第20話 ソーニャ、肉便器になる

 ソーニャが愕然とする。

「ホームステイは終わりで……私が帰国スル!?」

 震える声で、

「なぜデス!?」

 ソーニャの父・イワンは答える。

「単純な理由デス。貴方をホームステイさせるお金が、もうないからデス」

 ソーニャの滞在金額は、学費・食費など月15万円。

 たしかに高額ではあるが……

「そんなはず無いデス。先祖からの遺産は、まだ結構残っているハズ」

 イワンは「いえ」と首を振り、

「先日、私が掃除機オナニーした際、キ●タマが両方引きちぎられまシタ……超高額な移植手術をおこなったため、遺産、全部無くなりまシタ」

「な、何やってんだよ」

 うめく僕に、イワンは肩を落とし、

「さすがに今回ばかりは、後悔していマス」

「だろう」

「ダ●ソンではなく、もっと吸引力の弱い掃除機でオナニーすべきでシタ」

 後悔の方向性がおかしい。

 イワンは、娘へ微笑みかける。

「ソーニャ。あなたのピアノの腕ならば稼げマス。帰ってきて、パパと暮らしましょー」

 あまりに身勝手すぎる。

 怒りに震える僕。その隣で、ソーニャはうつむき、

「でも……凌辱大国ニッポンで生き抜くため、あらゆる訓練をして、ようやく来日シタのに……」

「凌辱大国、ニッポン??」

 目をしばたたかせるイワン。

 ソーニャは言う。

「そうデス。パパが教えてくれたんデスよね! 『日本の高校は全て、肉便器を育成するための機関』だと」

 敬虔けいけんな信徒のごとく、固く思い込んでいる娘に。

 イワンは、あっさりと言った。


「あー、アレ全部嘘デース」


「え、パパ。何を言って」

「ソーニャを、日本に行かせたくなかったから適当に言ったんデスけど……予想以上に信じてしまい、驚きまシタ」

「そ、そんナ」

 ソーニャは、力なく両ひざをついた。

 うつろな瞳で、

「じゃあ……私が積み重ねてきた沢山の凌辱対策、全部、無駄だったのデスか……?」

 茫然自失ぼうぜんじしつのソーニャに、イワンが近づいてくる。

「さぁパパと一緒に、帰りま……」

 言葉が、止まる。

 僕がソーニャを守るように、立ちふさがったからだ。

「そんな事、させるかよ」

 イワンが「やれやれ、物わかりの悪い」と嘆息たんそく。おめーの掃除機オナニーが原因だろうが。

「さっきワタシ、言いまシタね? もうお金がないから、ホームステイできないのだと」

「できるさ。僕がもっとバイトして、ソーニャの滞在費を稼ぐ」

 僕は包茎手術の金を稼ぐため、肉体労働をしている。

(だから)

 月に15万円――そんな額を高校生が稼ぐのが、どれほど大変か分かるつもりだ。

(でも)

