第3話 転生して早々

「それで隊長、コウ……でしたか、あの転生者はどっちでしょうね」

コウとファンニを見送り、ゆっくり30秒ほどしてからヘンリクがアマリアに尋ねる。

転生者を記録、研究し、軍のある程度以上で情報が共有できている帝国ならではの質問である。

「さて、どちらだろうな。私は純情な方ではないかと見るが」

そう、転生者が男だった場合、いくらかの例外はあるものの、女性に対する反応は大きく2つに分かれる。

一つは純情というか、複数人に思わせぶりな態度をとりながら中々手出しをしない場合。

この場合は、おおむね1~10人程度の妻を持つ結果になりやすい。

もう一つは、片っ端から誰彼構わずチャンスがあればベッドを共にするタイプだ。

こちらは家庭を築くことはあまりなく、一所に定住することも少なく、放浪することが多い。

様々な種族の女がそれについていくこともあるが、行く先々でもめ事を起こすため、問題視する国もあるようだ。


もし転生者を何らかの形で定住させることが叶えば、その国には大きな恩恵がある。

その知識は国を富ませ、その武勇は国の力となる。積極的に他領への侵攻をしない転生者も、自分の住む街が危機になるとほぼ間違いなく防衛に出る。

ならば、そこの守備隊は最低限でよく、その分を攻め手に回せる。

大きな町に住んでくれれば1万人にも匹敵する戦力だ。

しかし、転生者は概ね命令される立場を嫌う。お願いは快く聞き入れるコトが多い反面、命令には強く反発する事も少なくない。反発してもそれを押し通せるだけの武力があれば尚更だ。

「どうですかね、俺は、あいつからはこう、何というか小悪党っぽいと言いますか、自分が頭がいいと思っている馬鹿の匂いがするんですが」

「ヘンリクの第一印象は結構当たるからな、そうだとすると面倒だな」

アマリアは頭を掻きつつ、

「あ~面倒くさい、権力と武力で力押し出来ない相手とか面倒臭くてしょうがない!」

と不穏当なことを叫ぶ。

「もー私の脳みそじゃ無理!全員集合!」

の声に、素早く周辺のものが集まる。

というか、大体の者はすでに集まっている。

「呼ぶと思ってました」

「転生者のことですよね」

「隊長は困るとすぐ招集する…… もう少し自分で考えた方がいい」

「うっさい!ほら皆席ついてー あまり時間ないかもしれないから」


全員が円卓に座る。

「さて、まずは国への報告ね。誰か行った?」

「いえ、まだです。鳩を飛ばすことも考えましたが万一途中で他の者に見られると厄介ですので」

「ヘンリクはいつも慎重ね、助かるわ。じゃあ3人選抜して首都へ向かって。ああ、待って、出発は明日ね、今夜の結果もあわせて報告したいし」

「了解」

「それで、ここからが本題なんだけど、コウはこれからどうしたがると思う?そして私たちはどうするべきだと思う?」


皆が腕を組むなり上を向くなりして考え始める。


「ナスキー、あなた本好きだったわよね?転生者の基本、みたいなのないの?」


指名された男、金髪銀目の優男が顔を上げる。

「本の情報でしたら多少は」

「それでいいから話して。転生者の本って、転生者の行動が突拍子もなくて頭痛くなってから読んでないのよ」

「アマリア隊長はほかの本も似たようなこと言ってすぐに読むのをやめられますよね」

ナスキーかにっこり微笑んで言う。

ぶーたれるアマリア。

「そもそも読書が嫌いなのよ。もう、今はそれはいいじゃない。転生者のこと話して」


「それでは説明させていただきます」

立ち上がり、舞台俳優のように両手を広げる。


「まずは確認できる最初の転生者から。大学の先生をしていたとされる、ロクロー=ヤスダ。転生者の分類としては『専門家』。法律学を専門としていたそうで、我々の世界を見て衝撃を受けたそうです。何かした転生者は大抵衝撃を受けるのですが」

「ロクローは流石に私手も知ってるわ。今の世界の立役者もしくは諸悪の根源」

「ええ、我々の『帝国』という社会制度も彼の知識から来ているもので、我々の祖先が帝国を選んだのです。

さて、ロクローがこの世界に来て、少しの間街で過ごし、次にやったこと。それは、その時いた領地の、領主の館に怒鳴り込む事でした」

「いつ聞いても訳わかんないわよね。コネも金も何もなし、身一つで直談判。あの時代ならそれだけで縛り首は堅かったはずよ」

「ええ、全くです。しかし運良く時の領主は機嫌がよく、面白い輩だ話くらいは聞いてやろうと謁見の間に。そこでロクローは『罪刑法定主義』なる話をし出します。ようは罪の形と罰の形は法によって決められるべきもので、何となく悪そうだから有罪、とかこの犯罪にしてはやり過ぎだから死刑、ではなく事前にすべて定めておかなくてはいけない、という考えですね」

「今じゃ普通のことなんだけど、当時からすると画期的ね」

「ええ、しかしその訴えを領主が受け入れて、ロクローを領主付き文官に任命、何やかやあって基本法を作って使い出したのが20年後の話です」

「今じゃどの国も同じような法使ってるものねー。その辺について詳しくはいいわ。大事なのは転生者の行動の元、ね」

「ええ、この場合は、転生者研究によれば『自分がどうしても許せない環境があったから』ではないかとされています。法の専門家が、最低限の法の土台すら出来てない現状を見て我慢出来なかった、と言うことですね。他にも幾つか例がありますが、何らかの専門家ほどそこだけを見た短絡的な行動に出やすい様です」

「料理王・シゲユキもその口よね。味噌作るために国を興した転生者」


その後も地味に脱線した会議が続く。




一方その頃。


「コウ様、如何でした?」

「控え目に言って最高でした……」

「それはよかったです。私も頑張った甲斐があります」

既に一回戦どころか二回戦まで済ませたコウは、夢見心地のままベッドに横たわっている。

隣にはファンニ。勿論二人とも生まれたままの姿である。

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姑息で小賢しい俺が異世界無双しようとする話 紅茶りんご @akronian47s

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