第2話 到着後。

アマリアに乗せてもらい夜の城に着く。

篝火でないゆっくりと瞬くような妙な灯りが出迎える。


城と言ったが、城壁のような物はなく、豪華で丈夫そうな屋敷、といった様相。

壁の上から、教科書で見たナチスの鍵十字みたいなノリで旗が掲げられている。……上から垂らされてるのは掲げてるって言ってもいいんだろうか?

赤地に白丸、その中に真っ黒な剣と鞭が交差してる、悪ノリだけで作っただろうこれみたいな紋章が描かれている。髑髏でないだけましか。


門番が2人立っており、俺たちの姿を見た瞬間一人が門の中に入る。

近づくまでに残った門番を遠見でよく見てみる。

とりあえず全身黒い。黒装束ではなく、黒がベースの色、って感じ。細部は赤とか金を使ってるな。

兜でなく帽子、ちょっとつばのある革の帽子に旗と同じ紋章の飾りがついている。

服は分厚めのジャケット?ちょっと制服の詰襟っぽいけどベルトが見えるレベルの短さ。ズボンも制服みたいだな。

そしてベルトには長剣を佩いている。そこまで来たらサーベルじゃね?反対の腰にはポーチがあり色々詰まってそう。

靴は長靴かな。黒い靴に赤い紐がちょっとかっこいい。中二っぽい。それ言ったら全身そうだけど。

顔を見る。

25くらいか?それなりの顔立ちにニヤニヤした笑顔を張り付けている。うーん、民族的にヨーロッパあたりかな?日本人とはちょっと違うな。

そう思いながら見ていると、アマリアが門の30mくらい前、石を積み上げた柱のあたりで馬を止める。

「コウさん、ここで降りてください。ここから歩きです」

大人しく馬から降りつつ尋ねる。

「何で玄関まで行かないの?その方が楽じゃん」

「ルールでそうなってるんです。無視して玄関まで行こうとすると矢や魔法が飛んできます。あれ痛いんです」

痛いで済むんだ。てか物騒だな。

「ルールならしょうがないな。歩こう」

二人並んで玄関へ向かう。ふと気になって馬を見ると、自分で城の裏の方に歩いて行っている。

「ルミアは頭がいいんです。自分で厩舎に戻るんですよ」

視線から何を気にしたのか察して教えてくれる。

ちょっと得意げなのはあの馬がいい馬だからかな。褒めておくか。

「なるほど。乗っているときも思ったんだが、いい馬だな。馬には初めて乗ったが、あんなに乗りやすい動物だとは思わなかった」

「でしょ?」

うん、やはり得意げだ。馬が自慢の一つなんだな。


「お疲れ様です、隊長」

とアマリアに挨拶をするが、視線はこちらをかなり気にしている。

「ご苦労様、エーミル」

「ありがとうございます。……そちらのお方はどなたですか?」

と、疑いの目を向けてくる。

「後で皆にも紹介するけど、コウジ=ハタヤマさん。転生者よ」

「……」

物凄く疑り深い目を向けられた。

「失礼ですが隊長、先日の転生者詐欺の件をお忘れではないですか?」

その言葉を聞いた瞬間アマリアが物凄い勢いでこちらを見る。

俺は転生者詐欺のパワーワードに絶賛腹筋崩壊中。そんなものあるんだ!そして引っかかる奴いるんだ!!!

この世界めっちゃ面白いかもしれん、今後が楽しみ!

爆笑している俺を、馬鹿を見る目で見つめてくるアマリア。

「すっかり忘れてたけど…… 多分大丈夫なはずよ、確認できたから」

「あ、じゃあ平気ですね。……転生者って意外と普通の人間なんですね」

ちょっとあきれた感じのエーミル。

「いや申し訳ない、『転生者詐欺』ってのが面白すぎて…… そんなのやる奴がいてしかも引っかかる奴がいるんだ」

「本当にねー コウさんは知らないでしょうけど、転生者を騙ったら鋸引きですよ、なのによくやりますよ」

なんか不穏なワードが聞こえたのでちょっと聞いてみる。

「あの……『鋸引き』って何です?」

「犯罪者を首だけ出して箱に入れてあまり切れない鋸で首をギコギコ」

想像するだけで痛くて怖い。残酷な刑のない日本っていい国なんだなぁ。

「恨み骨髄の人が恨み晴らしながらゆっくりやるから被害者やその家族に人気なんですよねー」

さらりと言うアマリア。

………………えー………………

ちょっと文化の違いが怖すぎるな。死刑執行人とかがやるんじゃないんだ。さすがにドン引きだ。

「かなり重い刑だからよっぽどのことがないとされない刑ですよ」

にこやかに笑うアマリアが怖すぎる。


「さ、どうぞ中に」

エーミルに中に案内される。

「お、お邪魔しまーす……」

続いて入るアマリア。

「ただいまー。あ、みんないるねー」

中は広間になっており、10人ほどが3つの机に散らばっている。男も女もいて、そこそこガタイがいいのが多い。2人だけローブ着たヒョロいのがいるが魔法使いかな?