 それでも、ここは絶対に引けない。

 ソーニャと離ればなれになるなど、耐えられない。

「今、僕の貯金は20万ある。それだけあれば当面、ソーニャは日本に滞在できるだろ」

「大助、ダメ!」

 後ろから、服のすそを掴まれる。

 振り返ればソーニャが、潤んだ瞳で見上げてくる。

「それ、貴方が包茎手術のため貯めた、大切なお金。私のために使っちゃダメです」

 相変わらず、お前は健気だな。

 ……でも。

「お前はわかってないよ。なぜ僕が包茎手術したいのかを」

「えっ」

 そして僕は、大きく息を吸い……

 公園中に響き渡るほどの声で、咆哮ほうこうした。


「お前のためだよ!! ソーニャがいなくなったらチ●ポが剥けても、意味ねえんだよ!」


 ソーニャが息をのんだ。

「そ、それは、マサカ」

「僕はお前を――愛してるんだよ!!」」

「!!」

 ソーニャの瞳から、真珠のような涙がこぼれ落ちた。

 だが彼女は唇を噛み、

「私、わざわざチ●ポ、剥いてもらえる価値なんかない女デス」

「なぜだ」

「今までしてきた凌辱対策、全部無駄でシタ。そんなバカみたいな女のために……」

「バカみたい、じゃないよ」

 僕はソーニャを慰める……

 のではなく。


「お前は『バカみたい』じゃない――純然じゅんぜんたるバカだ!」


「えぇ!?」

 目を剥くソーニャに、たたみかける。

「僕、何回も言ったじゃん。『日本が凌辱国家なんて勘違いだよ』って。でも、聞く耳を持たなかった」

「そ、そうデス。本当にバカで、無駄な凌辱対策を……」

「いや、バカだが『無駄』ではない」

 不思議そうな顔をするソーニャに、言う。

「お前はそもそも、複数人に凌辱される『公衆便所』になることを想定していたんだろう」

「ハ、ハイ」

 公衆便所になっても耐えるため、ソーニャは――

 ピアノやサッカーで、手コキ足コキを鍛え。

 腹話術の要領ようりょうで、チ●ポをくわえながら喋ることが出来るようになり。

 疑似ザーメンを1日2リットル摂取し、大量のザーメン飲みを可能にした。

 他にも様々な技能を持っている。

「覚えたスキル。その全てを、僕のために使えばいい」

「ソ、ソレはつまり……私は、公衆便所ではなく――」

 ああ、と僕はうなずき、


「僕専用の、肉便器になれ!!」


 僕との性生活に活かせば、今までの特訓は、何一つ無駄じゃない!

「だ……大助……っ!」

 ソーニャは、ぽろぽろと涙をこぼし。

 天使のような笑顔で、


「ハイッ! 私――大助専用の、肉便器になりマス!!」


 飛びついてきた彼女を、強く抱きしめる。

 そして――

 ソーニャをアヘ顔ダブルピースさせ、イワンに見せつけてやる。

「聞いただろ。もうソーニャは、アンタの娘である以前に、僕の肉便器だ」

 凌辱エロゲーの、竿役さおやくみたいな台詞だな。

「そ、そんなコト、認め……」

 イワンが何か言いかけた時。

 

「よ、よく言ったよぉぉおお~~~~大助君! 立派になったねぇ!!」


 琴ねえが号泣しながら現れた。

 そして頭痛をこらえるような仕草の、剣崎さんも。

「泣くとこあったか? それに大助君にソーニャ……一世一代の告白に、包茎だの公衆便所だの……」

「剣崎さんも、恋すれば分かりマース」

「わかりたくもないわ!!」

 肉便器にマウントを撮られて、剣崎さんが叫ぶ。

 続いて今度は。


「帰国なんて、私も許さないわ」


 上半身をベニヤ板に突っ込んだ少女、雌花みのりが現れた。

 雌花は『壁尻のまま、おま●こをピンクローターで刺激されるのが、ピアノの最適の練習法』だと、思い込んでいる。

 ゆえに、普段から壁尻状態で過ごしている。どこまでもピアノにストイックなヤツだ。

「私が勝つまで、あなたは日本にいるのよぉぉおおほおおっーーー!」

 ビクンビクン! と悶絶する雌花。ピンクローターが作動したな。

「何やってるんだよ。雌花さん」

 四つん這いで近づいてきたのは、首輪にリードをつけた美少年・青山ミコト。

 イワンを睨みつけ、

「僕はソーニャさんに、犬としてのよろこびを教えてもらった。そんな恩人を帰すわけにはいかないな」

 恩人と言い切れるお前すげえな。

 そしてイワンは……

「貴方たち、ソーニャのお友達デスか」

 琴ねえ、剣崎さん、雌花、青山を見回す。

 そして最後に、娘を見つめて、

「ソーニャ。いい友人に、恵まれましたネ」

(壁尻ピンクローターとか、犬とかいるけど……)

 まあ大麻ジャンキーだから、価値観が狂ってるのだろう。

 そしてイワンは、寂しげに笑い、

「また明日、説得にきマス。今日はホテルに戻り、大麻でも吸ってリラックスするとしまショウ」

 もしや、まだソーニャの帰国を諦めてないのか? 一体どうすれば――

(ん?)

