学園のアイドルである幼馴染みといつの間にか子供がいることにされていた件

しゆの

第1話

「はあ~眠い……」


 高校に入学して二度目の春、俺は妹を保育園に預けてから学校に向かっていた。

 桜が満開に咲いていて綺麗だ。


はじめくんはいつも眠そうにしてるね」

「まあ、眠いだけだから気にするな」

「うん」


 俺の隣には幼馴染みである森園二乃もりぞのにのがおり、いつも一緒に登校している。

 二乃は学園のアイドルと呼ばれているほどの美少女で、いつも一緒にいる俺は他の男子から羨ましがられてしまう。

 サラサラとした腰まで伸びている黒髪は一切枝毛がないし、長いまつ毛にライトブラウンの大きな瞳、透き通るような白い肌は汚れがなく、学園のアイドルと呼ばれるのに相応しい容姿だ。

 物凄く可愛いからやっぱりモテ、俺の知る限りでも告白された回数は五十を越える。

 今日から新入生が入ってくるし、さらに告白されるだろう。

 だからこそ二乃の幼馴染みである俺は嫉妬の対象になってしまうが、そんなことは一切気にしていない。


「保育園の先生に夫婦に見られたね」

「ん? そうだな」


 今年から入ってきた先生らしく、制服を着ているのに俺たちのことを「仲の良い夫婦ですね」と言ってきた。

 今年二歳になる妹が二乃にもなついているため、保育園にも一緒に送り迎えをしてくれる。

 俺の親が仕事で朝が早いので、どうしても俺が妹を保育園に届けなければならない。

 これに関しては苦でないため、全く問題ないのだが。


「えへへ……啓くんと夫婦に見られてる。これなら上手くいくかも」


 頬を赤らめて二乃は何か言っているが、小声で俺には聞こえない。

 そんなニ乃を片目に学校に向かうのだった。


☆ ☆ ☆


村井むらいいぃぃ、どういうことだ?」


 教室に入って席に着いた瞬間に、友達である宮崎啓介みやざきけいすけが物凄い勢いで俺の元にやってきた。

 高校入学してからの知り合いで、たまに遊んだりしている。


「いきなりどうした?」

「どうしたもねえ、お前と森園さんとの間に子供がいるってどういうことだ?」


 完全に予想外の言葉に「……は?」俺は目を丸くしてしまう。

 俺とニ乃の間に子供がいる? 全く持って意味がわからない。

 そもそも俺もニ乃もそういった行為すらしていないので、子供が出来るなんてあり得ないのだ。

 それなのに何で宮崎は俺とニ乃の間に子供がいるのかと言うのだろうか?

 本当に謎で、俺の頭にははてなマークが浮かぶ。


「とぼけようとしても無駄だぞ。こっちには証拠がある」

「証拠?」


 宮崎は「ああ」と頷いてからスマホの画面を俺に見せてくる。

 画面にはニ乃のSNSで投稿したのが写っており、『実は私には子供がいます』と呟かれていて、俺とニ乃と妹であるあかねが写っている写真があった。

 春休みに一緒に撮ったのだが、まさかSNSに載せるなんて思わない。

 しかもこの投稿にはいいねやリツイートが凄く、子供がめちゃくちゃ可愛いなどのコメントまである。

 普段は呟き中心であまり写真を載せたりしないのだが、どういった心境の変化だろうか?

