第3話 面子が濃すぎる!
『キャー! やだー! 死にたくない』
『トシコー!!』
女の恐怖におびえる声に、脱出を果たした男が手を伸ばして助けようとするも制限時間がゼロになった瞬間、左右の壁が扉のように押しつぶした。そしてその壁の隙間から一筋の鮮血が滴り落ちた。
「ちくしょー! ○○島でゲームだなんて誘うんじゃなかった!!」という悔しさを上げる男の声と同時に無情な機械音声が『コングラチュレーション。一千万は君のものだ』と大量の札束が男の前に落ちる。ところで動画は終わった。
「すごっ。もう二百万再生」
「エロとグロはいつだってバズるからな」
あと数日で数人集めなければならない事態に、芦田は主催者の叶と共に主演と撮影をしたデスゲームの映像をSNSに流した。映像には主演である芦田の後ろ姿しか映ってなく声も叶が後撮りしたもので実際に死んではいないが、監視カメラの荒っぽい画像のおかげで臨場感が増して本当にデスゲームが行われていると思わられていて、どんどん再生数カウンターが回っていく。
「場所もどんな内容であるかも明確だし、これで人数は集まるだろう」
「芦田さん案外えぐい才能を持ってるわね。よかったらうちに就職します?」
「俺はホワイト企業でのんびりまったり過ごしたいから嫌だ」
***
そしてデスゲームが開始される十日目から数日たった六日目にようやく人数分の参加者六名が集まることができた。そのうちの二人は芦田と叶であるのだが。
『ちょっとなんで来たのが四人だけなの!? あんなに再生数回ったのに』
『なんか撮影に使った血が偽物だと見抜かれて興ざめしたらしく、そのままアカウント削除喰らったみたいで』
『ファック! ファクトチェッカー!』
イヤホン越しに聞こえてくる汚い言葉に辟易する芦田。頭数が足りない対策として芦田と叶も参加者に扮してゲームに参加する予定にはなっていた。
芦田は事前にこれは不正ではないのかと尋ねたが、デスゲーム会社の規定ではデスゲームの関係者なら主催者側の人間として参加してもよいことになっている。つまり二人は仕掛け人という形だ。
仕掛け人二人の耳には独自の電波で使える特注Bluetoothが耳につけられている。もちろん他の人に怪しまれないよう髪で隠してる。
『芦田さん我々は仕掛け人という立ち位置ですので、生き残っても賞金はもらえませんからね。ネコババもダメですからね』
『だったら危険手当を追加してほしいなぁ。さあ入るぞ』
二度目となる屋敷の舞台に入ると、既に入っていた叶を含めた参加者四名が勢ぞろいしていた。高校生と思われる制服を着た男女二人。もう一人は野球帽を被った無精ひげと不潔な匂いが漂っているいかにも住所不定無職な汚いおっさん。一気に年齢と職業のバランス崩れたな。まああんな形で人が来たんだから良しとしようと最後の一人を見る。
最後の一人は、腕が丸太のように太く、背は二メートルはあるであろう巨体。その唇は厚いルージュのリップがつけられて眼元にはやたら長いマスカラがつけられて……
ゴリラのオカマかよ……面子のバランスおかしいだろ。芦田は仕掛け人ながらもうちょっと人選なんとかしてくれと頭を抱えそうになった。
「あ~らまた若い子が来たじゃない。可哀想に親は何やっているんだか」
「それで、いつ金貰えんだ?」
「優君怖い」
「大丈夫俺の傍にいれば安心だよ」
それぞれが好き勝手言い合う中、叶と目が合い『スタートです』とアイコンタクトをして、舞台の上のテレビが映る。浮かび上がるのはもちろんあのフードの男だ。
『ようこそ諸君。これから始まる恐怖と欲望と殺戮のデスゲームの館へ』
デスゲームという言葉に男子高校生が最初に口火を切る。
「やはりネットの通りデスゲームか」
『そうだ。よく私の招待状にまんまと来てくれた。褒美の百万円という大金につられて。だがこの大金を得るのは一人だけ、そしてこの島からゲームの途中で出ることは一人として許されない』
ドドーン!! と爆発音が鳴った。だがあれは爆竹で鳴らしただけ、ボートは壊れていない。帰りはあのボートを芦田が乗ったボートとすり替えて損害賠償を請求されないようにする算段である。
参加者(芦田と叶は演技をして)全員デスゲームが本当に始まることに怯え震えだした。特に女子高生は彼氏にべったりとくっついて恐怖を抑えようと必死だ。
フフフと画面がいよいよデスゲームの説明に入る場面に切り替わろうとした時、帽子のおじさんが初めて主催者に対して声を上げた。
「なあだいたいなんで一千万なんだ。何人も殺してじゃ割に合わないだろ。せめて一億とか」
『フフフ――賞金に関しての額は君たちにはそれで十分だということだ』
一瞬音が途切れたが、これは叶が事前に撮っておいたものを耳元の特注Bluetoothで切り替えたからだ。本人が参加者として参戦している以上臨機応変な対応はできないが、貯め撮りしていた映像をその場その場の状況に合わせて応対するようだ。
ちなみにどうして賞金が一千万であるかと芦田が聞いたら「会社の規定でそれ以上出せない決まり何です。私のせいじゃないんです~」とテレビの裏事情みたいなことを言われて世知辛さが増した。
「これ録音? ちょっとラグがあったみたいだけどもしかして、どこかで操作しているんじゃない」
『その通り、私はここから君たちを見ているのだ。苦しむ姿を高いところから見学するためにね』
オカマの質問にちょうど当てはまる答えを返した。
「なあケータイつながらないんだけど。これ病気になったらどうするんだ?」
『君たちの意見はもっともだ。しかしこれは運命――ご安心を、六日分の食料はある。ただし一日ごとに一人分減る仕組み――私の予感では』
ん? ちょうどいいのがなかったのかなと無理やりつなぎ合わせた会話に少し怪しさを覚えた。
『さて、最初のゲームはまず隣の――』
「私降りる! ねえ家に帰してよ! 私のうち元財閥なのよ! あんたなんか一発で特定して警察につきつけてやるんだから」
『部屋に――ふぁふぁふぁ、警察に? なんとも愚かな。私を捕まえられ――』
「いいからゲームの説明をしろ!」
『ると思いい――隣の部屋に入り次――また会おう――ようこそ――ク――な――そ』
何混乱しているんだ!? もうちょっと操作丁寧にやれよ! ゲームの説明どころか会話にすらなってねー。
視線を叶の方に動かしてみると目がグルグルと回っていて完全に混乱している。
『もういいからここで終えろ!』
他の参加者に聞こえないよう通達すると、画面から男が急にぷつんと切れてしまった。
「これ、ちゃんとゲームとして成立できるのかしら……」とゴリラオカマの言葉の通り微妙な空気を抱えたままデスゲームは幕を開けた。
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