 いま、大麻って言った?


「君たち、何を騒いでいる!」


 突然の甲高い声。

 騒ぎを聞きつけた婦警が近づいてきたのだ。

(あ、あの人は)

 以前に電車で、僕を痴漢と勘違いし、逮捕しようとした美人婦警。

 イワンに職質を開始……あっ、ポケットから白い粉入りの、袋が出てきた。大麻だろう。

 祖国では合法でも、日本では犯罪である。

 そしてイワンは逮捕された。ついでに犬の恰好をしていた青山ミコトも連行されていった。まあ綺麗な婦警さんに首輪を引かれて、嬉しそうではあったが。

「あー、パパ、また捕まりまシタか」

 ソーニャは全く驚かない。彼女いわく祖国では、公然猥褻わいせつでの逮捕が日常茶飯事だったらしい。

 剣崎さんが、空気を変えるように手を叩いて、

「よし、気を取り直してピクニックだ! パーッとやろうではないか!」

「いいわね」

 うなずく雌花。

 ビニールシートをしき、弁当を広げ、紙コップにジュースを注ぐ。

 琴ねえが、紙コップを掲げて、 

「では乾杯――ソーニャが、大助君の肉便器になったことを祝して!」

「『付き合ったことを祝して』でいいだろが!!」

 剣崎さんが叫ぶ。

 ソーニャが、とても幸せそうに笑っている。

(この笑顔を守るためなら)

 僕は、なんだってする。



そして。

 ソーニャの父・イワンは日本で裁判を受けたあと、強制送還された。

 大麻の持ち込みの目的が、販売でなく自分で使うためだったから、実刑を免れたらしい。

 とはいえ裁判所の命令で、五年間は日本へ入国禁止である。

(あの毒親どくおやがいない間に、既成事実を積み重ねてやる)

 ソーニャに日本国籍を取って貰ったり……僕と結婚したり。そうすればソーニャは一生、日本で暮らせるだろう。

 だが、当面の問題はやはり金――ソーニャの留学費用・月15万円。

 それを稼ぐため、僕とソーニャはバイト三昧ざんまい

 でも好きな子と一緒にいるためだ。なにも辛くない。

 忙しくて夕食を作る暇がないと、琴ねえと剣崎さんが食事に招待してくれたりするし……ホント優しい人たちだ。

(しかし青山ミコトは、意外な展開になったな)

 アイツは、なんだかんだで、あの婦警さんと付き合うことになった。深夜、四つん這い散歩させてもらってるらしい。婦警さんがクビにならないことを祈ろう。

 雌花みのりは、壁尻ピンクローター練習のおかげか知らないが、大いにピアノが上達した。国際大会で何度も優勝。

 今度『プロフェッショナル』で特集されるらしいけど、あいつの練習風景、NHKで放送できねえだろ。


 そしてまた、僕とソーニャの1日が始まる。

「ご、ごめんソーニャ」

 僕はソーニャを、いたわるように撫でた。

「朝から滅茶苦茶Hしてしまって。エプロン姿のお前を見たら、我慢できなくなって」

「いえ、嬉しいデス。肉便器冥利みょうりに尽きマス」

「初めて聞く冥利みょうりだな……」

 こんな具合に、幸せに過ごしている。 

 ただ唯一にして、最大の悩みは――

「なあソーニャ。一日あたりの射精回数、もう少し増やさせてくれない?

「ダメです。大助の健康のためデス」

 いまだに『一日五回』に射精管理されていることだ。

(少なくとも、十二回は欲しいよ)

 僕専用の肉便器は、世界でいちばん魅力的なのだから。




(完)





後書き:最終回です。

 とはいっても、なにかネタが思いついたら外伝的な話しを書くかもしれませんが。

 今までお読みいただき、ありがとうございました。

 楽しんで書けたので、読んだ人にも楽しんでいただければ嬉しいです。


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転校してきた北欧美少女が、肉便器になることを想定して備えている 壱日千次 @itinitisenji

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