 同じクラスになったニ乃の方を見てみると、俺と同じく問いつめられているようで、少し苦笑していた。


「さあ、説明してもらおうか?」

「やーだよーだ」


 俺はニ乃の手を掴んで二人して教室を出て行った。


☆ ☆ ☆


「さて、説明願おうか」


 面倒くさくなってしまったので、俺はニ乃を連れてそのまま家に帰ってきた。

 今は他の人がいないため、二人で話すことが出来る。


「説明しなきゃダメ?」

「当たり前だ。何で子供がいるなんて嘘をついた?」


 ある程度予想はつくが、本人の口から説明してもらわなければならない。

 俺がヘタレなのが原因だろう。


「啓くんは私の気持ちに気づいているよね?」

「まあな。昔から一緒にいるし、ニ乃が俺のことを好きなのは知ってる」


 長年いれば、幼馴染みの気持ちくらいは何となくわかる。

 ニ乃については親より一緒にいるのだから。


「私はずっと啓くんのことが好きなの。啓くんが私の初恋……」


 耳まで真っ赤にしながらニ乃は告白をする。

 それについては前からわかっていたことだが、俺は気づかないフリをしていた。

 もちろんニ乃は大切な幼馴染みだし、いつかは俺から告白していた可能性が高い。

 でも、ニ乃にとってはもう待てなかったのだろう。


「今の啓くんに告白しても、茜ちゃんのお世話でデートに行けないからって待ってくれって言われそうだし……」

「そうだな。茜はまだ小さいからな」


 全く時間が取れないわけではないが、それでもかなり時間は制限される。

 だったらもう少しだけ待ってもらい、しばらくしたら俺から告白してニ乃と付き合うつもりだった。


「啓くんが私のことを好きってわかっていたけど、私は早く付き合いたかった……そう思ったら写真をSNSに載せちゃってた……」


 載せた効果はあったようで、既に学校の人たちは俺たちの間に子供がいると信じこんでいる。

 俺と付き合いたかったというのもあるが、ニ乃が写真を載せたのは他の人に告白されるのを防ぐためだろう。

 流石に高校生で子供がいる人に手を出そうとは誰も思わない。

 これからニ乃に告白する人はいなくなるだろう。


「啓くんにも茜ちゃんにも迷惑をかけてしまってたのはわかってる。でも、私はもう待てないの。どうしても今すぐに付き合いたいの」


 真剣な瞳を俺の方へと向ける。

 ニ乃自身はふざけて載せたわけではないというのがわかり、本気というのを感じた。

 それに比べて俺はどうだろうか?

 茜の世話というのを言い訳にして、ニ乃に告白することはなかった。

 前から好きだというのにも関わらず、今の関係が心地好くて自分から行動を起こそうとしない。

 そんな俺のことを見かねて、ニ乃はあんな行動を取ったのだ。

 絶対に付き合い……絶対に結婚したい……と思っているだろう。

 ここまで本気のニ乃の告白を断っていいのだろうか? いいわけがない。

 だから俺も真剣な顔をし、ニ乃の気持ちに応えることにした。


「ニ乃、大好きだ。もう俺は離さないから」


 告白の返事をして、俺はニ乃のことを抱きしめる。

 華奢な体躯は抱き締めただけで折れそうと思ったが、そんなことは関係ない。

 今はニ乃の身体を堪能するのみだ。

 思春期になってから初めて抱き締めるが、ニ乃の身体はとても柔らかくて魅力的。


「離さないで。ずっと私の側にいてね」

「もちろんだ」


 自然と俺たちの距離が縮まっていき、産まれて初めてのキスをした。

 ニ乃の唇は熱くて柔らかく、病み付きになってしまいそうになる。


「まだ茜ちゃんを迎えにいくのに時間があるし、私の初めてを貰って?」

「え? でも……」


 まだ付き合い始めたばっかで、初めてを貰ってもいいのだろうか?


「私たちはもうずっと一緒にいるんだよ。付き合い始めてからの時間は関係ないよ。それに子供がいるってことになるし、未経験のままじゃまずいでしょ」


 誘惑するかのように、ニ乃は俺の身体に二つの武器を押し付ける。

 ずっと付き合いたいと思っていたのだし、俺に初めてを捧げる覚悟は出来ているのだろう。

 それにしても付き合えても子供がいることを訂正するつもりはないようだ。

 まあ、告白されなくなるし、それはいいけど。


「わかった。でも、痛くても途中で止めることはしないから」

「うん。きて……」


 俺はニ乃をベッドに押し倒し、そのまま初めてを貰った。

 好きな人に初めてを捧げられたからか、ニ乃はとても幸せそうにしていたのは言うまでもない。

 次の日に学校で再度問いつめられたが、俺は開き直って「羨ましいだろ」と言いながらニ乃とキスをした。

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