第19話 大助、大切なことを思い出す

 休日。

 僕はソーニャと公園に来ていた。

 今日はいつもの『ソーニャに首輪つけて四つん這い』のような凌辱対策でなく、普通のピクニックだ。

(首輪つけて四つん這いを『いつものような』という時点で僕も末期だな)

 などと思っていると。

「わーん、わーん」

 泣き声が聞こえた。見れば、ぬいぐるみを抱えた幼女がベソをかいている。

 ソーニャが駈け寄り、屈んで目の高さを合わせて、

「どうしまシタ?」

「あのね。おともだちのクマちゃんと遊んでたらね。転んで、傷つけちゃったの」

 幼女が、熊のぬいぐるみを差し出す。

 なるほど。首の部分が裂けて、綿がはみ出ている。

「どれ、私に貸してくだサイ」

 ソーニャは、上着のポケットからソーイングセットを取り出し、あっという間に直してしまった。

「わぁ! ありがとう!」

 幼女は笑顔になり、何度も礼を言いながら去っていく。

 手を振るソーニャに、僕は、

「ソーイングセットなんて、持ち歩いてたんだな」

「ええ——凌辱対策の一つデス。犯される際、ワイシャツ等のボタンをブチブチッ! と引き裂かれても、これがあれば治せるでショウ?」

「相変わらず、心配する所がおかしいな」

 ソーニャは凌辱に備え、様々な特技を習得している。

 両手両足でチ●ポをしごく時のため、ピアノやサッカーを覚えたり。

 チ●ポを口にツッコまれた状態でも『大きい……』と言うために、腹話術を習得したり。

 ザーメンを飲む訓練のため、本物そっくりの『疑似ザーメン』を作れたり……これは別に特技ではないな。

 ソーニャは豊かな胸を張り、

「『常在じょうざい戦場』ならぬ、『常在ヤリ部屋』。その心得でなければ、凌辱大国ニッポンは生き抜けまセン」

 相変わらず、ズレた事を言っている。

 ——でも。

(ソーニャはなぜ『凌辱大国』なんて思い込んでる日本に、あらゆる特訓をしてまで来たんだろ?)

 以前からの疑問である。

 近いうちに尋ねてみよう。

(しかし、早く来すぎちゃったかな。みんなまだ来てないや)

 今日のピクニックは、僕とソーニャ、琴ねえ、剣崎さんという、いつものメンバー以外に

 雌花めばなみのり

 青山ミコト

 が参加する。お弁当を持ち寄って、食べるのだ。


 雌花みのりはピアノの名手。

 以前、ソーニャとピアノ対決した結果——

 『壁に上半身を突っ込んだ"壁尻状態”のまま、おま●こをピンクローターで刺激されるのが、ピアノの最適の練習法』だと、思い込んでしまったヤツ。


 青山ミコトは、以前ソーニャに告白した男子。

 あまりに美形なため、ソーニャから『男装女子』と勘違いされてしまった。

 そして凌辱対策に付き合わされた結果、ドMの犬として目覚めた。

 時折ソーニャが、首にリードをつけて散歩させている。


 そんな、計六人でのピクニックだ。

 待ち合わせの時間まで、ぶらぶらと公園内を散策する。

 ソーニャが掲示板を指さし、

「ねえ大助。『公園の草刈りボランティア募集』ですって。今度やってみマス」

「いい事だと思うけど、急にどうして?」

「草が伸びてると、虫が発生しマス。この公園で凌辱される際、虫に刺されたらイヤですし」

「他にイヤな所があるだろ……」

 あぁ、とソーニャは頷き、

「口に無理矢理ネジ込まれる、大助のチ●ポが包茎ほうけいなとこデスか?」

「なんで僕が凌辱してるんだよ!」

 軽く小突くと、ソーニャがきゃっきゃと笑った。

(ああ——幸せだ)

 キ●ガイじみた会話であろうと、僕が幸せだからそれでいいんだ。

 もう大好き。結婚したい……

(……でも)

 ソーニャ、好きな人いるんだよな)

 以前、ソーニャが雌花みのりとピアノ対決した際、言っていたのだ。

(いったい誰だろう。祖国の人かな)

 まあ悩んでもしょうがない。

 

 きょう告白するし、あとはなるようになれだ。


 頑張ろう——と覚悟を決めていると。

「あっ、アレは」

 ソーニャが驚いている。その視線を追うと、鹿をした遊具があった。

「数年前パパが、離婚したママを思い浮かべて、立ちバックの要領ようりょうで腰を叩きつけてた鹿デス」

「何その地獄絵図……って」

 数年前?

