第18話 ソーニャ、大助の家に来た理由を語る

 ——先日、僕は、ソーニャが青山ミコトの告白を了承したのを目撃。

 深く絶望し、バイトで溜めた金(包茎手術のため)で、海外を放浪しようと思ったが……

(付き合ってる訳じゃなかった! やったー!)

 まさに起死回生。よかったよかった。

(でも)

 この一件で、僕がどれ程ソーニャを好きかということがわかった。

 近いうちに告白は、必ずしよう。

 

 それはともかく、ソーニャとの日常が戻ってきた。

「うーん、暑いデス」

 休日。

 居間でソーニャがヘバっていた。初夏にさしかかり、暑さが厳しくなっている。

「じゃあそろそろ、クーラーつけようか」

「わーい!」

 万歳するソーニャを横目に、クーラーのリモコンを操作。

(あ、そうだ)

 押し入れをあけ……扇風機を取り出した。クーラーと併用すると、省エネになるそうだ。

随分ずいぶん、年代物の扇風機デスね」

 ソーニャが言うとおり、二十年ほど前の製品だ。

 だが、技術者である父さんがメンテナンスしてるため、まだ現役……よし、問題なく動く。

「アレ? これは、もしかシテ」

 ソーニャが怪訝けげんな顔をし、スマホを操作。

 画面を僕に見せてくる。写真が表示されていた。

 

 この扇風機を挟んで、僕の父と、白人男性が笑っている。

 二人とも若い——20歳くらいかな。


「この人、もしかして」

「私のパパです。昔、日本に留学していた時の写真だソウで」

 ソーニャのパパは、娘に『日本は肉便器育成国家』とか教えた諸悪の根源だ。いつか殴ろう。

(でも父さんと、ソーニャのパパは知りあいだったのか。初めて知った)

 父さん単身赴任してるから、ここ一年くらいまともに喋ってないしな。

 ソーニャは目を細めて、

「パパは言いまシタ。『パパと江口(※大助の家の名字)は兄弟ブラザーなのデスよ』と。

 へえ、そんなに仲良かったのか。違う国の人間が『兄弟ブラザー』って呼び合うって、なんかいな。

「二人が知り合ったキッカケは、以下のようなものだったそうデス——」

 ソーニャが語りはじめる。

「留学中、私のパパが自宅アパートで『扇風機オナニー』をしながら『気持ちイイ! でもアソコ千切ちぎれそうです、メス扇風機さん!!』と射精していると……」

「出だしからパンチきき過ぎじゃね?」

 ちなみに『扇風機オナニー』とは……


 扇風機のカバー、羽根を取り外す

 ↓

 むき出しになったモーターに、オナホールをつける

 ↓

 高速回転するオナホールにチ●ポを入れる


 というものらしい。人類の発想力に感嘆せずにはいられない。

 ソーニャが続ける。

「扇風機オナニーの最中さなか、アパートの隣の部屋に住んでいた、大助の父が怒鳴りこんできたそうデス」

 そりゃ隣人が『アソコ千切ちぎれそうです、メス扇風機さん!!』なんて絶叫してたら怒るわ。

「大助の父は言いまシタ。『こら! 扇風機オナニーは『強』でなく『弱』でしろ! 将来子供が作れなくなるぞ!』と」

「怒るのそこか」

 ただ、そのアドバイスがなければソーニャパパの陰茎いんけいは壊れ、ソーニャは生まれなかったかもしれない。

(ありがとう父さん)

 感謝しつつ、ソーニャの昔話に耳を傾ける……



 私のパパは、大助父に言いまシタ。

「何度も俺は『弱』で扇風機オナニーしようとしまシタ。でも……」

 床を叩いて、

「『弱』だと……物足りないんデス……!」

「フム」

 大助父は考えたあと、

「では『リズム風』を使ったらどうだ?」

 リズム風は、扇風機の機能のひとつ——風の強さをランダムに変化させるものデス。

 これならオナホールの回転もランダムにでき、緩急かんきゅうが生まれる。単なる『強』より快感を得られるかもしれないし、陰茎への負担も軽減できる。

OHオー! 早速試してみマス!」

 喜ぶパパですが、ここで一つ問題がありまシタ。

 パパはすでに五回も射精していたため、リズム風を使った実験ができなかったのデス。

 絶望するパパに、大助の父は言いまシタ。

「じゃあ俺が試してやる。リズム風が気持ちよければ、お前はもう『強』による扇風機オナニーはやめろ」

OHオー……サムライ……」

 そう言って大助父は、リズム風の機能による、扇風機オナニーを始めました。

 結果は、成功でシタ。



 ソーニャは昔話を、こう言って終える。

「で、私のパパと大助父は——同じメス扇風機を抱いた、穴兄弟ホール・ブラザーになったのデス」

「ブラザーって、穴兄弟あなきょうだいって意味かよ!」

 ちなみに英語で、穴兄弟あなきょうだいholeホール brothersブラザーズ というらしい。まんまだな。

 改めて写真を見る。

(しかし父さんとソーニャのパパ、穴兄弟にしてもらった扇風機を挟んで、写真とったのかよ……イカれてんな……)

 心なしか写真の扇風機も、アヘ顔ダブルピースしてるように見える。

 ソーニャが言う。

「パパは留学を終えて帰国する際、このメス扇風機を、大助の父に渡したそうデス」

 だから家に、これがあったのだ。

「私が、この家にホームステイできるのは、こうして……パパと大助の父が知りあったからなのデス」

「数奇な運命だな」

「ええ。このメス扇風機で、パパがオナニーしなければ——私と大助は、いま一緒に、いなかったでショウ」

 ソーニャが優しく、扇風機を撫でる。風で長い銀髪がなびいた。

「ありがとうございマス。メス扇風機さん」

 僕もソーニャにならって撫でた。

「フフ。本当に感謝デスね」

 ソーニャが笑った。

 そして、頬を真っ赤にして、

「どれくらい感謝しているかというと……あくまで、あくまで仮定の話デスよ?」

「ん?」

「私と大助が結婚することになったら、メス扇風機さんにも披露宴に出席して欲しい程デス」

 結婚!?

 脳が沸騰ふっとうした。

「そ、そうしよう! キャンドルサービスの時、風で火が揺れて苦労するかもしれないけど!」

「か、仮定の話ですってば、もぅ!」

 照れ合う僕らに、メス扇風機さんが優しい風を送ってくださっていた。





  

後書き:連載のモチベーションにつながるので、

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