ep2 銃を習い始める。

続いた。

―――――――――――――――



「これはな、銃じゃ」

「じゅう?」

「そう、銃じゃ」

「……じゅう」

「銃じゃ!」

「いや、名称を聞きたいんじゃなくて説明して欲しいんだよ」

「あ、そうじゃったのか」


 すまんすまん、と言ってジジイは近くにあった『じゅう』という奴を手に取る。


「こいつは『火薬』という爆発する粉を使って、この『銃弾』を打ち出す武器じゃ。超小型の大砲、といったところか」

「大砲……って、あの雑魚武器って言われてる奴か?」

「大砲は雑魚じゃないぞ!」

「雑魚じゃん。だって魔法で球は防がれるし、装填に時間がかかって弓で射抜かれるって聞いたぜ?」

「そ、それは使いどころが悪いだけなのじゃ! とにかくまずは見ておれ」


 そう言うと、じゅうの一本を持ってジジイは地下室を出て、家を出て、近所の森に入る。


「とりあえず実射じゃ」


 かちゃかちゃと弄った後「では、耳を塞げ」と言ってきたので、塞ぐ。

 すると——パァン!!


「んな!?」


 巨大な破裂音がしたかと思うと、ジジイの手にしていた『じゅう』が一瞬はねた。大きな反動があったらしい。


「そこの木に当たった」


 指示された場所を見て見ると——なんじゃこりゃ。

 巨大な木の幹に、小さいながらも深い穴が開いている。

 貫通はしていないようだが、とんでもない威力だ。


「た、確かに威力もあるし大砲より装弾も早いけど……それでもかちゃかちゃ時間がかかってたじゃないか。とても最強武器とは——」


 パパパパパパパパパパパパ――ッ!!!!


 乾いた音が連続したかと思うと、ジジイがじゅうの先を向けていた別の木に大量の穴が開く。

 な、何だこの連射性能は!


「ふふ、どうじゃ? これは中距離を得意と銃じゃが、他にも近距離向き、遠距離向きと様々な銃がある……これでも、まだ強くないというか?」


 どや顔で語るジジイは、悔しいけどめっちゃかっこよかった。



  ◇



 それから俺はジジイから『じゅう』改め『銃』の扱い方を教わった。

 銃には種類があり、

 近距離向きのハンドガン、マシンガン、ショットガン。

 中距離向きのアサルトライフル。

 遠距離向きのスナイパーライフル。が、あるらしい。


 俺はまず、扱いやすいというハンドガンから習得しようとしたのだが、ジジイは「ダメじゃ、全て同時に覚え、完璧に使いこなすのじゃ。そして無双するのじゃ」と言ってきかなかった。


 何で無双するの? と聞き返すと、神様が嫌いじゃから、と答えられた。

 完全に子供だ。


 おかげで、最近はトマトにかまってやれる時間が非常に少なくなった。


 今日も俺は朝から銃の勉強を終えて、農作業に勤しむ。


「うーん、やっぱり母さんの恩恵がないと実りが悪いなぁ」


 母さんの『農家』の恩恵が消えた今、トマトは小ぶりで色も少し悪い気がする。

 これは早々に次の稼ぎ口を見つけておかないと、気付いた時にはくいっぱぐれてしまいそうだ。


 何てことを考えて居たら、トマトの一つが齧られて地面に落下していた。

 動物の仕業かと思って見て見ると——。


「この歯型……人間か?」


 この辺に猿は居ない。

 農作物被害は大抵イノシシとシカだ。


「まさか、野菜泥棒か? ったく、面倒くせぇなぁ」


 頭を掻きつつも俺は作業を続けた。



   ◇



 作業を終えると、トマトをいくつか持って同じ村のビーフさんの家に向かう。

 彼は牛飼いで、よく野菜と肉を交換してくれるのだ。


「これ、今日採れたばかりのトマトです」

「うおおおおお!! いつもすまねぇえええ! 肉ばっかりじゃア、身体に悪いからなぁあああああああ!!」


 ビーフさんは今日も元気だ。


「いえいえ、こちらこそこんなにおいしい牛をいただけるのですからお互い様ですよ」

「ハンザああああああ!! お前はいい奴だぁあああ! 親父たちが死んで大変だっていうのにいいいいいいいい!! 一人で頑張ってええええええ!!」

「そんな、当たり前のことをしているだけですよ」

「うおおおおおお!! 困ったことがあればいつでも俺を頼れよおおおおおお!!」


 ムキムキマッチョのビーフさんは感激したように抱きしめて来た。

 抗うすべなく大胸筋に包まれていると、彼の後ろから一人の女性が現れる。


「こらビーフ! 離してやんな!」

「あ、ミトさん。こんにちわ」

「ハンザくん、こんにちわ」


 彼女はミトさん。ビーフさんの奥さんだ。


「ったく、うちの馬鹿亭主がすまないねぇ」

「そんな、ビーフさんにはいつも元気を貰えますから」

「まぁ、元気だけが取り柄みたいな男だからねぇ」

「うおおおおおおおおおおお!! 元気があればああああ、生きていけるううううううううう!!」


 元気、余り過ぎてるけどね。


「そう言えば、ハンザくん聞いた?」

「何をですか?」

「最近、レッドウルフがこの辺りで出たらしいのよ」

「れ、レッドウルフですか!?」

「うおおおおおおおおおお!! 怖ええええええええええ!! レッドウルフ超怖えええええええええええええ!!」


 筋肉ムキムキビーフさんが元気いっぱいに気弱になる。

 どういう状態なんだろう。まぁ、この人のことは考えても意味ないが。


 レッドウルフとは、その名の通り赤い狼だ。

 そして、奴らはイノシシやシカといった動物とは違い、魔獣、と呼ばれている。

 普通の動物とは異なり、魔法を扱い、凶暴で、動物だけでなく人間を襲うのだ。


 普通の狼なら一ひねりできるであろうビーフさんが怖がるのも頷ける。


「近々、冒険者の方が狩猟しに来てくれるって話だけど……」

「それまでは気を付けた方がいいってことですね」

「うん、そういうこと」

「ハンザあああああああああああああ!! 気を付けろよおおおおおおおおおおおおおおお!! もしものことがあれば、ジジイと一緒に避難して来いよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」

「は、はい、わかりまし――むぐ、大、胸筋、で、息、が、息、が……」

「この馬鹿! あんたが殺してどうするんだい!」

「うおおおおおおおおおお!! すまねぇハンザああああああああああ!!」


 ……謝るなら解放してくれ。


 俺はビーフさんの大胸筋に包まれながら、そう思った。

 ムチ、ビチッって感じの筋肉だった。

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神からの恩恵は無いけど、銃とかいう最強武器が地下室にある件。 赤月ヤモリ @kuropen

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