いします……」

 力なくうつむくタカトは小さくつぶやく。


 オオボラは、くだらないやり取りを遮るかのように、大声で、再度尋ねた。

「して、その見返りとは何でしょう?」


 ミズイは少し下を向きながら小さな声で答えた。


「……・の……を……カプッと……」


「はっ? 何ですか!」

 神の前だというのに、いら立つオオボラの声は、少々大きく荒だっていた。


「だからじゃの、そこのタカトの首をすこしカプッとさせてくれと言っとるのじゃ!」

 顔をあげ叫んだミズイの顔は、真っ赤に照れていた。


 このしぐさ、老婆でなければめちゃめちゃ萌えるのに……

 表情が白く固まったタカトとビン子はそう思ったに違いない。


「そんなことですか」

 オオボラはすくっと立ち上がり、タカトの髪の毛をわしづかみにして引きずってくる。そして、力任せに首を押し曲げミズイの前に差し出した。


「さぁ、どうぞ」


 へっ……!

 タカトは、とっさのことに全く対応が取れなかった。


 ……ちょっと待て! 俺の意思はどうなんだ!

 なされるがままミズイの前に引きずり出されたタカトは、何とか目だけを動かしミズイを見ることができた。


 そこには、恥ずかしそうにローブの中で小さくなり、モジモジとしているミズイがいた。


「それでは、遠慮なく……」


 カプっ!


 あっ……


「それだけでよろしいのですか?」

 オオボラは、白目をむいているタカトをさらに差し出す。


「十分じゃ。さすがに直吸いは、違うわい」

 顔をあげたミズイの姿は、アラフォーのマダムのように若返っていた。


 驚くビン子とオオボラ。


「まぁ、今はこんなもんじゃろう」

 口を拭うミズイの胸で、ハリを取り戻した深い谷間がプルンと揺れた。

 その胸に反応するかのように跳ね上がったタカトの頭が、オオボラの腕を振り切りその谷間をまじまじと凝視する。


「垂れ乳が見事に膨らんだ!」


「あともう少し張が戻れば完璧じゃな」

 胸の谷間を凝視するタカトに見せつけるかのように、胸のローブをきつそうに引っ張った。


 ババアであったことをすでに忘れているタカトがミズイの前で両手を突き出し、深々と頭を下げる。


「おっぱい揉ませてください!」


 ビシっ!


 ビン子のハリセンがゴルフのスイング張りに鋭く振りぬかれる。

 しかし、少々内に入ったのか、その軌道はスライスしていく。

「ファーーーーー」

 タカトはそのまま森の茂みの中に倒れ込んだ。どうやらOBのようである。



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 用語の説明は、別小説「蘭華蘭菊のおしゃべりコーナー(仮)」に記載しています。


 神の生気吸収 → 「第19話 神様の生気吸収について、いやいや、ビン子はどうなのよ!」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054906427764/episodes/1177354054922675112


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