74日後に完結する物語

 タイトルに冠された『まいにち』が示す通り、本作は2020年5月19日~7月31日の間、毎日欠かさず更新されました。
 時には昼間に、時には深夜に。
 数編紐解いて読んでみれば、ひとつひとつの話のクオリティの高さに驚かれることと思います。ショートショートとして出来のよい『不在堂書店』『同担拒否の女』、脱力系のオチが楽しい『雑記バラン』、謎のゲームを通して語られるゲーマーたちの友情と青春の物語『棒 オンライン』、タイトルからして嫌な予感しかしない『かわいそうなのでは抜けないゾウ』……
 本作品群の特徴として、概ねすべての物語がゆるやかにつながっています。バラバラに撒き散らされた色とりどりの短編が、寄り集まってモザイクアートを成すように、一組の男女とその他約一名が織り成す甘酸っぱいラブコメディ『ゾウ 転生編』や、誰もが知る有名なおとぎ話を驚くべき形に膨らませたSF『桃太郎フラグメント』を経て、最終章『反重力力学少女と女装少年の詩』へと収束していきます。
 それぞれが独立した物語ともなっていますので、どのように読んでも問題ないかと思いますが、リアルタイムで追いかけた読者のひとりとしては、できれば同じように読み進めて欲しいなあと思う次第です。つまり毎日、1話ずつ。
 毎日の生活のリズムの中に、物語が組み込まれていく感じ。毎朝のはじまりに観る朝の連続テレビ小説や、仕事終わりに聴くNHK-FMの『青春アドベンチャー』のような、いつの間にか物語が自分の心と身体に馴染んでいるような感覚。
 それは、時間をかけなければ味わうことのできない、贅沢なひとときです。