野菜食いてえ。
若星 明花
第1話
俺の名前はカズキ。この春から就職のため東京に引っ越してきた新社会人だ。
それまでは、何処とは言わないが湘南の街の一部に住んでいた。
湘南といえば、江ノ島や鎌倉などのお高いリゾート地や藤沢みたいなお高い土地を思い浮かべるかも知れないが、俺が住んでいたのはその中でもあまり知名度が無い田舎の地…所謂、辺境の地という奴だ。
しかし、気候だけはよかったから、周りには畑が沢山あった。俺はそこで農作業をさせられながら育った。
そう、「させられながら」ね。
正直、野菜なんかに興味は無かった。そして畑仕事が大嫌いだった。毎日毎日食事の度に出されるサラダも嫌いだった。
だから高校を卒業したらすぐに東京のゲーム会社で働くことにしたんだ。
体力のあった俺はすぐに採用が決まった。
しかし、就職したばっかりの会社で先輩として紹介されたのは、小さい頃隣りに住んでいた節約家の女、ヒナだった。
「あれえ?カズ君やないの?どないしてこんな会社に来たん?」
「なんでもいいだろ。もう畑仕事ばっかりの毎日なんてうんざりだったんだ。」
「ふーん。あたしはええと思っとったけどな、農作業。」
「なんで?」
「だってあたし、野菜大好きやし、普通は無農薬野菜って高いんやで?それを自分達で作ってタダで食べられるなんて、うらやましくて仕方ないわ。」
そうなのか…と少しばかり俺は昔の食生活を思い直そうとしたが…ええ!?無農薬の野菜って高いのか!?
その日はヒナの言った事が気になって仕方なかったのだが、なにせ俺は新入社員だ。すると当然、会社の帰りは歓迎会という事で外食になるわけで。そしてそれが続くことにもなるわけで。
焼き鳥やら串カツやら焼肉やらをどんどん口の中に放り込まれた俺は幸せながらも何処か複雑な気持ちになっていた。
「どや?そろそろ肉ばっかりの食事にも飽きてきたやろ?」
入社して三か月目。ヒナがからかってきた。
「…まあな。」
「何なら今日帰り、一緒に買い物してから帰らん?安いスーパー教えたるわ」
「それは助かるな」
「…なぁ、ここら辺の人達ってほんとに野菜食べないんだな。焼き鳥屋でも串カツ屋でも付け合わせのキャベツの量がどう考えても少なかったぜ。おまけに人参は皮剥いたヤツばっかりだし」
「何を今更。だって付け合わせの量が少ないのなんて当たり前じゃない。」
その後、ヒナから教わったスーパーで俺は衝撃的な光景を目の当たりにした。
そこの買い物客は、ブロッコリーの葉は傍にあったごみ箱に捨て、キャベツや白菜の外側の葉も同じくごみ箱に捨てていたからだ。しかも陳列されている大根や人参は泥が落とされたものばかり。
「勿体無いなー。ブロッコリーの葉っぱはペットの餌に出来るし、大根とか人参は泥がついてた方が長く持つのに」
「そりゃそうやろ、葉物野菜の外側には農薬がついとるし…私だって農薬がついてなかったらクッキーの中に混ぜ込んでベジタブルクッキーにするんやけどね」
結局、かなりお金がかかってしまった。
しかし、ヒナはあまり野菜を買っていなかった。
「ああ…うちは家庭菜園やっとるからな。レタスとかニラ、トマトなんかはプランター栽培できるからな。ホントはカズキの家みたいに畑で栽培してみたいねんけど、ここらはそんな土地無いからな…」
俺は思った。東京でも家庭菜園なら野菜を育てられるのか。だったら俺も育ててみたい。昔の俺は畑があるくらい恵まれていたんだ…
「俺も…やってみようかな。家庭菜園。」
野菜食いてえ。 若星 明花 @hime_mirea_256
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