マグマ

メラー

マグマ

 溶岩の映像を見ると気にしてしまうことがあってさ。あれはどう見ても柔らかそうじゃない、だから、触るとどうなるんだろうかって、気になって仕方ない。


 そりゃ、熱湯を触るのとは違うよ。だって、君、熱湯を触ったことって、もちろんあるだろ?あれは熱いってわかっているんでさ、それと違って溶岩は触ったことないでしょ。だから、気になるんだ。


 溶岩を実際に触った人の話?溶岩流に飲まれて死んだ村人?わかってないな。誰が触ったか知らないけれど、僕はまだ溶岩を触ったことがないんだって。コップに入れて眺めてみたくもあるよ。だってあんな赤く光る水、ガラスのコップに入れて眺めたら絶対に素敵だろう?


 何?溶岩が見られる場所があるなら行くかって?そりゃあ、行くに決まってるだろう。多少危なくたっていくよ。


 火山には行ったことないんだよね。ほら、遠いじゃん。温泉は行ったことあるよ。街にあるからね。


 そうだな、悪くないよ。溶岩に呑まれる経験なんて、ほとんど誰もできないだろう。だから溶岩に呑まれて死ぬのも悪くない気がするね。


 そんなのは飛行機に乗っているときに、もし落ちたら、それはそれでつまらなくない人生だなって思うのと似たもので、今の下らない人生と比べたら気になって仕方がないよ。


 溶岩を触るわけないだろ?柵も越えないよ。滑り落ちたら死んでしまう。そんな、死ぬと分かっててそんなことする人いないよ。絶対に墜落する飛行機があったら乗るかって?バカ言えよ。乗るわけないだろう。死んでしまうじゃないか。


 うん?


 そうだよ。これは想像してるから楽しいの。もちろん今急にこのショッピングモールの下からマグマが湧いてきて、僕らが飲まれて死ぬってのは、確かにこのまま死ぬよりはつまらなくないけれどね、僕だって多少は、明日に希望を抱いているんだ。そうだろ?今、急に心臓発作を起こして死ぬのと、溶岩に呑まれて死んだり飛行機から落ちたりして死ぬのを比べたの。

あと五十年は生きるんだから、溶岩とか墜落とかより面白いこともそりゃあるかもしれないさ。


 待ってくれよ。そういうつもりで言ったわけじゃないんだぜ?だって、そりゃこうやって何も買わないで、ふらふら歩いて、疲れて帰るだけってつまんないよ。人の買い物に付き合うって結構だるいんだよ。


 僕にだって無駄遣いするお金があったら少しは楽しめるかもしれないけどさ、


 まあ、確かにそうだよ。用事のないお出かけもあっていいかもしれない。ひょっとしたらこうやって何も考えずにふらふら歩いていると面白いものに出会うことはあるものね。


 ちょっと、もう怒るのはやめてよ。反省してるんだって。確かに僕は多少バカなことを言ったよ。あぁ、すまなかった。君の前でそんなことを思うのは間違いだよね。本当に悪かったよ。


 うん。確かにそうだ。家にいてもつまらないから来たんだ。他に何か面白いことが思いつくなら言ってみろってのはその通り。そうだ。僕は何も思いつかない。家でぼけっとテレビ見て過ごす週末ほどつまらないものはないよね。毎週この調子だ。僕に非がある。


 もちろんだよ。そんなつもりで言ったんじゃないよ。そりゃ、もちろんさ。君と一緒にこうやってショッピングモールでぶらぶらしてるのって、やっぱり、溶岩に呑まれて死ぬよりよっぽど面白いぜ?


 そうだな。うん。確かに、君と一緒にいるまま、そうだ。今君の隣で心臓発作を起こして死んだら、最期まで君と一緒にいられたってことになる。


 そうだな、君といられるだけで、幸せなんだ僕は。確かに平和でいいよ。火山が噴火したりするの心配しないでいい毎日にもっと感謝してもいいね。これが一番幸せだよ。もちろんだ。言う通り。今死ぬのは、悪くないよな。

ああ。わかった。マグマの話は忘れてくれよ。どうか泣き止んでおくれよ。君が泣いてる姿を見てると、僕って最悪だなって思うんだ。うん。君が笑っているのが一番だよ。嘘なんて言ってない。ほら。


 謝られても気が済まない?うん、確かにそうだよね。気分ってそんなすぐ直んない。そうと分かってて気分を害するようなこと言ったんじゃないのよ。つまんないことで君の幸せなお出かけを駄目にしちゃうつもりはなかったんだって。


 そうだ、これ、見てよ。可愛いでしょ。これ買ってあげるって。

ベッドの脇にこれがあったらきっと盛り上がると思うんだ。ラヴァランプって時々、雑貨屋で見かけるけどさ、誰が買うんだ?っていっつも思うわけね。僕はこれ、雑貨屋と映画以外でこれを見たことがないんだ。ピンクと緑と水色があるな。好きな色を選びなよ。どれでも、大きいのでもいいよ。二つでも買うよ。


 本当にずっと疑問に思っていたんだよね。ラヴァランプって店に置いてて果たして売れるのか?誰が何を思って買うんだ?ってね。だって持ってるやつ、君の周りにだっていないだろ?不思議だよ。どういう人が買うのか、見当もつかなかった。


 でも、今日わかったよね。僕たちみたいなカップルが、仲直りの印に買うんだ。きっと僕らの為にこれって売ってるんだよ。素敵じゃない?火山みたいに激しくって、溶岩みたいに熱い恋、僕たちにぴったりでしょう?部屋に置こう。選んで?


 ん?いらない?どうして笑ってるの。許してくれるの?嬉しいな。ラヴァランプなんかいらない?


 そうだよね、僕は自分の悪いところすぐに反省できる人なの。ありがとう。よかった。


 なんだって?ラヴァランプはいらないけどしてほしいこと、そうだね。お金の無駄遣いは確かによくない。もっと良いことに使おう。

大分に連れてってほしい?


何?本当に火山を見てみたいだって?そうか、なら行っちゃおう。うん。


ね、楽しい人生だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マグマ メラー @borarasmerah

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