神からの恩恵は無いけど、銃とかいう最強武器が地下室にある件。

赤月ヤモリ

ep1 祖父の地下室。

 俺、ハンザには『恩恵』がない。


 恩恵とは、この世に生を受けた時に誰もが平等に受け取れる神からの贈り物のことだ。

 恩恵の内容によって、その人の能力という者が大きく変化する。


 例えば、剣士の恩恵を受けた人は、剣術が得意になり、魔法使いの恩恵を受けた人は魔法が得意になる。

 他にも商人、ガーディアン等。上は勇者や英雄から、下は泥棒や殺人鬼まで。


 多種多様な恩恵を受けて、人は生きている。

 だというのに、俺にはそれがない。

 死んだ親父にもなかった。お袋が農家という恩恵を持っていたおかげで、俺たち家族は何とかトマトを育てて生きていたが、本来、恩恵が与えられないなどということはあり得ないらしい。


 そんな両親も魔獣に食われて二年前に死に、俺はジジイと二人暮らしをしていた。



「御馳走さまじゃ、ハンザ」

「おう」


 夕餉を食べ終えたジジイはそのまま食後のお茶を楽しむ。

 ジジイは『鍛冶師』と言う恩恵を持っており、若い時は王都で鍛冶師としてそれなりに名をはせていたらしい。


「……ハンザ、ご飯はまだか?」


 今はこの通りただの耄碌ジジイだが。


「さっき食っただろうが」

「……はて、そうじゃったかのう」

「お腹を擦ってみろ」

「ふむ……おぉ! ポッコリ出ておる! 妊娠したのか!?」

「飯を食ったんだよ」

「なるほど黒い赤ちゃんか」

「汚ねぇこと言うんじゃねぇ」

「分かった。……ズズ……。で、飯はまだかのう」

「……まだだから先に風呂に入ってろ」

「そうか、ならば言葉に甘えて風呂に行くとするかのう」


 本当に腕利きの鍛冶師だったのだろうか。

 今の様子を見ている限りでは全く想像できない。


 それに、この家には剣も盾も、鎧も何も置いていない。

 今はやっていないとはいえ、昔の作品の一つも無いのはおかしい気がする。


 なんてことを考えて居たら、ジジイが半裸で戻ってきた。


「飯はまだか?」

「風呂に行け」


 はぁ、たぶん嘘なんだろうな。


 これが俺、ハンザの日常である。



  ◇



 俺が十六歳になった日、今まで疑問に思っていたことをジジイに訊いてみた。


「おいジジイ」

「何じゃ、飯か?」

「ちげぇよ。アンタ鍛冶師だったんだよな?」

「ふむ、それはもう腕利きの鍛冶師で、王都中からワシの所に武器を作ってくれと人が殺到しとったわ。婆さんはその時やってきた王都で一番美人の冒険者じゃった」

「……それってホントのことなのか?」

「むっ! 本当じゃぞ! 信じてくれないのか!? プンプンじゃぞ!」

「だってこの家には武器の一つも置いていないんだぜ?」


 すると、ジジイは一瞬表情を暗くした。


「置いてないわけでは、無いんじゃがのう……」

「あん?」

「……お前には、知る権利があるか。ハンザよ、この世で最強の武器とは何じゃと思う」

「あ? んなもん、恩恵と噛み合った武器だろ」

「恩恵無しで、じゃ」


 となれば何だろうか。あまり武器には詳しくないからな。


「遠距離から攻撃できる弓矢とかか?」

「しかし近距離に詰められるとどうしようもないぞ?」

「じゃあ剣か?」

「遠距離から攻撃されればどうしようもないぞ?」

「んじゃ、遠距離から強い攻撃が出来る魔法だな」

「詠唱している間に殺されるぞ?」

「うぜーな。さっさと答え言えよ」


 普通にイラっと来た。


「怒るでない。……わしはのう、ずっと考えておった。最強の武器は何か、と。戦うものが最強を追い求めるように、商人が富豪を目指すように、わしも、鍛冶師として最強の武器を追い求めたのじゃ」


 そういう物なのだろうか。

 確かに俺も最強においしいトマトを作ろうと日夜農作業に励んではいるが。


「わしは婆さんの恩恵を使い、それを探したのじゃ」

「ババアの?」


 確かそれは……


「『千里眼』」


 過去、未来、現在。限られた時間、限られた範囲のことしか見ることは出来ないが、人知を超越した能力。


「わしは婆さんに頼んだ。限られた範囲を武器に絞り、見てくれ、と。そうして婆さんは見たのじゃ。こことは違う・・・・・・どこか別の世界の・・・・・・・・最強・・にして最恐・・武器・・をのう」

「……」

「じゃが、それは禁忌じゃった。神は怒り、わしと婆さんの血を引く者に恩恵を与えなくなったのじゃ」

「だから俺も親父も恩恵が……」


 お袋はうちに嫁に来たから恩恵を持っていた、という訳か。


「わしは後悔し、作った最強にして最恐の武器を、地下室に隠し、誰にも渡さぬことを決意したのじゃ」


 チャリと、ジジイの胸元で黄金のかぎが揺れる。


「地下室何てあったのか」

「本棚の下に階段がある。……だからこれはハンザにくれてやろう」

「……いいのか?」

「わしのせいで迷惑をかけた子孫に、贈り物じゃ」

「いや、まぁ、もらえるもんは貰うけどよ」

「それに……」


 ジジイは言葉を区切ると、目を吊り上げ、頬を膨らませながら声を張り上げた。


「ちょっと他の世界覗いただけでこんなに怒る神様にわしもいらっとしとるのじゃ! いーじゃん! ちょっとくらい! 息子だけでなくかわいい孫にまでこんな……! だったらもういーもん! 最強の武器で孫に無双してもらうもん!」

「ジジイ……」


 子供じゃないんだから。


「ふん、神様のバーカ! ええい、さっさと地下室に行くぞ! お前に最強の武器の使い方を教えてやるのじゃ!」

「えぇ……まぁ、いいけどよ」


 ジジイの後を追い、彼の部屋に入り、本棚を退かす。

 するとジジイの言葉通り、地下へと続くであろう隠し扉を発見。

 先ほど貰った鍵を使って開けると、かび臭い階段が続いていた。


「行くのじゃ!」

「お、おう」


 階段を下りていくと、古びた木製のドアが現れた。

 ノブを回すと、カギはかかっていない。


 押し開くと、手狭ながらもしっかりした地下室がそこにはあった。

 といっても真っ暗で何も見え——パチ。うお、眩しい!


「い、いきなりなんだ!?」

「これは電気じゃ。他の世界を覗いて得た、部屋を明るくする技法じゃ」

「で、でんき?」


 疑問符を浮かべながらも昼間のように明るくなった地下室を見て——俺は絶句した。


 壁に並べてあるのは一メートルほどの黒い物体。それが一つ二つ……ざっと二十はある。

 試しに一つを手に持ってみると、ずっしりと重たかった。


「これ、鉄でできているのか?」

「あぁ、そうじゃ。そして、それこそがわしが作った最強にして最恐の武器——」


 ジジイは口元を三日月のように歪めて、神様にまで聞こえるような凛とした声で告げた。


「飯はまだか?」

「ふざけんなよジジイ」



——————————


勢いで書いたから続くかは知らん。

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