 それはつまり。

「君は以前、日本に——このあたりに来てたの?」

 ソーニャは「あっ」と口元を押さえたあと。

 悪戯いたずらがバレた子供のように笑い、頷いた。

「気付かれちゃいまシタか。その時わたし——大助と話してるんデスよ?」

「え、ホントに!?」

 僕、外国人の子と話したことなんて、一度しかないぞ。

 ——小六の時。

 商店街のベンチに座っていた、外人少女。あまりに寂しそうだったので声をかけ、琴ねえも交えて遊んだ。(※『ソーニャの過去』参照)

「あれは……ソーニャだったのか」

「ハイ。やっと気付いてくれまシタか」

 同一人物と気付かなかったのは、理由がある。

「あのとき君は、コートのフードを深くかぶってて、顔が全く見えなかったからさ」

「当時は肌がとても弱くて、日焼け厳禁だったのデス」

 ソーニャは、懐かしそうに空を見上げて、

「一緒に過ごした事、大切な思い出デス……遊んだり、桜を見たり、琴葉から『大助を射精管理するつもり』だと教えてもらったり」

「そうか……」

 いま僕は、ソーニャに『一日五回』に射精管理されている。

 射精管理のバトンは、いつのまにか……琴ねえからソーニャに引き継がれていたのだ。

「じゃあソーニャ。『凌辱大国』と思い込んでる日本にホームステイしたのは、その旅行で気に入ったから?」

「それもありマスが」

 ソーニャはうつむいた。

 しばらくモジモジしたあと……

 勇気を振り絞るように、僕を見上げてきて、

「肉便器になるのを乗り越えても、結ばれたい男性が、日本にいるからデス!」

「えっ」

 その男性が、誰なのかは——

 ソーニャの今の姿が、雄弁に物語ものがたっている。

 耳まで真っ赤で。こちらを愛おしげに見つめていて。

 好きな人って、まさか……

(僕!?)

 ソーニャは僕と結ばれたいから、厳しい凌辱対策をしてまで、来日したの!?

(なんて健気なんだよ!!)

 まったく必要ない健気さではあるけど!!

 だめだ——ソーニャが愛おしすぎて、気持ちを抑えきれない。

 いますぐ告白するぞ!

「ソーニャ。聞いてくれ」

「ハ、ハイ」

 ソーニャの表情は、不安と緊張に満ちている。きっと僕も同じだろう。

 僕が、口を開こうとしたとき——


「ソーニャ、ここにいまシタか」


 僕達は、揃ってビクッとした。

 声の方を見れば、大柄な白人男性がいる。 

 間違いない。ソーニャの父だ……なぜなら、鹿の遊具に立ちバックの要領で、腰を叩きつけているのだから!

「ぎゃあああ!」「変質者よ!」

 悲鳴とともに、数組の親子連れが逃げていく。

 ソーニャ父は、そんな騒ぎが全く気にならないようだ。鹿の遊具を愛撫しながら、

「オウ! 『現地妻』ならぬ、『現地鹿』としてはまあまあデスね」

 さすが重度の大麻ジャンキー。イカれてんな……と思う僕を見てきて、

「あなたは江口大助君デスね? 私はイワン・ラーゲルフェルト。娘がいつもお世話になっていマス」

「……こちらこそ」

 こいつはソーニャに『日本は凌辱国家』などと教えた諸悪の根源。

 警戒を強める僕に。

 ソーニャの父イワンは、あまりに衝撃的なことを言った。


「今日来たのはデスね、ホームステイを終わらせるため。さあ国へ帰りますよ。ソーニャ」




続く(既に次の話をアップ済みです)




後書き:モチベーションにつながるので、


面白かったら作品の目次ページの、レビュー欄から

☆、レビュー等での評価お願いいたします

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る