現代剣士は幕末に学ぶ

@mizhiro29

第1話

サッカー、野球、水泳、ピアノ…。

幼少期から何かを学び、それをずっと続けている人はどれくらいいるのだろうか。


決して少なくはないだろうが、多くもないだろう。成長していく過程で何か新しく熱中出来るものを見つけるからだ。


そういう意味では、3歳で夢中になれるものを見つけた神谷 和希(カミヤ カズキ)は非常に幸運だった。



和希の祖父は、剣道道場の師範を務めていた。

仕事で不在にしがちな両親に代わり、祖父母に育てられた和希が剣道に興味を持つのは、ごく自然なことであった。


怪我を心配する祖母や両親をよそに、和希は剣道に熱中していった。

上手くなるほど、強くなるほどに堅物な祖父が精一杯褒めてくれることが、剣道への熱意に拍車をかけた。


高校生となった和希は、全ての大会で優勝を収めるほどの実力を身につけた。


「強くなったなぁ、和希。同世代ではもう敵無しなんじゃないだろうかね。」

「ありがとう、じいちゃん!」

「剣道への熱意が勉強にも向かってくれれば良かったんだけどねぇ」


壁一面に飾られたトロフィーや賞状を眺め、喜ぶ祖父と和希とは対照的に、祖母は深いため息をついた。


「ははは…。しっかし、このトロフィーどこに置こう?もうスペースないんだよね」

「それなら、蔵を整理するか。大して使ってもおらんし、和希用のスペースを開ければ良いだろう。」

「でも、あそこには色々重たいものもありますよ?おじいさんには危なすぎますよ。」


神谷家は地元でも歴史ある家で、敷地内には祖父が師範を務める道場の他に大きな蔵がある。

換気のために戸を開けることはあるものの、重い扉を開け閉めしてまで物を収納することは稀で、ほとんど使わない建物となっていた。


「そしたら、俺が整理するよ。明日は休みだし。」

「ごめんねぇ和希。」

「いいよ、ばあちゃん。じいちゃんとばあちゃんが無理して怪我する方が心配だもん。」

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