第4話 最初のデスゲームで女の子が死ぬとけっこうクルらしい
微妙に不穏な空気が漂う中、一行は左の部屋に不承不承入っていった。殺し合いをするとかこの中で誰かが死ぬとかではなく、ルールが伝えれるかわからない主催者のもとでちゃんとデスゲームが行われるかという別の不穏さで包まれていたのだ。
スタートからこけてどうするんだよ。仕掛け人である芦田は頭を抱えそうになった。
変に緊迫感が欠けたまま隣の部屋に全員入ると、扉が勝手に閉まった。『そのまましばらくお待ちください』という機械音声が流れてきた。
「あの、まだ時間があるようですし自己紹介でもしませんか? 私、叶えりかと言います。一応社会人です」
挙手して提案したのはデスゲームの主催者である叶であった。おそらくこのあたりで最初のグダグダした空気を一変しようとの考えだな、なら上手く自己紹介の流れを作るようにしなくちゃな。
「俺は芦田
「じゃあ次俺から、
「よろしくです。」
「カトレーヌ美樹よ。男と女を超越した存在とでも言っておきましょうか。東京の三鷹でバー経営を経営しているの。もうちょっと大人になったらうちの店に来てね。あとこれうちの店の名刺ね」
ゴリラオカマ改めカトレーヌ美樹が胸の谷間から取り出した生温かい店の名刺を皆に配った。
ちょっと微妙な空気を醸し出したがまだ許容範囲だと気持ち悪い感触がする名刺をポケットに入れて、最後はおじさんの番だと全員がそちらに向く。
「ちぃ、若いやつらがぞろぞろと。未来ある若者なんざみんな死ねばいいのに」
ちょっと!! 住所不定のおっさん!! いきなり空気ぶち壊さないで。デスゲームでよくあるいきなり反感を買うヒールキャラ役っているけど、今それする!? 主催者が微妙な空気を入れ換えようと提案したのにそれをぶち壊さないで!! ほらみんなおじさんに冷たい視線向けているよ。どうすんのこれ、みんながよい空気の中でちゃんとデスゲームしないと主催者側も困るんだから!
高校生組の片割れである鮭松があからさまに警戒心をむき出しにして、叶が柿本よりもおろおろし始めるたその直後、カトレーヌ美樹が割って入った。
「なによあんた。自分は人生負け組だから金こっちに寄こせって言いたいわけ?」
「そうだよ。俺なんか住所不定だし、無職なんてかっこ悪いから自称で建設業従事なんて職質されても、どうせ住所不定無職なんだろって見られるホームレスだぞ」
本当に住所不定無職だった。すんません。俺も住所不定無職だと思ってしまいました。結構気にしていたのね。
だがカトレーヌ美樹は何事もないように、煙草をくわえて立ちふさがる。
「あんたいくつよ」
「四十だよ」
「まだいけるじゃない。あたしなんてもう五十なのに店の経営うまくいかなくて首が回らないのよ。何もないより借金があるのが重たいのよ。まだ体が動ける年なんだから人生絶望するんじゃないよ。あたしが一千万手に入れたら、借金返して経営やり直したいの。もしも生きて帰れたら、そんときはあんたをボーイとして雇用してやってもいいわよ」
「ふん。生きてればな」
よっし。カトレーヌさんよくやった! やっぱりオカマは強い。空気を完全に変えやがった。
「あんた、社会人って言ったけどまだ十八かそこいらでしょ。それでこのゲームに来たって何か訳ありなわけ?」
オカマの視線が叶に向けられた。
「実は、母がパチンコで借金漬けになって蒸発して。知り合いの伝手で紹介してもらった会社で働いていたのですが、会社が倒産して借金を返す当てがなくなりかけて。最後の手段としてこれで」
「あんた苦労していたのね。こんな小さい子に借金して蒸発するだなんて悪い母親だよ」
この主催者、即席の作り話で母親を悪者にしやがった。つか、さっきニートしたいとか言ったよな。高卒ニートにしないように尻叩いた親に恨み持っていたな。
『参加者の諸君、待たせたな。これより第一日目のゲームを始めよう。まずそこの壁に片腕を入れてみよ』
ようやく録音していた主催者の声が流れてきて、指示通りに壁に開いてある穴の中に片腕を入れた途端、かちゃりと手首に手錠がかけられた。
『五分以内に片腕だけで箱から鍵を取り左の扉から脱出するように。もし五分を過ぎても鍵を入手できなければこの部屋は爆発する。ではスタート』
部屋に掛けられていたデジタル時計が動き出しタイマーが動き出す。
叶の計画ではこの部屋の鍵を取り出すには、イライラ棒をするように取り外せばよいだけといたって簡単だ。だがそれでは緊張感が生まれない、だからわざと叶が脱出に失敗してこれがデスゲームだと思わせるらしい。もちろん叶は爆発する寸前で脱出して部屋から逃げ出し、偽の死体を部屋に置いておく予定だ。
最初のデスゲームで若い女の子が犠牲になると他の参加者に精神的な負担を与えられるため効果絶大だそうだ。
こういう部分は結構考えているんだよなぁ。
『芦田さんいいですか。ぎりぎりまでここで外れないふりをしますから次の部屋への誘導をお願いしますね』
『了解、俺も演技するからな』
そうして開始されたデスゲームであるが、予想通り簡単なゲームであるからか二分と立たないうちに半数が鍵を取り出して脱出できた。
「やった。私も取れた」
「よくやった絵里、他の二人も急いで」
手間取っていた柿本がようやく脱出し、あとは仕掛け人である二人だけ残った。二分を切ったタイミングで、芦田が鍵を外すと叶に駆け寄り心配するような声をかける。
「おい、なにやってんだよ。早くしないと」
「あーだめ、全然クリアできない」
「くそ俺が手伝ってやる」
『言っておくが、手伝おうとした時点で部屋は爆発するから気を付けるように』
狙いすました、というか叶がちょうどよいタイミングで効果的な後付けのルール説明を録音した声が流れた。
残り一分を切ったところで、芦田はより緊迫感を出すために必死に励ます演技をした。
「早くしろ! 出ないと脱出できなくなるぞ」
「あの芦田さんすみません。手伝ってください。これ外れそうにないです」
「くそっ、俺だってやまやまだが部屋が爆発する以上は……え?」
「私こういうイライラ棒苦手で、ちっともゴールにたどり着けないんですぅぅ」
なにやってんだあああ!!!
バイトでデスゲームに巻き込まれたんですが、主催者がクソポンコツすぎてまともにゲームできない!! チクチクネズミ @tikutikumouse
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