みんな統一感のある黒赤系の服着てる。

「お疲れ様です、隊長」

半分ぐらいの人たちがアマリアに声をかける。

「おつかれさまー」

アマリアが前に出る。

「はいみんな注目!」

全員起立し注目する。私語も中断。規律いいなぁ。

「こちら、コウジ=ハタヤマさん。コウさんね。転生者。今日はとりあえず一泊していただくので、D対応でお願いします」

「「「「はっ!」」」」

……D?

「コウさんはこちらに来て間もないので明日様々なことをお伝えすることになっています。今日はお食事をとって休んでいただいて。ヘンリク?」

「はっ!」

一人の男が一歩前に出る。40に行くか行かないくらいのおっさんだ。歴戦の勇士って感じ。右頬の傷がそれっぽさを増してるな。

「コウさんに一人つけてあげて」

「ファンニでいかがでしょう」

「適任ね。ファンニ!」

「はっ!」

ローブを着た女性が前に出る。20代前半かな?よく見てみるとめっちゃ可愛いな。アマリアはきりっとした感じの美人なんだけど、ファンニは……なんていうのかな、元気な女子大生みたいな感じ?栗色のフワフワした髪とすみれ色と言っていいのかな、薄紫の瞳がきれいだ。ローブで隠れてるけど間違いなくおっぱい大きいな。背も低めだしアイドルとかやったら売れるんじゃね?

「只今より明日朝食後まで、コウさん付き従者を命じます」

「拝命しました。これより任務にあたります」

おお、可愛いわりにきりっとした返答、何かいいな。

ファンニが俺の前に来る。

「初めまして、コウ様。ファンニと言います。明日の朝まで短いですけど、従者をやらせていただきます。何でも言ってくださいね!」

いきなり凄く可愛くなった気がする。上目遣いがもう可愛いし、『頑張りますっ!』ていう熱意的なのを感じてとてもいい。

けど、従者っていっても、何をお願いすればいいのやら。

「なあアマリア」

「はい?」

「俺、人生で一度も従者とかいたことないんだけど、どうすればいいの?」

ちょっと困った顔になるアマリア。困りも可愛いのは卑怯臭い。ていうか俺、さっきから女の子には可愛いって感想しか出てきてない気がする……。

しょうがないじゃん!母に『女は金がかかる』って言われ続けてて、金ないと彼女とか無理!ってその辺の話ガン無視だったんだから!

「あー……、その辺はファンニに聞いてください。ファンニ、お部屋に案内してあげて。コウさん、また明日」

「はい!さ、コウ様、こちらです」

と、俺の腕をとって歩き出す。


「今、空き部屋は多いんですけど、折角だから一番いい部屋にしちゃいましょう!」

迷いなくずんずん進んでいく。奥の扉にある階段を2階分上がり、3階の廊下の一番奥へ。

「従者はですね、基本的に身の回りのお世話をさせていただくのが役目なんです」

「ああ、メイドみたいな?」

「そうです!メイドとの違いは、従者は旅や戦争にもついていくことと、自分も戦うことでしょうか。あとは仕える方の違いですね。メイドは偉い方全般、従者は主に騎士です。それから、メイドは女性のみですが、従者は仕える方と同じ性別のことが多いですね」

「なるほどー」

詳しい違いはよく分からんがなんかそういう物らしい。

「けど、世の中広いので、わざわざメイドを旅に連れて行って戦わせるために強いメイド服を作ったり戦闘訓練させる人もいますから、分類は割と適当です」

適当かよ!

「ですので、私のことはメイドでも従者でも、どちらで扱っていただいても大丈夫ですよ!」

「いや、結局どっちでも一緒なんだよね?」

と聞くと、ぽんっ、と手を打ってファンニが言う。

「ああ、大事なことを言うのを忘れていました」

足を止め、俺に向き合って一言。


「メイドの大事な仕事として、旦那様の夜のお相手があるんですよ!」

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